mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

小園健太のストレートの「のび」はどの程度なのか



昨日の各紙報道によると、ベイスターズのドラフト1位小園健太投手が横須賀の練習施設DOCKで行われている新人合同自主トレではじめて捕手が座った状態での投球練習を行なったようだ。


ストレートのみ30球を投じた小園投手は、練習後の取材で次のように言っていた。


「思ったより感触は良かった。バランスを意識しながら、自分の中で力を入れた部分もあり、高さもまとまっていた」


ブルペンで彼のピッチングを視察していた三浦監督、斎藤チーフ投手コーチと木塚投手コーチも「順調にきているのが何より。問題なく、ほぼ予定通りにメニューを消化できている」とここまでのプロセスには満足しているようで、新人ながら参加する1軍キャンプに向けての期待も語っていた。


「しっかりステップアップしているのが表情でも分かる。沖縄に行ってユニホームを着れば気持ちも球もまた変わってくる」


球団によると、球の回転軸などを計測する機器「ラプソード」の数値で、その半数が上方向への縦の変化量を示す「ホップ成分」において50センチを上回っていたとのこと。


ここで少し補足する必要があると思うので、以前、今永投手とロメロ投手の球質の比較の際に書いた文章を再掲しておく。スピンレートや回転軸等に詳しい方は読み飛ばしていただきたい。


指先がリリース時にボールにかかっている場合にはボールに強い回転が生ずるが、この際にボールの握り方や指先の力の入れ方を変えることによってボールの進行方向に対してどの方向の回転をかけるかを制御することができる。


ボールの進行方向に対するボールの回転軸の方向は下図にあるような三つのものが考えられそれぞれ異なる方向にマグヌス効果が生じる。





マグヌス効果というのは、流体中をあるスピードで移動する球体が回転によって力を受けて曲がったり浮いたり落ちたりしながら進むことを言う。

流れる空気の中に置かれた球体の近くを流れる空気の速度は球体の回転によって乱され、速く流れる箇所①と遅く流れる箇所②ができる。この結果、①は圧力が低く②は高くなるため球体を下から上に押し上げるような力(揚力)が生ずる。


サイドスピンがかかっているボールはマグヌス効果によって左右いずれかに曲がり、トップスピンがかかっているボールは落ちる。バックスピンがかかっている場合はやはりマグヌス効果で揚力が生ずるためかかっていない場合よりも重力による落下幅が小さくなる。


どれほどバックスピンがかかっても決してボールが浮き上がることはないが、予想よりも落ちないためにバッターにはホップしているように見えることがある。江川卓や藤川球児のストレートが浮き上がって見えたというのはこのような視覚的な効果だ。


ジャイロスピンというのはボールの回転軸と進行方向が一致している場合で、ライフルの弾丸やアメフトのボールのように直進性の高い(正確に言えば理想的な放物線を描くような)軌道となる。


ピッチャーの投げるボールにはこれら三つの回転軸の成分がある割合で含まれることになり、サイドスピンの割合が大きいボールはスライダー、サイドスピンの割合が減ってジャイロ成分が増えたものがカットボールというように球種によってその内容は異なる。


ストレートの「のび」という言葉があるが、これは何を意味するのだろうか?


一つの答えは、バッターが思い描くような放物線を描かずあまり落ちてこないようなボールのことである(この差のことをホップ成分とも言う)。これは、強いバックスピンがかかっているためにマグヌス効果で揚力が生じているボールのことで、今永昇太の得意なストレート(フォーシーム)はこれにあたる。


バッターはホームベース近くではボールを見ることができないため、リリースまでのピッチャーの肘や手首の動きとリリース直後のボールの初動を見て予測をたて、その予測に従って最適なタイミングに最適な位置でバットをボールにコンタクトしようとする。


そこで、バッターの想定以上にホップの効いたストレートが来ると、バッターは実際のボールの軌道よりも低い位置を目指して振ってしまうため空振りやポップフライになる可能性が高い。


今日の記事では、


“「ホップ成分」の高校生平均は約32センチ、NPB平均でも約44センチとされており、50センチを超える球は「火の玉ストレート」と呼ばれた藤川氏らに代表されるように「伸びる球」と評される。”


と書かれていた。


この辺りをもう少し詳しく見てみたい。


昨年9月のBaseball Futureの記事で下に示すようなデータが整理されていた。

https://baseball-future.com/data/blog-6-11-2/



この図で上に行くほど縦の変化量が大きくホップ成分が増すこととなり、右に行くほど横の変化量つまりシュート成分が増えることとなる。


高校生平均のホップ成分が32cmでNPB平均が42cmとなっていて、上の記事の数字とほぼ整合している。


ホップ成分が群を抜いて大きいのは吉田輝星投手と巨人やレッドソックスで活躍した上原浩治さんで、それぞれ53cmと52cmとなっている。


小園投手は未だ高校を卒業したばかり、しかもキャンプ前の時点で投球の半数以上がホップ成分50cm以上を計測したということなので、この二人と同様の空振りの取れるような「のび」のあるストレートを投げる資質があると言って良いだろう。


先程の記事では、球の回転軸も小園投手は「(時計の針の)1時(の軸)でずっと投げられている」と明かし、純粋な縦回転に可能な限り近いバックスピンがかかっていた、と記している。


この〝のびのあるストレート〟は小園投手の創意工夫で身につけたもののようだ。


高3春の選抜で敗退後、直球の質向上を求めて人差し指と中指をつける握りに改良した。彼の通っていた市立和歌山高校で投手指導を担当した舩津副部長は、この変化についてこう言っている。


「指のかかりがよくなった。練習試合で球審を務めることもあって、投げ始めは打者のベルトくらいの高さだった球が胸元まで伸びてくるようなことが増えた。低めの球も沈まなくなった」


小園投手は「最終的に真っすぐで空振りを取れる投手になりたい。質自体をもっと上げていければ」とさらなる高みを目指すことを口にしており、背番号18を受け継いだ期待の新人がストレートで打者を圧倒するような投球を見せてくれるのもそう遠いことではないかも知れない。


0-0の張り詰めた試合展開。内野安打と味方のエラーで生じたノーアウト満塁の絶体絶命のピンチでギアを上げた小園投手が意気に感じて3者連続ストレートで三振に切って取る、といったまさに我々ファンが待ち望んでいたエースの姿が目に浮かぶようだ。