平良健太郎の粘投を見てピッチングの力学系について考えた
3月15日 今日は横浜スタジアムで行われるオープン戦の最後の試合だ。
横須賀スタジアムでは春季教育リーグの試合も行われた。
今日までのところは、戦力の振り分けが目的で勝敗は二の次という采配に徹している。
オープン戦とは言え勝つ方が気分が良いに決まっているが、首脳陣の方針が上述した通りであれば、我々ファンとしてはやはりチームを信じて”勝ち負けは気にしない”モードで応援するべきだろう。
【平良拳太郎の際どいところでの安定性が光った】
横浜スタジアムでのオープン戦は、昨日に続いて、開幕カードの対戦相手でもある阪神タイガースとの試合で、先発はトミージョン手術からの復活(とは本人は言ってほしくないそうだが)を目指す平良拳太郎だった。
初回のタイガースの攻撃
先頭の近本選手を外野フライに打ち取った後、フォアボール二つと新外国人のノイジー選手のレフト前ヒットでいきなり満塁のピンチを迎えた。
二つのフォアボールはいずれも際どいところを攻めた結果であり、ストライクが入らないというような低レベルのものではなかった。
ただし、ノイジー選手に打たれたボール真ん中に入った失投で、この辺りの精度を上げていくことがこれから開幕に向けての課題だろう。
しかし、その後の平良投手は落ち着いていた。
佐藤輝明選手を膝もとのシンカーで空振り三振に打ち取ると続く板山選手は初球を打ち上げてショートフライ。無失点で切り抜けた。
2回は三者凡退(うち一つは蝦名選手のファインプレーに救われたセンター前方へのフライ)に抑えたが、3回も小幡選手のヒットと大山選手への2打席連続となるフォアボールで二死一、二塁のピンチを迎えた。
ここでも佐藤輝明選手をセカンドフライに打ち取ってことなきを得た。
しかし、平良投手の苦難はこれで終わらなかった。
4回にもフォアボールと熊谷選手のサード内野安打で二死一、二塁。ここもなんとか踏ん張って近本選手をライトフライに打ち取った。
そして、4回終了時点で既に投球数は96球となっていたが、首脳陣は当初の予定通り5回まで平良投手をマウンドに送ることを決心した。
5回にもツーアウトをとってから大山選手にヒットを打たれ、続く佐藤輝明選手のライトへのツーベースヒットで二、三塁のピンチとなった。
しかし、ここでも板山選手を1-2と追い込んでから外角低めのシンカーで空振り三振に打ち取りタイガースの得点を許さなかった。
今日は5回、113球で降板した。
ストレートの最速は145km/hで彼としては十分だったが、100球を超えた5回にはストレートの球速が130キロ台後半にまで落ちていた。
被安打5、奪三振4、与四球4はWHIP1.80であり決して良くないが、手術後恐らく最多の球数を投げて無失点で終えたことを評価すべきだろう。
肝心なところで生命線のシンカーの制球を一度も間違えなかったのは平良投手らしい。
平良投手とある意味対照的だったのが2番手で登板した中川虎大投手。
代わったばかりの6回表、先頭の糸原選手にセンター前ヒットを許し、その後三振や送りバント失敗などがあり二死一塁だったので、何とか抑えるかと思ったが、近本選手、小幡選手に連続でヒットを許しあっさり失点した。
そして、7回にも先頭の大山選手に簡単にライト前にヒットを打たれ、代走の植田選手が盗塁。
さらには佐藤輝明選手を歩かせて無死一、二塁のピンチ。
ここで板山選手を6-4-3のダブルプレーに打ち取り、流れを渡さなかった、というのが野球あるあるなのだがそう行かないのが中川投手の問題なのだ。
続く糸原選手にセンターへのヒットを打たれ、三塁に残っていたランナーが生還して追加点を許す。
今日の中川投手は2回 被安打5、奪三振2、与四球1、失点2というものだった。
簡単に言えば肝心なところで踏ん張れない。
彼を見ていると、やはり、ピッチャーは良い時にどれだけすごいボールを投げられるかではなく、悪い時にどれだけ粘れるかが大事なんだな、と思う。
かつて江夏豊さんが言っていたように
”ピッチャーは一球で地獄を見る、バッターは一振りで天国に上がれる”
ということだ。
鎖の強さは最も強い部品がどれほど強いかではなく、最も弱い部品がどれほど脆弱かで決まるのだ。
今日の平良投手のピッチングと中川投手のピッチングを見ていて、力学系の平衡というコンセプトを思い出した。
下の図にある黄色い球は左右どちらの場合も平衡の位置にあり、外力がかからなければずっとそこに留まる。
しかし、何らかの原因でほんのわずかなズレが生じた場合、左の図ではそのズレは自ずと消滅して平衡に戻るのに対して、右の図では、どれほどわずかなズレであってもそれは徐々に拡大し最後は球は下に転がり落ちてしまう。
つまり、左の図では球は”安定な平衡”にあるのに対して、右の図では球は”不安定な平衡”にあるということになる。
ピンチで追い詰められた時の平良投手は左の安定な平衡で投げ続け、中川投手は不安定な平衡で何かの誤差やアンラッキーがあるとあっという間に転げ落ちてしまう危うさがあるように思える。
やはり、一軍の先発ローテーションや勝ちパターンに入る投手はこの意味での安定性を持っていなければ大事な場面で起用することはできない。
昨日の宮城投手や今日の中川投手、京山投手などもそうだと思うが、彼らが安定性を身につけるためにはどんな修行が必要なのだろうか?
恐らく、どんなピンチでも自分の力を疑わなくなるほどの絶対的な練習量と修羅場の経験なんでしょうね。
攻撃陣はわずか2安打だったが、そのうちの1本は新人の林琢真選手の六試合連続となる内野安打で、彼は次の打者の初球に盗塁も決めてみせた。
林選手の開幕一軍はかなりはっきりと見えてきたのではないだろうか。
石井琢朗チーフ打撃コーチの評価
”積極的に行くところと追い込まれてから粘れるというところと、そういう二面性をしっかり持っている。
積極的に行くバッターはいるんですけど、行きっぱなしでカウントを作れなかったり、粘れなかったりする選手が多い。
これはやろうとしてもなかなかできなかったりするが、それを兼ね備えている。
それこそ大事な戦力になるかなと思っています”
【ファームはしぶとく逆転勝ち】
横須賀の春季教育リーグ 対日本ハム戦は上茶谷大河投手が先発した。
結果的に5回、被安打5、奪三振7、与四球1という成績は数字だけ見るとまずまずだが、日本ハムのファームの打者がボール球を振ってくれて助かったことも度々あったように思う。
1軍の打者だったら手を出さず粘られていたことだろう。
今日の投球を見て上茶谷投手を先発ローテーションに入れるという判断は(他の投手の故障などで)消去法的に決まる以外はちょっと考えにくいのではないかと思う。
何とか無失点で抑えはしたものの、2番手の阪口投手のピッチングもそあまり感心しなかった。
あまりストレートの球速で押そうとはせず、力感のない投げ方で緩急をつけたピッチングをするというのは良いと思うのだが、やはり、その場合には狙ったところに投げ切れるコマンドの力がもっと必要になってくると思う。
6回表に無死満塁のピンチを迎えた後ファームの下位打線とはいえ三者連続三振に切ってとったのはもちろんまぐれなどではない。
やはりそれだけのポテンシャルのある投手であることは間違いないと思うので、ここぞというところでギアチェンジしてストレートの球速もコマンドも上がるような投球ができるようになれば若手のエース候補ということだってあり得ると思う。
彼の更なる努力を期待したい。
打撃陣はヒット9本で2点を挙げた。
ドラフト一位の松尾汐恩選手と次世代の大方候補である小深田大地選手がそれぞれマルチヒット、そしてファームではのびのびプレーする知野直人選手の2点タイムリーヒットで2-1と逆転勝ちした。
今日の三浦監督のコメントでは、オープン戦で色々な選手を見てきて、そろそろ振り分けの材料は揃ってきた、ということなので、これからはスクリーンアウトされなかった選手たちでチームとしての形をデザインし勝負できる状態にしていくことになる。
17日からのPayPayドームでのソフトバンク戦に注目しよう。
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