mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

筒香嘉智というストーリー



人間というものは損得勘定から完全に離れるというのがどうも難しいようだ。


プロ野球ファンである我々は、贔屓のチームはもちろん、他チームの動向に関しても、ついつい、それが贔屓チームのリーグ内での相対的な戦力の増減にどのように影響するか、という視線で見てしまうことが多い。


1月16日 渡米中の筒香嘉智選手がレンジャースとマイナー契約を結び、2月後半に始まるメジャーのスプリングキャンプに招待されることとなった。


日本人選手がメジャーのスプリングキャンプに招待されるというニュースはこれまでにも何度か耳にしたことがある。


しかし、そこからメジャー昇格を果たしたとか、あるいはついにレギュラーの座を掴んだとか言う話を聞いた記憶はほとんどない。


スプリングキャンプではかなり幅広に声をかけて大所帯で始まるが、徐々にスクリーニングされていきふるい落とされて行ってしまう。それだけ狭き門だということなのだろう。


このニュースを聞いても、私はまず、かつてのベイスターズの主砲兼主将がMLB挑戦を続けることが帰国時には再獲得を明言している古巣ベイスターズの戦力にとってどのような意味を持つのかと言う「損得勘定」を最初に考えてしまった。


しかし、私の筒香選手に対する想いは、そう言った損得勘定だけではなく、彼の生き方と言うもっと深い部分での共感あるいは応援といったものも含んでいて少し複雑でもある。



【筒香嘉智のMLB挑戦継続の功罪】


筒香嘉智選手は2009年にドラフト1位で横浜高校から横浜ベイスターズに入団した。


当時はTBSがオーナーで暗黒時代の真っ只中だったが、彼の一軍でのキャリアが本格的に始まったのは2012年からなので、「DeNAベイスターズの顔」と言う印象の方が強い。


10年間のNPB通算での主な成績は次のとおり。


968試合出場


205本塁打 613打点


通算打率 .285


出塁率 .385


長打率 .528


OPS .910


彼のキャリアハイは44本塁打、110打点でホームランと打点の二冠王に輝いた2016年で、その年にはOPS 1.110と言う素晴らしい数字も残している。



渡米前の最後のシーズンとなった2019年の成績は、打率 .272、29本塁打、79打点、OPS .899と言うもので、単純な話、昨シーズンほとんど戦力にならなかったオースティンや不調から完全に復調したとは言えないソトの代わりに彼が居てくれたらヤクルトとの首位攻防戦はもう少し拮抗したものになったかも知れない。


筒香選手が渡米してからはや3年が経過し、現在のインターネット上の論調では、レフトには佐野恵太、ファーストにはネフタリ・ソトがいるので、彼が帰ってきてもポジションがないとか、高額になるであろう年俸に見合う活躍は期待できないだろう、といった否定的な意見も多く見られる。


しかし、そんなことはないだろう。


年々成績が低下する傾向のソト選手の今シーズンは不確定性が大きいし、オースティン選手の復帰時期も不透明な現在、筒香選手が居てくれたらチーム力が上昇することはほぼ間違いないだろうと思う。


米国での定位置であるレフトやファーストに加えて、彼はサードも守ることができる。


以前にも宮﨑選手が怪我で離脱した際にサードの守りについていたことがあったが、守備範囲の広さはともかく、送球は非常に安定していて、さすがに横浜高校時代にはサードが本職だったと言う経歴がものを言っていた。


従って、佐野恵太、ネフタリ・ソト、タイラー・オースティン、宮﨑敏郎に筒香選手を加えた5人で、その時好調の4人がファースト、サード、レフト、ライトおよび2番から6番までを担当することができる。


佐野恵太、ネフタリ・ソト、タイラー・オースティン、宮﨑敏郎が揃って好調な時でも、競り合った試合の終盤、ベンチの代打筒香が出番をうかがっているなどと言うのは相手チームからしたら相当のプレッシャーだろう。


3年前に筒香嘉智がベイスターズを去ったことによってチームの戦力が低下したことは否定できないが、その代わりに、佐野恵太を始めとする若い主力たちが台頭してきたことも確かだ。


そして今、筒香選手が横浜に帰ってきてくれたら、彼と新興戦力が合体することになり、25年ぶりの悲願の優勝を目指す上では最大の朗報と言っても良い。


従って、彼のMLB挑戦継続と言う今日のニュースは、ベイスターズファンの損得勘定的にはあまり良い知らせではないと思う。



【DeNAベイスターズの青春群像劇における長男役】


2019年オフに筒香選手がポスティング制度を使ってレイズに移籍することが決まった際、ベイスターズは球団公式の惜別のPVを公開した。


それは、ベイスターズがまだ暗黒時代の最中にあった2010年シーズン(48勝95敗でぶっちぎりの最下位だった)の終盤、まだ新人だった筒香選手が放った最初のヒットがホームランとなったところから始まったように記憶している。


そのシーンで流れたナレーションは確か、


「暗闇の中で見たたった一つの光だった。とても大切な光だった」


と言うものだったと思う。


そして、このPVは、小さい頃からの夢だったMLB挑戦を始めようとしている筒香選手を励ます暖かいトーンで終わった。


これまでのところ、彼のMLB挑戦は決して成功しているとは言えない。


期待されて入団したレイズでも、ドジャースでも一度は覚醒したかに見えたパイレーツでも、速球に対応できないことが多く、MLB通算で打率 .209、本塁打16、OPS .697と苦戦が続いている。




一つのプロ野球チームを応援すると言うことは、もちろん、そのチームが優勝することを夢見て声援を送り、勝ったり負けたりする日々を一喜一憂しながら共に過ごすということだ。


しかし、それだけでもない。


私たちは、そのチームの選手たちそれぞれの人生が、一時期、非常に濃密に交流する青春群像劇のようなドラマを見続けている、と言う側面も確かにある。


三谷幸喜さんの作る大河ドラマは群像劇であることが多いが、それを1年間見続けていると、登場人物の一人一人に対する思い入れが強くなっていき、〇〇ロスなどという言葉も生まれることとなる。


三谷さんの大河ドラマのもう一つの特徴は、主要な登場人物の最期が史実として視聴者にもすでに知られていると言うところだ。


我々が見ているプロ野球チームの青春群像劇もこれに似ている。


数年にわたって一つのチームを見続けていくことで、選手たちに対する思い入れはますます強くなっていくが、彼らの最期、つまり引退までの時間がそれほど長いわけではないことも知っている私たちは、ずっと、なんだか切ないような気持ちも持ち続けているのだ。


DeNAベイスターズというチームの青春群像劇で、筒香嘉智の役割は前半の主人公となる長男だと思う。


不器用だが強い信念を持っており、チームを一つの方向に引っ張っていく求心力を持っている。


このドラマでは、この前半の主人公である長男が自分の夢を叶えるために渡米し、残された兄弟たちはそれぞれ日本で頑張りながら、長兄のアメリカでの成功を祈り応援している。


非常に思い入れの強い視聴者の一人である私は、このドラマの後半で、長男筒香嘉智がMLBでファンに賞賛されるような活躍を見せ、長年の不器用な信念を形にしてくれることをひたすら祈っている。


これは、今日の記事の前半に書いた「損得勘定」とは全く別の次元での願いだ。



アーリントンの空高く


ホームランかっ飛ばせ筒香


ツッツゴー



さあ打て筒香


飛ばせ空のかなた


横浜に輝く大砲


かっ飛ばせホームラン


ゴー、ゴー、筒香