3割100打点を目指す牧秀悟のアップデート
12月19日 いよいよ今年もあと10日ばかりを残すところとなったが、ベイスターズの監督や選手たちは各地で様々なイベントに参加している。
スポンサーとの契約の一部として集客に協力するということもあるだろうし、球団の知名度アップやファン獲得という意味でも重要なことなのだろう。
昨日は横浜市内(上大岡)で行われた京急百貨店とウィング上大岡主催の横浜DeNAベイスターズクリスマストークショーに三浦大輔監督、上茶谷大河投手、牧秀悟選手の3人が参加した。
甘いものが好きでオフになって体重が少し増えたという牧選手は、来季の目標として、個人的には3割、100打点、そしてチームの目標はもちろん優勝と語っていた。
見た目にも確かに少しふっくらした感じの牧選手に対しては、三浦監督も控え室でDBスターマンと間違えたというギャグを放っていたが、本人も、間食を控えてキャンプまでにはベスト体重(95kg程度。現在はギリギリ90キロ台とのこと(個人的経験では、こうした場合、ほぼ確実に100キロを超えていると思われる))。
牧選手が目標に掲げる3割、100打点という成績について、今日は関連するデータや考えているところをまとめてみよう。
【牧秀悟に穴はあるのか?】
牧選手は新人だった昨2021年に3割を超える打率( .314)を残したが、今シーズンは .291とわずかに及ばなかった。
シーズンを通して4番を守ってのこの成績は2年目のジンクスをものともしない、期待通りのものだったと思うが、同時に、昨シーズン終盤の爆発的な打撃に比べると、やや大人しくなったかなという印象も残った。
本人としては、入団当初から勝負所で甘いボールを一発で仕留められる選手を目指すと言っており、目標とする成績として打点を挙げることが多かった。
その打点については、1年目の71から今年の87と順調に伸ばしているが、ここから100を超えるため更に上積みが求められる。
下の表は牧選手の昨シーズンと今シーズンの成績を球種別の指標も含めて細かく比較したものである。
新人だった2021年からどの球種もあまり苦にしていなかったが、唯一カットボールの指標(wCT)が目立って低かった。しかし、今年になってそれはプラスに転じている。
そして、重要なのは、セリーグでもトップレベルのストレートに対する強さを維持したまま、こうした進化を遂げた点だ。これについては、次の節でもう少し詳しく取り上げることにしたい。
球種という意味では、もはや牧選手に穴らしい穴はないと言って良いだろう。
そして、これは入団当初から言われていたことだが、際立って苦手というコースはなく、打球方向もレフトからライトまで広角に打ち分けている。相手投手についても、右腕に対して打率 .296、左腕に対して .280と大きな偏りはない。
目につく問題は、アウェーの試合で成績が芳しくないことだ。
牧選手のホーム(横浜スタジアム)とそれ以外の球場(アウェー)の打率は、
ホーム 打率 .357
アウェー打率 .223
と大きく差がついている。OPSでもホームでは 1.037と超一流の数字であるのに対して、アウェーでは .680と主軸の打者としては全然物足りない結果で終わっている。
球場別で見ると、マツダスタジアムでは打率 .318でありホームと遜色なく打っているのだが、
東京ドーム 打率 .133(2022年)
神宮球場 打率 .222(2022年)
甲子園球場 打率 .212(2022年)
とふるわない。
東京ドームに関しては、ホームも含めて、巨人戦での打率が .235と最も低くなっていることから、球場の相性というだけではなくジャイアンツのバッテリーに抑え込まれているということなのかとも思うが、ホームでの巨人戦では3割を大きく上回る打率を残しているので、そういうことでもないようだ。
関東圏の東京ドームや神宮で成績が悪いということを踏まえれば、遠征疲れではないようだし、やはり、これら3つの球場では打席から見える景色がどうも彼にあっていないということか、あるいはビジターだと試合前のバッティング練習などのルーティンがつかめていないということもあるのかも知れない。
昨年はどうだったのだろうか?
東京ドーム 打率 .340(2021年)
神宮球場 打率 .273(2021年)
甲子園球場 打率 .217(2021年)
東京ドームはむしろ得意にしていたようだ。うーん、どうもわからない。
もう一つ、彼にとってあまり都合の良くないデータを挙げてみよう。今度は打席ごとの打率だ。
第一打席 打率 .292
第二打席 打率 .306
第三打席 打率 .295
第四打席 打率 .242
牧選手のサヨナラ打というのは記憶にないが、試合終盤のここぞというところでタイムリーやホームランを打ったという印象もあまり強くない。こうした印象とこのデータは整合しているように見える。
これについては、因果関係を理解する手掛かりがないわけではない。
清水昇(ヤクルト) .167
今野龍太(ヤクルト) .000
木澤尚文(ヤクルト) .000
梅野雄吾(ヤクルト) .000
岩崎優(阪神) .000
浜地真澄(阪神) .000
湯浅京己(阪神) .000
岩貞祐太(阪神) .000
平内龍太(巨人) .000
鍬原拓也(巨人) .000
高木京介(巨人) .000
今村信貴(巨人) .000
大勢(巨人) .000
栗林良吏(広島) .200
島内颯太郎(広島) .000
森浦大輔(広島) .000
ケムナ誠(広島) .000
祖父江大輔(中日) .000
田嶋慎二(中日) .000
清水達也(中日) .000
各チームの勝ちパターンの救援投手に対する打率がかなり悪いのだ。
中日のR.マルティネス(1.000)、巨人の畠世周( .500)や高梨雄平( .500)、阪神の加治屋蓮( .500)、広島の矢崎拓也( .333)、ヤクルトの田口麗斗(1.000)など得意としている投手もいるが、上に列挙したように、多くのストッパーやクローザーに対して全く打てていない。
こうなると、必然的に、彼らがマウンドに上がるビハインドの試合の第四打席の打率はかなり低下することにならざるを得ない。
【チェンジではなくアップデート】
先週、野球ジャーナリストの横尾弘一さんが、「落合博満の視点」という連載の中で、「チェンジ」ではなく「アップデート」という記事を書いていらっしゃった。
https://news.yahoo.co.jp/byline/yokoohirokazu/20221213-00327844
プロ野球選手をはじめとする多くの第一線のアスリートたちが
「現状維持は後退したのと同じ」
と語っていて、前年と同じ成績で満足していたらそこから低下が始まると考えているのに対して、落合博満さんが「現状維持を成長していないと受け取るのは少し違うと思う」と仰っていることをまさに「落合の視点」として取り上げている。
以下、落合さんのコメント
「(5勝から10勝に増やそうというように前年より高い目標を掲げること)それ自体はいい。
ただし、5勝から10勝にステップアップするためには、今の自分、今の練習ではダメだと考え、何かを変えようとすると落とし穴にはまる。
5勝できたら、その時のピッチングをさらに磨き上げようと考えるべきだろう」
「ボールを投げる、打つという動作には流れがある。
その中にはいい部分もあれば、そうでない部分もあるんだけど、よくない部分だけを変えようとすると、全体の動きがおかしくなってしまうこともある」
なるほど。
そう言えば、牧選手の打撃フォームなどは、素人ではあるものの、我々から見て2年目になって何かが大きく変わったということはなかったように思う。
上に書いたように、彼はストレートに強いという長所を消すことなく、弱点だったカットボールを克服してみせた。
恐らく、新人の時には、とくのストレートが来たと思って振りにいったところ、カットボールだったために、タイミングをずらされて、空振りあるいは引っ掛けて凡打に終わるということが多かったのではないだろうか?
それに対して、今年の彼は、自分が対戦する投手たちのフォームやボールの軌道などをしっかりと頭に入れて、ストレートとカットボールを識別する際の精度を向上させたのではないだろうか?
打撃フォームやタイミングの取り方といったバッティングの土台の部分は変えずに、プロ野球の勝負に適応するために知識を増して球種の見極めというスキルを高めることでアップデートしたように思う。
だから、2年目のジンクスということがなく、彼の実力に見合った成績をしっかりと残すことができたのだ。
上に挙げた現時点での彼の「穴」にも、きっと、同じように対応していってくれるだろう。
つまり、東京ドームでの打率が低いことについては、バッティングの土台を変えるのではなく、同じ投手のボールを横浜では打てていること、2021年は東京ドームでも打てていたこと、などを考えてベイスターズのアナリストたちと一緒に戦術を工夫することだろう。
他球団の勝ちパターンの投手が打てなかったことについても、元々好投手である彼らが短いイニングということで集中力を高めて投げ込む難しいボールを打てるようにフォームを変えたりするのではなく、打席での粘りやボール球に手を出さないといった戦術で球数を投げさせ失投の確率を上げるなどを工夫してくれるはずだ。
大丈夫。
彼なら3割、100打点の目標をきっと達成してくれることだろう。






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