宜野湾キャンプ打ち上げ 牧が手締め
2月1日から始まった宜野湾キャンプもあとは明日(対日本ハム 名護)と明後日(対巨人那覇)のオープン戦を残すのみとなり、本日が実質的な最終日となった。
キャプテンの佐野選手と選手会長の今永投手の二人が故障のためファームキャンプで治療・リハビリ中ということで、二年目の若手ながらベテランの貫禄のある牧秀悟選手が代わって手締めをおこなった。
選手やコーチの並んだ円陣の中心に進み出た牧選手は次のような挨拶をした。
“お疲れさまでした。まず、はじめに球団関係者の皆さま、宜野湾市の関係者の皆さま、1カ月間サポートしていただき、ありがとうございました。
コロナの制限がある中で、皆さんのサポートのおかげで充実したキャンプになったと思います。
開幕まで残り1カ月です。これからもっともっと競争意識を高めて、皆さんで開幕に向けて頑張っていきましょう“
良い挨拶だった。彼は成績もさることながら、チームの中心として周囲を鼓舞していくことのできるキャプテンシーというものも持っていると思う。佐野選手の次のキャプテンは彼が適任なのではないだろうか。
今年のキャンプは、1998年優勝時の主力メンバーだった石井琢朗さん、斎藤隆さん、鈴木尚典さんがそれぞれコーチとして復帰し、さらに、相川亮二バッティングコーチ、小谷正勝コーチングアドバイザーやデータ分析担当の小杉陽太コーチなどが加わることでコーチ陣が大幅に補強された。
新任のコーチ達、特に熱血漢の石井コーチの熱意とさまざまな工夫などもあって、例年のキャンプに比べて量的にも質的にも随分と充実したものになったと思う。
個々人の筋力やスキルのアップはもちろんのこと、チーム打撃や状況に応じた守備練習などのチームとして一つになり動くための準備にかなり時間を割いていた。
昨シーズンの最終戦の後、私はこのブログで次のように書いた。
“いいだろう。来年再び朝日が昇るのを見るためには、一度、しっかりと暗闇に沈む必要がある。その暗闇の中でチームのメンバーは全員自らを徹底的に見直し、必死の努力をしてくれるものと、私は信じて疑わない。
敗北したところから、すべてが始まる。それが敗北の深い意味である。 石原吉郎“
今回の宜野湾キャンプを連日インターネット配信で観ていて、チームの全員が「敗北の深い意味」を噛み締めて、でき得る最大限の努力を続けたと思う。
彼らへのリスペクトも込めて、今回のキャンプで印象深かったことをまとめてみたい。
キャンプ期間中のブログで既に何度か書いたが、石井琢朗コーチは朝から晩まで精力的に動き回っていた。
野手総合コーチということで、全ての面での指導を行うことに加えて、主力打者がバッティングケージに入って行う打撃練習でも、ふと見ると石井コーチがバッティングピッチャーを務めるシーンをよく見かけた。
田中浩康コーチとともに朝から森敬斗選手や知野選手の練習に付き合い、全体練習終了後は、打者の真横からトスする独特な打撃練習や居残りでの守備練習などをマンツーマンで実施していた。
2月12日の紅白戦の後もこんなことがあった。
森選手はサブグラウンドで長時間にわたって石井コーチのノックで基本の守備練習を行なっていた。田中浩康コーチも背後からこれを見守り、荒れたグラウンドを均したり時々アドバイスしたりしていた。贅沢な時間だった。
キャンプ半ばで疲労もたまっており、その上の長時間のノックなので、森選手はかなりバテているようだったが、それでも最後まで必死にボールに食らいついていた。
ノックの終盤、あと10本という声をかけると、石井コーチはサブグラウンドのフェンスの外側にいたファンの方々が拍手をしてくれるようなプレーだけ一本と数えよう、と提案していた。
観客の方も目が肥えていて、ただ単に捕球するだけでは拍手は起きない。
森選手がなめらかなリズムで石井コーチが言っているような正しい姿勢で捕球体勢にはいり、ミスなく送球姿勢まで行ったプレーにだけ拍手していた。
森選手はOKと思ったが拍手がなかったり、拍手があっても本人が納得しないことも何度かあり、かなり球数を費やしてようやくラスト10本が終わった。
私はこの石井コーチの提案を好ましく思った。
観客の方々も練習に参加している実感を持つことができるだろうし、何よりも、若い森選手が、お金を払ってわざわざ来てくれる人たちに自分のプレーを見てもらうというのがどういうことなのか、プロ選手としての矜持を肌で感じることができたのではないかと思うからだ。
スター選手というのは、技術だけではなく、こうした意識の高さも必要だと思う。
長い守備練習が終わると、森選手はコーチやスタッフそしてファンの方々に深々とお辞儀をして、バットやグラブを抱えて自転車で室内練習場に走り去っていった。
もう5時を過ぎていたが、あれからバッティング練習をしていたのだろう。
まさに野球づけの毎日を送っていたに違いない。
そのことはSNSにあげられた森選手の手のまめが雄弁に物語っていると思う。
小谷さんは引退後ホエールズのスカウトや二軍投手コーチをつとめた後1982年から1987年まで一軍投手コーチとして遠藤一彦や斉藤明雄がエースの座を確かなものとするのを支えた。
その後、前大洋監督の関根潤三さんがヤクルトに移って監督となり招かれたため1987年から1989年までスワローズの一軍投手コーチをつとめたが、小谷さんの去った大洋では投手陣が崩壊したため、大洋の投手陣が球団に対して「小谷コーチを戻して欲しい」との嘆願書を出したと言う話がある。
1990年に関根さんがヤクルトの監督を退任すると横浜の一軍投手コーチに戻り、そこで、斎藤隆(新一軍投手コーチ)、三浦大輔(現監督)、盛田幸妃(奇跡のリリーバー)、佐々木主浩(大魔神)、野村弘樹(1998年優勝時のエース)を育てた。
この頃のことを主戦キャッチャーだった谷繁元信はこう言っている。
「小谷さんが1995年に退団した後も、横浜から相談に行く投手が多かったのではないか。そのように推測できるほど、選手個々の全てを把握していた。長所を伸ばしながら短所を修正させる教え方で、投球メカニズムに関する見識も高く、(捕手である自分にも)具体的に指導してくれた」
1996年からは再びヤクルトのコーチとして、内藤尚行、川崎憲次郎、五十嵐亮太、石川雅規という黄金時代から今につながる名投手たちを育てた。
その後は巨人やロッテでも投手コーチを務め、内海哲也、山口鉄也、宮國椋丞、二木康太、西野勇士、唐川 侑己などを育てた。
この名伯楽の小谷さんが今年のキャンプではブルペン後方の椅子に陣取って多くの選手達にアドバイスを送っていた。
例えば2月5日のブルペンでは三嶋一輝投手を指導していた。
彼は昨年被打率の高かった右打者の内角に投げ込んでいた。
三嶋投手自身、ぶつけても構わないと言うくらいの気持ちだった、と言っているようにかなり厳しいコースを狙っていた。
木塚コーチに、曲がってましたか? と聞いていたので、ストレートのシュート回転を抑えるためのフォームの見直しをしているのかと思っていたのだが、どうも違うようだ。シュートを覚えようととしているのだ。
何球か投げた後、ずっと黙って見ていた小谷さんが三嶋投手の方に歩み寄って行き、何やら短く指導していた。もっと手首を立てて、押し込むように投げると良い、と言っているように見えた。
そして、その後の投球に対して、「ああ、良くなった。良くなったよなあ(これは恐らく木塚コーチに向かって)。」と言っていた。
この方は、こうした一言が選手にとてもどれほど重いかを良く理解しているので、まずは、じっと見て、確信を得てから分かりやすくそれを伝えると言うスタイルなのだろう。皆が信頼する筈だ。
そう言えば、奇跡のリリーバーと言われた盛田幸妃さんに、あの落合博満さんに尻もちをつかせ完全に抑え切った高速シュートを伝授したのも小谷さんだった。盛田さんが亡くなってから、小谷さんは言っていたっけ。
“「投げてきますわ」とマウンドに行って、本当にあのシュートで落合をひっくり返してもまだ、投げ続けていた。7球とか8球も続ける度胸があった。まともに打たれた記憶がないんだよな。“
気のせいか、三嶋投手のピッチングフォームは昨年よりもダイナミックで、奇跡のリリーバーの魂がのり移ったように見えた。
その他、入江大生、上茶谷大河、濱口遥大、小園健太、伊勢大夢、エドウィン・エスコバーなど多くのピッチャー達に寄り添うように指導している、一見すると近所の散歩のおじさんのような小谷アドバイザーの姿を連日見かけた。
そして、明日からはいよいよオープン戦が始まる。
マイペースで調整を行っていた宮﨑選手も出場するということで、春先には例年血行障害の影響が心配される彼の状況を確認しておきたい。
また、三浦監督のコメントにはなかったが、先日の練習試合と同様、ソト選手も出場するだろう。練習試合では未だ良いところが見られていないが、1軍の投手のボールに目が慣れて来れば彼らしい打球が出はじめるだろうと期待している。
オープン戦期間中に今永選手や佐野選手の呼称はどの程度まで回復するだろうか?
球春到来ということもあって焦る気持ちもあるだろうが、しっかりと今やるべきことに集中して一つずつ課題をクリアーして行って欲しい。
我がベイスターズのオープン戦開幕投手は石田健太。2番手以降は、東→三浦銀二→徳山→三嶋→山﨑と続く。
私は今永投手の故障・離脱によって、開幕投手の大本命は東投手になったと考えているので、明日の彼のピッチングには特に期待している。そして、即戦力と言われる二人の大卒新人投手がどのような投球を見せてくれるのかも楽しみだ。
奇跡のリリーバーの魂がのり移った三嶋投手も対外試合初めての登板。彼の苦悩と努力が報われる日が近いことを心から祈っている。
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