mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

マグヌス小園、荒れ球濱口、ピッチトンネル平良が全員5回無失点の好投




3月23日 昨日のWBC決勝の激戦の記憶がまだ鮮明に残っている。


これからシーズン戦に向けて気持ちを切り替えていくには、侍ジャパンのメンバーたちも、我々ファンももう少し時間が必要かも知れない。


ローンデポパークで準決勝と決勝が行われていた昨日と一昨日にベイスターズは以下の四試合を行っている。


3月21日


オープン戦(東京ドーム) ○ベイスターズ 1 - 0 ジャイアンツ


イースタンリーグ(横須賀) ○ベイスターズ 6 - 5 スワローズ


3月22日


オープン戦(神宮) ×ベイスターズ 0 - 2 ジャイアンツ


イースタンリーグ(横須賀) ○ベイスターズ 6 - 4 スワローズ


すでに時間が経っているのでそれぞれの試合の詳細を振り返ることはしないが、タイトルにも書いた3人の先発投手たちのピッチングが全く異なったアプローチであり、かつ、それぞれ興味深かったのでまとめておくことにした。



【小園健太のストレートの秘密はマグヌス効果】


小園投手は21日のジャイアンツ戦で自身初となるドーム球場での先発登板を果たし、


5回、63球、被安打3、奪三振0、与四球2、与死球1、失点0


という成績で勝ち投手となった。


初回二死から中田翔、丸佳浩に連打を浴びて二、三塁のピンチを背負い、さらに、坂本勇人を四球で歩かせて満塁にするという立ち上がりだったが、6番打者の中山礼都を外角ストレートでセンターフライに打ち取り無失点で切り抜けた。



本人は、


”立ち上がりは苦しかったが、光さんが甘くなってもいいから強いボールを投げてこいと。


強いボールを意識して投げて、結果フライでアウトが多かったので良かったと思う”


と語っており、このピンチを切り抜け、伊藤光のアドバイスもあって細かなコントロールにこだわりすぎず思いきり腕を振って投げ込んだことが奏功した形だ。


この日小園投手が奪った15個のアウトのうち実にフライアウトが11個で、三振は一つもない。


この点について、インターネット上では小園の不思議とか無失点で抑えたのは幸運だった、というような意見が見られるが、私はそうしたことではなかったと考えている。


本人も”自分の球質的にもフライを打たせる投手だと思っているので、フライで多くアウトを取ることができたのは良かったと思っている”と語っているように、彼はこういう投手なのだろうと思うのだ。


この日のストレートの球速は140キロ台中盤で最速が146km/hだった。


確かに、佐々木朗希や髙橋宏斗などのようなパワーピッチを期待する向きには不満の残る内容だろうが、彼は球速ではなく球質で勝負するピッチャーなのだ。


入団時から言われているように、彼のストレートの回転軸は1時方向、つまりほぼ純粋なバックスピンであり、スピンレートも高い。


このため、ストレートのホップ成分は50cmを超えるという上原浩治さんや藤川球児さんのような高い数値を示しているのが特徴だ。


強いバックスピンがかかるとボールの上は低圧力、下は高圧力となるため、この差によって浮力が生ずる(マグヌス効果)。



このため、無回転で重力に従って沈んでいくボールと比較して、バックスピンのかかったボールはあまり沈まないことになり、無回転のボールを基準に考えれば浮き上がるようなボールとなる(この二つの差がホップ成分と呼ばれる)。


もちろん、ピッチャーの投げるボールは無回転ではないのでホップ成分があるわけだが、NPBの平均であるホップ成分42cmに慣れたバッターの目には小園投手のストレートは浮き上がるように感じ、彼らのバットはボールの下を通ることになるのだ。


これが、ジャイアンツの打者たちがフライを上げまくった理由(従って、幸運が理由ではない)と考えられる。


球速が150キロ台ではないので一軍では通用しない、という声も聞かれるが、実はホップ成分が最も大きくなるのは140キロ台中盤であり、150キロを超えるようになると速すぎて浮力の効果はむしろ小さくなると言われている。


藤川球児さんの火の玉ストレートで140キロ台中盤から終盤を保つようにしていたのもこうした背景があると言う人もいる。


小園投手もバウアー投手や今永投手と同じようにラプソード等の投球データからピッチングを組み立てる理論派であることを自ら語っており、彼は球速アップにこだわるのではなく、ホップ成分の大きい球質の良いボールを目指していると見るべきだろう。


彼はしばらくファームで球速アップのトレーニングをした方が良いと言う人もいるが、彼のラプソードの実測データ等を熟知しているベイスターズ首脳陣は我々ファンよりも小園投手の力を高く評価しているように思う。


開幕時の先発ローテーションは流石に難しいにしても、10日以上の間隔を空ける”投げ抹消”のモードでしばしば一軍の試合で登板する可能性は十分にあるだろう。



【荒れ球とノーコンのはざまにいる濱口遥大】


濱口遥大は22日のヤクルト戦で先発し、


5回、100球、被安打5、奪三振4、与四球4、失点0


と言う成績を残した。


WHIP1.80で無失点というのはまことにハマちゃんらしい。


毎回、四球やヒットで複数のランナーを溜めるが、そこから粘ってホームには還さないというピッチングだ。


           花沢さんだった頃のハマちゃん



彼の投球をインターネット配信で見ながら、私は、荒れ球とノーコンという似ているけれでも異なる特質について考えていた。


このブログでもすでに書いているが、MLBでは、ストライクゾーンに投げ込める能力をコントロールと呼び、狙ったポイントに投げ切れる能力をコマンドと呼ぶ。


この用語を使うと、荒れ球というのはコントロールはありストライクは取ることができるのだが、コマンド能力は低いため、本人もストライクゾーンの中のどこに行くのか制御しきれない状態を指しているということができる。


そして、荒れ球という言葉にはむしろポジティブな意味合いが多く含まれている。


それは、適度なバラツキがあるために、配球を読んで打つような熟練のバッターほど意外なコースに唐突にやってくるボールに対応できないと説明されることが多い。


一方、ノーコンというのは文字通りコントロールがないことであり、ストライクが入らない状態を指す。


相手投手がノーコンだったら、バッターの戦術は極めて簡単になる。


何もしなければ良いのだ。そうすれば自動的に四球で出塁することができる。


こうして見ると、良い時のハマちゃんは荒れ球が持ち味であり、悪い時のハマちゃんはノーコンで自滅すると言って良いだろう。


そして、ハマちゃんの場合、この二つの顔のどちらが出るのか、その日投げてみないと誰にもわからない。


今シーズンのハマちゃんは昨年後半のように、ノーコンにならず、まとまり過ぎて打ち込まれることもなく、適度な荒れ球という最適解を見出すことができるだろうか?


まずは4月4日からの本拠地開幕カードでどちらのハマちゃんが顔を出すか、注目していきたいと思う。



【平良拳太郎の投球に見るピッチトンネルの効果】


右肘のトミージョン手術からの復帰を目指す平良拳太郎は22日のイースタンリーグヤクルト戦で先発し、


5回、79球、被安打3、奪三振7、与四球1、失点0


という成績をおさめた。


手術前の好調時と同様、打者を圧倒するような球威があるわけではないが、ストレート、スライダー、カットボール、シンカーを内外角のコーナーに投げ込んでいくピッチングだった。



彼の投球の長所は荒れ球が持ち味のハマちゃんとは真逆で、ビッタビタに決目られるコマンド能力の高さにある。


コマンド能力が高く、シンカーとスライダーなど逆方向に曲がる変化球を持っている投手の武器はピッチトンネルと呼ばれる配球だ。


よく言われることだが、バッターが投球のスピードや球種そしてコースを見極めてスイングを開始できるのはインパクトの瞬間の0.175秒前までと言われる。


つまり、球速によって異なるが、ピッチャーの投じたボールがホームベースの5~7m程度手前に達するまでの軌道でバッターは判断を下してスイングすることになる。


リリース後ホームベースの5~7m程度手前までの軌道が同じでその後の動きが異なるボールを連続して投げるというのがピッチトンネルのコンセプトだ。



ピッチャーの腕の振りやリリースポイント等が同じで、リリース後ホームベースの5~7m程度手前までの軌道が同じで、その後逆方向に曲がったりあるいは真っ直ぐ進んだりするボールを続けて投げれば、バッターは前の投球と同じボールと認識してスイングすることになる。


下の図は前のトンネル差異(ホームベースの5~7m程度手前の時点での前のボールの軌道との差)とプレート差異によって空振り率がどの程度異なるかを整理したものである(MLBの例)。



同じプレート差異であれば、トンネル差異が小さいほど空振り率が高くなっている。


つまり、ピッチトンネル効果によって打者は連続して投げられたボールが同じものと認識してスイングするが、ホームベースまで到達すると差異が大きいので空振りしてしまう。


平良健太郎は同じトンネルを通して投げ続けるだけのコマンド能力を持っており、しかも、それぞれのボールにキレがあるためトンネル通過後つまり打者の手元での変化量が大きいことから、ピッチトンネルを構築するには打ってつけの投手ということになる。


昨日の試合でも、左打者のアウトコース一杯のストレートでストライクをとり、次に同じトンネルを通してから低めのボールゾーンに沈むシンカーを投げて空振りを奪う、というような配給をしばしばやっていた。


私は彼の昨日の投球を見て、平良拳太郎が完全に復活しつつあることを感じた。


彼もハマちゃんと同じく本拠地開幕カードでの先発が濃厚だ。ピッチトンネルを駆使して必ず復活を確かなものとする高騰をしてくれるものと信じている。