ブルックス・クリスキー投手がチームに合流 クローザーの最適解は?
新入団のブルックス・クリスキー投手は今月13日に来日していたが、3日間の自主隔離期間を終えて本日チームに合流した。
米国での練習をオンラインで確認していた木塚投手コーチによると、「もう体は仕上がっていて、向こうでもブルペンで投球を行ってきた。あとは日本のストライクゾーンや打者に慣れることが必要。初来日なので、少しでも早くチームに馴染んでくれたら」とのこと。
当面はファームで調整を続けて、今月下旬にはイースタンリーグの実戦での登板というスケジュールを考えているようだ。その結果次第では、4月中の一軍デビューということも考えられる。
以前このブログでも書いたことがあったが、クリスキー投手の特徴と懸念は次の通り。
① 奪三振率は高いが与四球が多い。威力のあるボールを投げるがコントロールが良くないのだろう
② AAAでは奪三振率が極めて高く被本塁打数は少ないということでかなり支配的な投球をしていたようだが、MLBでは奪三振率が低下し(それでも8以上であり十分高いが)被本塁打数が急増している。MLBレベルでは速球が通用しなかったのではないか?NPBではどうだろうか?
最初の点はその通りだろうと思う。彼の投球フォームは、フォロースルーの時に身体が大きく左に流れる(一塁側によろける)ので、精密なコントロールを期待するのは難しいように見える。ただし、フォーシームの回転数とスプリットチェンジの落ちは優れているので三振奪取能力が高い。
二つ目の点については判断が難しい。昨シーズンの彼のAAA(ヤンキースのみ)及びMLB(ヤンキースとオリオールズ)での成績を書き出してみる。
奪三振率・・・・・・・・・・13.02(AAA) 8.74(MLB)
1試合あたりの与四死球・・・ 4.45(AAA) 4.76(MLB)
1試合あたりの被本塁打・・・ 0.64(AAA) 5.56(MLB)
被打率・・・・・・・・・・・ .155(AAA) .347(MLB)
防御率・・・・・・・・・・・ 3.81(AAA) 14.29(MLB)
このデータで見ると、MLBで特に与四死球が増えたと言うことは無いようだ。奪三振率は若干低下しているがそれでも依然高い水準にある。一番の問題は、被打率が.155から.347へ、そして1試合あたりの被本塁打が0.64から5.56へといずれも急上昇している点だ。
確かに、これを見るとクリスキー選手の投球はMLBレベルでは通用せず痛打された、と言う解釈もできる。
しかし、そう決めつける前にもう一つデータを見てみよう。これは2020年シーズン(登板は4試合のみ)での彼の成績である。
奪三振率・・・・・・・・・・19.64(2020MLB)
1試合あたりの与四死球・・・17.18(2020MLB)
1試合あたりの被本塁打・・・ 2.45(2020MLB)
被打率・・・・・・・・・・・ .200(2020MLB)
防御率・・・・・・・・・・・14.73(2020MLB)
相変わらず防御率は悪いが、被打率は低く、また、奪三振率は4試合ながら19.64と言う見たことのない数字を表している。そして、これと同じくらいにすごいのが1試合あたりの与四死球17.18と言うもので、つまり、一イニングあたりほぼ二人は四死球でランナーを出す勘定になる。この年の彼のWHIP(一イニングあたりに出塁を許すランナー数の平均)が2.73なので、実に7割が四死球によるものということになる。
2020年〜2021年にかけてのシーズンオフにヤンキースの投手コーチが四球を減らすことを彼の最優先の課題として挙げたことは想像に難くない。
そして、練習の甲斐あって、恐らく、フォーシームはほぼストライクゾーンに投げられるようになったのではないか?
ただし、ストライクゾーンの厳しいところに投げ切れるだけのコマンド(狙ったところに投げる力)があるわけではなく、甘いコースにいったボールはAAAレベルでは押し込むことができたが、MLBではヒットやホームランとなることが多かったという仮説を立てることができる。
この仮説について、昨シーズンのMLBでの彼の投球データを見てみよう。
下の図は、クリスキー投手の2021年MLBでのフォーシーム(左)とスプリットチェンジ(右)のコースの分布を示すものだ。
上の仮説の通り、彼のフォーシームはおおむねストライクゾーン内に収まっている。しかし、甘いコースが多い。真ん中近くに多くのボールが集まっているし、全体として高い。そして、スプリットチェンジはむしろ低めでストライクからボールになるものが多い。
バッターからすると、ストライクゾーンの真ん中から高めはほぼフォーシームなので狙い打ちし、低めはボールになるスプリットチェンジなので手を出さない、という簡単な戦術で対処することが可能となる。
やはり、どうも、以前は暴れていたフォーシームがストライクゾーンの甘いところに収束してきたことによってMLBでは容易に攻略された、というのが彼の2021年シーズンだったように思える。
だとすれば、やるべきことは簡単。フォーシームを低く投げられるようにすることだ。
恐らくこのためには彼の投球フォームを見直す必要があるのだろう(特に、フォロースルーで一塁側によろけること)。そして、このような指導は名伯楽と呼ばれた小谷正勝アドバイザーの得意とするところだ。
クリスキー投手が開幕に間に合わないことははっきりしているので、少なくとも当面は現有勢力の中でクローザーを探すことになる。
昨シーズン9回に抑えとして登板したことのあるのは三島一輝、エドウィン・エスコバー、山﨑康晃、伊勢大夢の4投手で、彼らが候補ということになるだろう。
私の印象では、4人のクローザー候補は相手チームによって比較的簡単に抑え込めた場合と炎上した場合が分かれている。
こうして見ると、対戦チームによってクローザーを分業するのが合理的なように思えるが、三浦監督に対して私が持っているイメージ通りだと、そうはしないような気がする。
最終的に分業制を選択する可能性はなくはないが、少なくとも、開幕当初はクローザーを固定するための起用をするのではないか。
これまでのオープン戦でクローザーをつとめた投手は次の通り。
2月26日 対日本ハム 山﨑康晃
2月27日 対巨人 田中健二朗
3月2日 対広島 伊勢大夢
3月3日 対広島 三上朋也
3月5日 対オリックス三嶋一輝
3月6日 対オリックス山﨑康晃
3月8日 対西武 三嶋一輝
3月9日 対西武 山﨑康晃
3月11日 対楽天 三嶋一輝
3月15日 対ヤクルト 三嶋一輝
3月16日 対ヤクルト 山﨑康晃
3月5日以降は三島投手と山﨑投手の二人で交互に最終回に登板しており、まだこの二人の競争に決着はついていないようだ。
明日からの日本ハムとの3連戦で三浦監督は何らかの結論を出すのだろうか?
いや、どうもそうはならないように思える。
オープン戦の9回というのは、相手チームも若手や2軍の選手主体に切り替えており、ここでの成績では本番のヒリヒリするような場面での成否は判断できないと思うからだ。
シーズンに入ってからもこの二人の併用は続くだろう。ただし、それは分業という確立された体制ではなく、あくまでもクローザー固定に向けたプロセスという意味で、だ。
その間、クリスキー投手のデビューや伊勢投手の仕上がりなどを総合的に見て判断することになるのだろう。
クローザーを決めるというプロセスを候補者の中からの選択として捉えると、私の予想する三浦監督のこのモラトリアムは優柔不断と思えるかも知れない。
しかし、このプロセスは既にあるものの中からの選択ではなく、私には、今シーズンのクローザーを作り出していくためのものであるように思われる。
Life is not about finding yourself.
Life is about creating yourself.
人生は自分を見つける旅ではなく、自分を作り上げていく旅なのだ。
今シーズンのクローザーの最適解は見つけるものではなく、これから時間をかけて作り上げていくものなのかも知れない。
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