mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

雌伏の時を過ごすクローザー候補たち



ベイスターズのクローザー候補のうち新加入で未だ来日の目処の立っていないクリスキー投手を除く三嶋一輝、山﨑康晃、伊勢大夢の3人の投手達が神奈川県内で合同自主トレを行なった様子がWith Baystarsで紹介された。


この3人は昨シーズン嬉しいことよりも悔しいことの方が多かったのではないか。
来週から始まる春季キャンプでじっくりと力を養って開幕に備えて欲しい。


昨シーズンに垣間見えたそれぞれの反省点と彼らの今オフの努力を整理してみよう。


#17 三嶋一輝投手


三嶋投手の月別成績を見てみると、7月、9月、10月の3ヶ月は防御率が7点台になっており、他の月と比べて極端に悪い。9試合に登板した4月の防御率0.00、11試合登板の6月の0.84と比較すると際立っている。


秋季練習の際に彼自身が言っていたことだが、交流戦と後半戦に軽い捻挫(右足首)をしたがそれを隠して抑えや中継ぎに登板し続けたそうで、これがちょうど上記の3ヶ月に該当するのかも知れない。


そう言えば、この時期に打たれたボールはシュート回転して威力の落ちたストレートが多かったような印象がある。軽傷と言っていたが、右足の蹴りが不足していて体が開いていたのではないか?


三嶋投手の大きな特徴は、軸足の力強い蹴りがもたらす、跳ね上がるような躍動感溢れるフォームだが、それが少し鳴りを潜めていたようにも思う。


彼自身は、お尻の力が弱ると、捻挫しやすい傾向があると言っている。
そのため、秋季練習は第2クールまでボールを持たず、下半身と体幹を鍛えまくった。


本人も「キャンプと同じぐらい、体幹と下半身をいじめる」と言っていて、それは年明けの合同自主トレでも同じだ。With Baystarsで放映されたシーンでも、まるで競走馬のように、坂路を駆け上がっていた。


番組の中で彼も言っていたが、昨シーズンの問題点の一つは、右打者のインコースの被打率が高かったことだ。高め.300、中程.556、低め.500といずれも打ち込まれている。


その対策として、今シーズンはシュートを投げると明言していた。
確かに、彼の持ちダマには右打者の内角に食い込むボールが一つも無いので、シュート、実際にはツーシームのような速い球種なのかシンカーのような緩いボールなのかわからないが、際どいシーンで投げられるような確度の高い変化球が身につけば守護神として復活する可能性は十分にあると思う。



#19 山﨑康晃投手


山﨑投手も7月と9月に防御率が7点台になっている。この2ヶ月は三嶋投手の不調時期とも重なってしまったために、ベイスターズのクローザー破綻という印象が強く残ったのだと思う。


しかし、彼も、4月〜6月には32試合に登板して防御率2点台前半に抑えており、この時期の成績はリリーフピッチャーとして十分に合格だと思う。


彼の場合、小さい頃から女手一つで育ててくれた母上のご不幸が10月にあり、メンタル面の重要性が高い勝ちパターンの投手としては影響がかなりあったことだろう。


お母様のご冥福をお祈りするとともに、彼自身がその不幸を乗り越えて、天国のベリアさんが息子の準備してくれたライトスタンドのシーズンシートで時折見せていた少しはにかんだような笑顔を浮かべてくれるような大活躍をもう一度見せてくれることを願っている。


With Baystarsの番組内で、彼は新しい球種を増やすつもりはなく、インステップから投げ込む右打者のアウトローのストレートを磨き上げることを誓っていた。


彼の場合、右打者に対して29.3%の投球割合となっているアウトローでは被打率 .043と抑え込んでおり、ここぞと言うときにここに必ず投げ込める精度を求めているのだろう。


山﨑投手のストレートの指標wFAは2017年の9.0をピークにその後徐々に低下して2020年には-3.5にまで悪化していたが、昨シーズンは2.8に戻している。
そして、彼独特の大きく落ちるいわゆる亜大ツーシームではなく通常のツーシームも昨シーズンから投げ始めたが、その指標wFTも2.3と悪くない。


他方、彼の代名詞だった亜大ツーシームはルーキーイヤーの13.6が最高でその後低下し、2018年と2019年には復活した(それぞれ7.3と8.6)が、昨シーズンは-6.3にまで低下してしまった。


ここまでのコメントだけでは、彼の配球プランの全貌は見えてこない。しかし、迷路のようだった昨シーズンの暗中模索の中で掴んだ(普通の)ツーシームとカットボールはそれなりに効果的であり、以前の亜大ツーシーム頼りだった戦術を一旦捨てて練り直す良い機会なのかも知れない。



#13 伊勢大夢投手


昨シーズンの伊勢投手の成績は、7月〜9月までは防御率0〜1点台と申し分ない。
彼が苦しんだのは4月(防御率 5.14)と10月(同 5.68)だが、その苦しみの内訳はこの2回でそれぞれだいぶ異なるようだ。


今日のNumber Webの記事で、彼自身が4 月の不調について述べている。


「ルーキーイヤーはケガからのスタートだったこともあって、2年目は春季キャンプからどう入っていけばいいのかペースがつかめず調整不足になってしまいました。
今年はそうはならないように、自主トレからしっかりと準備をしています」


ストレートはまずまずだったが、カットボールやスライダーにも切れが見られなかった。


「正直、あのときカットやスライダーは投げられなくなってしまったといった感じだったんです。またチェンジアップは学生時代に使っていたから大丈夫だろうと考えていたのですが、プロでは通用しませんでした。


本当ならいつも投げているフォークをしっかり投げ込めれば良かったのですが、悪影響でそれも甘くなってしまい、結局真っすぐに頼らざるを得なくなってしまって……」


そして、その後抹消され、ファームで藤岡コーチからもらったアドバイスで復調した。


「チェンジアップを投げるとき、体が前に出てしまい真っすぐを悪くする投げ方になってしまっている。おまえは真っすぐが軸のピッチャーなんだし、だったら去年みたいにフォークを投げた方がいい」


フォームと球種を見直し、自らの本来の投球、特にストレートの力強さを取り戻した伊勢投手は上述したように6〜9月に素晴らしい投球を続けた。


特に、10試合に登板して防御率1.17だった彼の9月の成績を見て、そして、上に述べた先輩二人の不調も考えて、10月に入って首脳陣が彼をクローザーとして投入したのも理解できる。そして、それは、伊勢投手自身が入団以来夢見ていたポジションでもあったのだ。


しかし、現実は甘くなかった。彼は二度のセーブ局面で一度も成功することができなかった。これが10月の彼の苦しみだ。


かねてから憧れていたゲームを締めくくるマウンドは、想像を絶する苛烈な環境であり、普段とは違う自分を露呈してしまう異次元の場所だった。


「あれだけ自分でもやりたいと言ってオープン戦などでも経験させてもらい、やってやろうって思いがめちゃくちゃ強かったのに、いざマウンドに立つと地に足が着いていませんでした。


2回目はあっさり点を取られてしまいましたし、経験したことがない不思議な難しさがありました……」


彼は、この貴重な経験を通して、あるものを失い、別のものを得たという。


失ったものは、「根拠なき自信」だそうだ。


「それまでは何となくというか根拠なく抑えることができていたと思うんです。
けれども厳しい場面で投げる以上、安心材料を手に入れ、今度は“根拠のある自信”を身に付けていかなければいけない。


ここから先は勢いだけではやっていくことのできないキャリアになってくるので、しっかりと取り組んでいきたい」


彼が掴んだものは、クローザーと言う特別な場所で戦うための武器への渇望だ。


「一番に理解できたのは、自分のなかでひとつ安心できる材料が必要なポジションだということです。
球種もそうですけど、例えば阪神のスアレス投手ならばパワー、広島の栗林(良吏)さんならコントロール。


僕が急に160キロを超えるボールを投げるのは難しいので、練習次第で磨くことのできるコントロールという部分をしっかりと見据えていきたい」


彼の最大の武器は空振りの取れる力強いストレートだ。その指標wFAは一年目から5.3、5.0と高いレベルを維持している。


そして、もう一つ。彼のスライダーは昨シーズンで指標wSLが-0.7から4.0へと格段に良くなっているのだ。これについては、伊勢投手自身が次のように言っている。


昨季最終戦となった10月28日の広島戦(マツダスタジアム)、ビハインドの8回裏に彼はマウンドに立った。バッテリーを組むのはシーズン終盤に初昇格した3年目の益子京右捕手だった。


「益子が左打者に対してインコースのスライダーを要求してきたんです。それまで左打者に対しては真っすぐかフォークの選択肢しかありませんでした。


インコースの厳しいところを、しっかりラインに乗っけて三振という感じで。益子はファームから上がってきたばかりで、いい意味でピッチャーを知りません。


正直、大事な試合だったら首を振っていたかもしれませんが、チームの順位も決まっていた状態でしたし、ここは首を振らず僕もチャレンジしてみようって思ったんです」  


内角にバックドアのスライダーを投げ込むとファウルが取れた。


「あっ、て思いました。これでファウルが取れるんだって。


どうしたら真っすぐで三振が取れるのかみたいなことばかり考えていたんですけど、内角のスライダーでファウルが取れれば、外角へも広げられ、簡単に三振が取れるイメージが湧いたんです。


これが理解できたのは自分にとってすごく大きくて、それを後輩から教えてもらえたんです」


ストレートの威力そのままにコントロールを磨き、最終戦で手に入れたスライダーの使い方とフォークボールの精度を磨くことができれば、今シーズン、伊勢投手はシーズンを通して勝ちパターンとして定着することができるだろう。


そして、その先には、先輩達との高次元のクローザーの座をかけた激しい競争が待っている。



世の中には雌伏雄飛という言葉がある。しかし、雄飛が約束されているから雌伏の時を耐えることができるということではない。たしか、将棋の羽生善治さんも仰っていた。


「何かに挑戦したら確実に報われるのであれば、誰でも必ず挑戦するだろう。


報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続しているのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている。」


その通りだ。そして、私はこの3人がこう言う意味での本当の才能を持っていると信じて疑わない。


3月25日の開幕。今度は彼らが空高く飛びはじめる時だ。