mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

宜野湾キャンプで”考える野球”は浸透したのだろうか




キャンプの全体練習を昨日で打ち上げたベイスターズ。


明日からは沖縄でのオープン戦が始まり、いよいよ実戦モードに入っていく。


三浦監督は今回のキャンプを評して、やりたいことは全てできたと言っていたが、当初彼の掲げていた”選手自身が考える野球”はチームに浸透しているのだろうか?



【考える野球の必要性】


選手自身が考えることの必要性は近年よく言われることだが、どうも私にはもう一つピンときていなかったため、少し自分でも調べてみた。


その結果は既に本ブログでも書いたが、ご覧になっていない方もいらっしゃると思うので、要点のみ再掲する。


まず、どのスポーツにも共通のこととして次のようなことがある。


・身体を作るために栄養管理やトレーニングの効果を理解すること


・技術を習得するためのPDCAサイクルを通じて考えること


それに加えて、特に野球で重要となる点がいくつかある。



(野球は考える時間の長いスポーツ)


野球は、投手の投球に対してバッターが打ったり野手が捕球や送球をしたりと言う動作のセットがプレーの単位である。


つまり、一球ごとに短いプレーが繰り返され、それぞれのプレーの間にはバッテリー間でサインの交換を行って配球を決定し、守備陣はその配球を踏まえてポジショニングを考え、バッターは素振りなどをしながら次の狙い球などを考える。


こうして、野球のゲーム中に100回を超える「考えるための間」が生じることになる。


これが、流れのあるスポーツの中で個々の選手が瞬時のインスピレーションや相手の思いもよらないアイディアあるいは瞬間的な反応などで芸術的なプレーを見せるサッカーのようなスポーツとの大きな差だと思う。


野球には、意識的に次のプレーを考え、準備する時間が全てのプレーヤーに与えられているのだ。


だったら、この間に何を考え、どのような準備をするかによって、結果に差が出ることは容易に想像がつく。




(戦術を理解し次の動作を考えること)


個々のプレーが終わり、次のプレーまでの間に考えるべき重要なことの一つが、チームの戦術に沿って次に自分が行うべきことを決めることだ。


例えば、試合前半には送りバントはしないと言う戦術が明確になっているチームの8番バッター(左打者)が両チーム無得点、無死一塁で打席に入ったとする。


次のバッターは投手なので、ヒッティングで無死一、二塁あわよくば一、三塁のチャンスを作りたいし、最低でも一塁ランナーをセカンドに進めたい。


チームの戦術を理解して各選手ができることとしては、例えば、一塁ランナーはリードを大きく取り、何度もスタートの構えを見せるなどの動きで牽制球に備えて一塁手をファーストに張りつかせ、盗塁時のキャッチャーからの送球に備えて二塁手のポジションをセカンド側に寄せることがある。


こうすることで、一、二塁間は大きく開くこととなる。


そして、打席の左打者はライト方向に引っ張ることで、この大きく開いた一、二塁間を破るヒットを狙うべきだ。ヒットエンドランがかかっていれば一、三塁にできる可能性も高いし、ファーストランナーがスタートを切っているためにダブルプレーの可能性は低い。


この例にもあるように、チームの戦術を理解した上で、個々の局面で走者や打者がそれぞれどのような行動を取るべきかを考えることは非常に重要だと思う。


野球には考える間があると書いたが、その間に全てのプレイヤーの次の動作をベンチから指示することは難しいだろうし、仮に可能だったとしても、複数のプレイヤーが連動する動きを見せるためには、共通の戦術のもとに個々の選手が何を考えているのかについて相互に意思疎通できていることが欠かせない。



(勝負の中で判断すること)


もう一つ重要な点は、野球には相手があり、相手にもまた考える時間があるということだ。


先ほどの例であれば、相手チームのバッテリーは、走るぞと言う構えでスタートのフリを繰り返す一塁走者と内角を開けて構えるバッターを見てその意図を察し、左投手であれば外角のスライダー、右投手であれば外角低めのツーシームなどを投げ込んで、左打者が引っ張ることを避け、サードやショートへのゴロを打たせてゲッツーをとることを狙うかも知れない。


チームの戦術に即した行動を取ることはもちろん必要だが、それに対して相手チームが抑止策をとってきている場合、その策に柔軟に対応する判断が必要になる。


そして、この判断にはベンチからの指示は間に合わないことが多い。


例えば、先ほどの状況で、ピッチャーが外角に逃げていく変化球を投じてきた場合、投球に合わせてサードとショートが少し下がってゲッツー狙いのポジションになることが見えたら、サードの前にチョコンと合わせるセーフティバントと言うアイディアも考えられる。


うまく打球の勢いを殺しつつキャッチャーが捕球できない場所に転がすことができれば、無死一、二塁とチャンスを拡大することができる。


こうした現場での判断は、バッターが彼にしか見えない情報に基づいて考えるべきことだし、一塁走者もこうした可能性を念頭に置いて、バッターがバントの構えに転じたら即座にそれに対応できる様に準備しておく必要がある。



【キャンプでの取り組み】


昨年は石井琢朗コーチが森敬斗選手の特守や特打に遅い時間まで付き合っている姿が目についてが、今年は練習メニューを午後4時までに終え、その後間もなく監督やコーチはグラウンドから引き上げることにしていたようだ。


三浦監督によれば、この変化の理由は”選手に考える時間を与えること”にあるそうだ。


”朝から晩までしっかりと管理する方法もあるでしょう。


でも、今のウチのチームに必要なのはそこじゃない。


もっと考える時間を与え、考えて行動しなければならない。


コーチによってはもっと教えたいと思うひともいたが、それは無しにしています。


(全体練習後の居残り練習では)教えてもらったことを考えて一人でやるのもOKだし、映像を見て振り返るのもOK。


今の時代は情報量も増えている。


大事なのは練習の中身と集中力。


選手が考えて行動して、そこをコーチがサポートする形が今のベイスターズには必要なのです”




振り返ってみると、今年のキャンプで三浦さんが掲げた目標は、


・3球目までにツーストライクとする(ストライク先行)


・出塁率 .320


・UBR (Ultimate Base Running:盗塁以外の走塁によるチームへの貢献の指標)を昨年の5.4から向上させる


という3つだった。


これらはいずれも定量性のあるゴールであり、そして、どうやって個々のゴールを達成するかについては決められていないのがもう一つの特徴だと思う。


つまり、方法は各選手に委ねられているのだ。


例えば、”3球目までにツーストライクとする”というゴールについて、強いストレートを持っている投手はストライクゾーンでファウルを打たせるというアプローチもあるだろうし、カーブやチェンジアップが得意な投手は緩急を使ってバッターのタイミングで振らせないという方法もあるだろう。


出塁率についてもそうだ。


ヒットを打つというのはもちろん有効だが、四球を選ぶ、脚を生かしてセーフティバントやゴロでも出塁を目指す、など選手の個性によって様々なやり方が考えられる。


明確で定量的な目標だけを与えて、達成方法については選手に考えさせるというコーチングをしているわけだ。


キャンプが終わったばかりの今、この取り組みの成果がどの程度あったのかはまだ知ることができない。


それは、明日からのオープン戦そしてシーズンでの戦いを通じて徐々に明らかになっていくことだろう。



しかし、昨日のキャンプ打ち上げで佐野恵太キャプテンが選手全員に向けて語った、


”チャレンジャーとして、挑戦する者として、これからどんな壁に当たっても立ち向かって行きましょう”


という言葉には、三浦監督の問いかけに対して、自分たちで考えてどんな壁も乗り越えていくという強い意欲を感じる。




”この世で成功する人とは、立ち上がって、自分が望むような状況を探し回り、もし見つからなければそれを作り出す人だ”


バーナード・ショー