mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

You’d be so nice to come home to.



昨年の10月24日 タイラー・オースティンは球団を通じて次のような言葉を残し、羽田空港から帰国の途に着いた。


「残念ながら自分たちの思うような結果とはならなかったが、球場やテレビなどを通して応援してくださったファンの皆さまには大変感謝している」


その日のブログで私は次のように書いていた。


“シーズン終了に先立って彼が離日するのは少し寂しく、まさに、”When we say good-bye, I die a little.”という気持ちになるが、シーズンオフには彼の放った28本のホームランの動画を繰り返し見ることにしよう。


そして、いつもの冬のように、誰にも頼まれていないチーム編成の仕事や打順の最適化、そして先発投手のローテーションや勝ちパターンのリリーフピッチャーの人選と登板順序などを考えて過ごそう。


孤独というものは、時として最上の交際でもあるし、しばしの別離は再会をいっそう快いものにする。 ジョン・ミルトン“


その後、残留が既定路線と言われつつもなかなか契約の公式発表がなく、以前同様の状況で帰日を拒否したグリエル選手のことがトラウマになっていた私はヤキモキしながら日々を過ごしていた。


そして12月22日未明に年末最大の朗報が知らされた。


(サンケイスポーツ記事より抜粋)

“来季から3年総額8億5000万円規模で合意し、4年後の2025年の契約オプションも球団が保有する。近日中に発表される。“


ヤンキースのメガプロスペクトだったオースティン選手の実力が本物であることは、以前にも書いたバレルの指標からも明らかだ。


バレルというのは、速度と角度とが下の図の赤い小さな範囲に入るような打球のことで、この条件を満たせば50%の確率で安打となり、長打率つまり塁打の期待値は1.5を超えることになる。



図を見てお分かりいただけるように、打球が速くなるほど(下の図の半円の外側に行くほど)バレルは大きく広がっている。バレルになる打球速度の下限は158km/hだが、この時には26〜30度でボールが上がらなければいけないのに対して、速度が187 km/hまでくると8〜50度というかなり広い範囲がバレルとなる。


最近メジャーで取り沙汰されているバレルと言う指標は、ある打者が打撃をした時に、その打球がバレルとなる確率を示している。


横浜に来る前年のメジャーでのタイラー・オースティンのバレルは15.9%と極めて高く、ナ・リーグのホームラン王になったピート・アロンソ(15.8%)や40ホームラン40盗塁を達成しかけたアクーニャ・ジュニア(15%)よりも高い。


三振率が高かったことを割り引いても、これだけ有望な選手がよくぞ横浜に来てくれたと思うし、そして米国代表として銀メダルを獲得した後もよくぞベイスターズに残ってくれたと思う。


それでは、昨日来日した3人の外国人選手と同様に彼のNPBでのこれまでの成績を振り返り、今シーズンへの期待について書いてみよう。




上の表から明らかな通り、オースティン選手の打撃成績は全ての面でずば抜けていて、ほぼ全ての指標で昨年度の自身の数値を上回った。特に、打者の得点への貢献を表す総合指標であるOPSでは1.006という素晴らしい数字を残している。


昨シーズン400以上打席に立った打者の中でOPSが1を上回ったのは12球団全体でカープの鈴木誠也(1.072)とオースティン選手だけであり、まさに球界を代表する強打者と言って良い。


球種別の成績を詳しくみても、フォーシーム、ツーシームそしてスライダーに強い。特に、フォーシームに対する成績(22.8)はリーグでも最高レベルだ。


他の球種についても大きな弱点は無いが、フォークボールに対する指標(wSF)が-3.1とやや悪い。唯一気になる点と言えばこれだろう。


彼の対戦相手別の打率を見てみると、


ヤクルト .275 、阪神 .377、巨人 .186、広島 .348、中日 .246


となっている。このうち、中日の場合は打者に不利なバンテリンドームでの打率が.182と低いことが響いているが、横浜スタジアムでは結構打っている。


気になるのは巨人に対しての打率が.186と低いことだ。対戦相手のピッチャーごとに見てみると、先発は.250程度打っている場合が多いのだが、全く打てていないリリーフピッチャーが数人いる。


カウント別で見ると、次のように追い込まれた状況での打率が低いことがわかる。どんな打者でも追い込まれると打ち取られる確率が上がるのは当たり前だが、彼の場合は通常の打撃成績が良いだけにその傾向がより顕著なように思える。


0ボール – 2ストライク:.188

1ボール – 2ストライク:.207

2ボール – 2ストライク:.134


このことは、フォークボールに対する彼の弱点と関係しているような気がする。

バッテリーからすると、何とかファウル2本で追い込めば、その後、ボールになるフォークボールで打ち取れる可能性が高いと考えるだろう。


巨人バッテリーは、このような攻めをすることに成功していたのではないか?

昨シーズンの巨人のバッテリーコーチだった相川亮二さんが今年からベイスターズに復帰したので、この辺りの対抗策を練ることができると思う。


もう一つ意外なデータを紹介する。

オースティン選手はチャンスに強いという印象があるのだが、実は、ランナー1・3塁での打率が.167、2・3塁で.143と打てていない。


これも、長打で大量失点になることを恐れたバッテリーが四球覚悟でボールになるフォークを投げ、意欲的なバッティングをするオースティン選手が空振りあるいは凡打に終わるという傾向が出ているのではないか?

実際、フォアボールを出すことが許されない満塁になると、彼の打率は.375と跳ね上がる。


低めのストレートをすくい上げるように打つホームランは彼の大きな魅力だが、同じ軌道からボールゾーンに落ちていくフォークに空振りするシーンも何度か見た記憶がある。強みと弱みは隣り合わせなのだ。


オースティン選手の素晴らしい成績を見ると、これ以上を望むのは欲張りすぎだとは思う。しかし、巨人戦の打撃成績にも表れているように、各チームはあの手この手で攻略法を探してくるのだ。決して現状に満足してはいけないだろう。


対策として私が提案したいのは、2ストライクを取られた後はバッティングのモードを変えることだ。変化球、特にフォークボールに的を絞ってポイントを遅らせ長くボールを見る。そして、速球はカットし、軽打を狙う。


このモードがあることが明確になるだけで、相手バッテリーは攻め方を考え直さざるを得ない。


まあ、そこのところはこれから追々やっていけば良い。

何と言ってもタイラー・オースティンは無事に横浜に帰ってきたのだ。今はそれをひたすら喜ぼう。


コロナ禍での静かな球場しか知らないオースティン選手に、今年こそは、35,000人のプロ野球ファンで埋め尽くされ青く染まった横浜スタジアムでグラウンドが震えるほどの声援を送ろうぜ。


You’d be so nice to come home to.

コロナ禍が終わって横浜スタジアムに帰れた時、そこに君がいてくれたら素晴らしい(意訳)