mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

ベイスターズは宜野湾の星たちでもある




“今年こそは”という言葉はチームのものでもあり、選手たち一人ひとりのものでもある。


キャンプインから3日が経ち、“今年こそは”の意気込みを行動と態度で示す選手たちが目立ってきた。


勝利の輝きを目指して宜野湾で汗と土にまみれる選手たちの姿を追ってみた。



【鬼はそと】


まずはこの二人。


新入団のトレイ・アンバギーはニコニコしながら節分の豆まきを行い、自身の名前に似ていると言われるサーターアンダギーを頬張るというファンサービスを行っていた。


もちろん、直接野球に関係することではないが、初めての国に来てこうして伝統的な行事に参加したり地元の人と触れ合う機会を持つというのは野球をやるための環境づくりという意味で重要だと思う。




先日、彼のフリーバッティング(この時もソト選手とコンビを組んで交代で打撃を行なっていた。早く日本の野球になれるために先輩外国人選手と行動を共にするという配慮なのだろう)をインターネット配信で見たが、私は非常に良いという感想を持った。


バットの出が非常にスムースであり、スイングスピードも速いために、内外角のボールをそれぞれ左右に“ナイフでバターを切り取るように”なめらかに運んで行くのが印象的だった。そして、体幹は全くブレない。


好みもあるだろうが、本キャンプで見たさまざまな選手たちのバッティングの中で、今までのところ彼が一番バランスの良いスイングに感じた。


大いに期待して見ていこうと思う。



【ヒッチ】


中日からトレードで入団した京田陽太は、構えの位置でグリップを上下させる“ヒッチ”でタイミングをとる自分本来のバッティングフォームと心中する覚悟を決めた。


一般に、ヒッチは悪癖と言われるが、バッティングというのは一連の流れのある動作なので、その部分だけを変えることでは全体としての改善にはならない。


中日の首脳陣は、恐らく、ヒッチをやめて新しいフォームを作り上げることを彼に求めたのだろうが、その試みは成功しなかった。プロ入り以来最低の打撃成績に落ち入り、その影響は守備にも現れた。


だったら、もう一つのオプションをやってみれば良い。


ヒッチはやめず、京田選手本来のバッティングを活かすような改良を求めるのだ。


今日のインタビューで石井琢朗コーチはこのことを明確に語っていた。


そして、京田陽太は石井さんと一緒に誰よりも多くのボールを打ち込みながら、ヒッチする自分のバッティングの最適解を模索している。


そうだ。倒れたら起き上がれば良いのだ。


松下幸之助さんも“こけたら、起きなはれ”とおっしゃっていたではないか。




【敵は自分の中に】


去年は厄年だったのではないかと思われるほど、公私でついていなかった森敬斗は、オフに高校の先輩でもある鈴木大地選手の自主トレに参加し、プロ野球選手としての意識の高さなどさまざまなことを学んだようだ。


今年のキャンプではアイドル的な振る舞いが減って、ストイックに練習に向き合う姿が見られている。


京田陽太の加入で遊撃レギュラーをめぐる競争は激化し、森選手の目の色が変わってきたという声もしばしば聞こえてくるようになった。



しかし、彼は“京田さんに負けたくない”などとは言わない。


森敬斗は、”結局、敵は自分の中にいるのだ。自分自身が集中して練習に励むことだけが重要で、競争であっても自分のやることは変わらない“と言うのだ。


サッカーの本田圭佑さんも”敵は自分やと思っている。妥協が最大の敵やね。それにつきる“と言っていたではないか。


大変良いことを言うようになった。ひょっとすると、昨年の出来事は彼にとって本当の大人のプロ野球選手になるための通過儀礼だったのかも知れない。


だから私は今年の森敬斗にもう一度本気で期待してみようと思っている。



【ブルドッグ】


新入団のジェフリー・ウェンデルケン投手は自ら早い段階でブルペンでの投げ込みを志願したそうだ。


日本の土、日本のボール、日本のロジンバッグに早く慣れておきたいと言うのがその理由だ。


感触は良好。


最速153キロの動くストレートとチェンジアップで打者を牛耳り三振の山を築く彼にとっては、動くボールの微妙な変化とチェンジアップの抜けが重要で、ボールの感触はこの国での活躍の鍵を握る要素の一つでもある。



先日の記者会見では、ブルドッグのような強さをマウンドで見せていきたいと語っていた。


ブルドッグは牛と闘うことを目的として英国で生み出された犬種であり、勇敢で粘り強いという特徴を持つ。


英国人はこうしたブルドッグの気性を自分自身とも重ね合わせて、一種の理想としてみている節がある。だから、英語のbulldogという単語には勇敢で粘る強いという形容詞としての用法もある。


恐らく、ブルドッグと聞いて第二次世界大戦の際に劣勢だった祖国を鼓舞したウィンストン・チャーチル首相を思い出す英国人も多いだろう。


ウェンデルケン投手の強い意志を持った、それでいて優しげでもある眼差しを見ていると、彼がピンチの場面で登板し、ブルドッグのように勇敢かつ粘り強いピッチングでチームを救うシーンが目に浮かんでくるようだ。



【アウトロー】


6年契約の1年目となった新投手キャプテンの山﨑康晃は彼のピッチングの生命線であるアウトローのストレートに磨きをかける。


このボールでバッターを圧倒できるかどうか、そこに、MLB挑戦という子供の頃からの夢を封印してまで求めているチームを優勝に導くという彼の願いの成否がかかっている。


彼の特長であるきれいな回転のストレートのキレ、そしてアウトロー一杯に決める絶妙なコントロール。この二つを雨の日も風の日も、そして8月のあのうだるような熱気の横浜スタジアムでも常に続けていかなくてはならない。


山﨑康晃は今そのために、静かに、しかし非常な熱意を持ってブルペンでの投球を続けている。


シーズンが開幕すれば、またあの嵐のような日々が待っているのだ。


腹の底から響く気合と共にアウトローにストレートを投げ込む彼の姿を見るたびに、クローザーという十字架を背負った彼の苦難の道を目のあたりにする度に、私は“3月のライオン”のこのセリフを思い出さずにはいられない。


”倒れても 倒れても


飛び散った自分の破片を掻きあつめ


何度でも立ち上がり進む者の世界“


そして、ようやく切り抜けた嵐の先にはもっと激しい嵐が待っているだけだ。


そのことを誰よりも知っている山﨑康晃が今、沖縄の空の下で渾身の力で腕を振り続けている。


私にはもう祈ることしかできない。