平良拳太郎が悲願の東京ドーム初勝利
因縁の場所、あるいは奇妙な縁のある場所というものがある。
平良拳太郎にとってはそれが東京ドームなのだろう。
平良投手は2013年ドラフト5位で沖縄の北山高校から読売ジャイアンツに入団した。
そして、2016年にようやく掴んだプロ初先発の舞台は東京ドームの阪神戦だった。
3回までは4連続三振を奪うなどパーフェクトに抑えていたが、4回に福留選手に先制ツーランホームランを浴び、さらに投手のメッセンジャーにも2点タイムリーヒットを許して4失点となり降板。
この試合では、メッセンジャーのボールをライト前に打ち返したが、福留選手の好守でライトゴロに終わると言う珍しい経験もした。
ほろ苦いデビュー戦だったが、いずれここで勝ち投手になるだろうと皆が予想していた。
しかし、運命の女神は気まぐれだった。
2017年初頭に山口俊投手がFAでジャイアンツに入団した際の人的補償でDeNAベイスターズに移籍。確かこの時、当時GMだった高田繁さんはリストに平良拳太郎の名前があるのを見つけて即決したと仰っていたと思う。
平良拳太郎と言う投手は、驚くほど速いストレートや凄い変化球がある訳ではないが、ボールのキレとコースに投げ切る制球力で打者としっかり勝負できる能力を持っていることは当時から知られていたのだろう。
DeNA入団後、2017年に中日戦でプロ初勝利を挙げると、その後、2018年から5勝、5勝、4勝と勝ち星を積み重ね、徐々にチーム内での先発投手としての地位を築いて行く。
2019年には古巣ジャイアンツでバッテリーを組み師事していた阿部慎之介選手の現役最後の試合でベイスターズの6番手として登板した。
阿部選手はその前の回で交代する予定だったが、平良拳太郎が登板すると知り、志願して4回目の打席に立った。
結果は内角のボールに詰まってセカンドフライ。
古巣でバッテリーを組んでいた阿部選手は平良投手の実力を高く評価していたが、アイツは優しいから内角を厳しくつけない、とも言っていたらしい。
その平良投手が最終打席で内角の厳しいコースに投げきり打ちとられると阿部選手は、ナイスボール、と言ってニッコリ笑ったそうだ。
これも東京ドームでの出来事である。
そして、2021年3月28日の巨人戦。先発ローテーションの椅子を勝ち取っていた平良投手はこの試合に先発し、5回までパーフェクトに抑える好調ぶりだった。
しかし、6回には急転し、肘に違和感を覚え降板。
この試合も東京ドーム。
結局、その年の6月にトミージョン手術を受けることになり、それから一年以上をリハビリに費やし、育成契約からの再出発となった。
平良投手のリハビリ期間に合わせて今永昇太が手作りした日めくりカレンダーの最終ページ
7年間にわたって実に色々なことがあった東京ドームで平良拳太郎は今まで勝ったことが無かった。
そう、昨日までは。
5月23日 東京ドーム
ベイスターズ 6 - 3 ジャイアンツ
勝 平良拳太郎 3勝1敗 0S
負 赤星優志 0勝 4敗 0S
本塁打
牧秀悟9号(8回表ソロ)
岡本和真8号(9回裏ソロ)、秋広優人3号(9回裏2ラン)
今日のベイスターズは初回先頭の佐野恵太がライト線を破るツーベースヒットで出塁すると、関根大気の送りバント、宮﨑敏郎の内野安打の間に1点を先制すると言うどこかの試合巧者のチームのような攻撃を見せた。
その裏のジャイアンツの攻撃。先頭の中山選手をレフトフライで打ちとったが、続く丸選手への3球目を強烈に打ち返され、打球は平良投手の右肩を直撃してサード方向に転がった。
宮﨑が上手くカバーしてアウトにしたが、平良の肩は大丈夫なのか?
一旦ベンチに戻って治療し、ブルペンで投球して状態を確認してからマウンドに戻った。
このブルペンでの試投の様子がテレビで放映されていたが、平良自身が今日一番のボールが行っていたので大丈夫だと思った、と言っていた通り、問題なく投げられているように見えた。
今日一番のボールと言うのは冗談だろうが、マウンドに戻って飄々と投げ続ける姿を見ると、優しげな風貌とゆったりした話し方の奥には柔らかく決して折れない強い芯があるのだろうと思った。
“なよ竹の 風にまかする 身ながらも たわまぬ節は ありとこそ聞け”
そうだ、ありとこそ聞け。
ともかく、平良はその後も飄々と投げ続け、アウトを積み重ねて行く。大したものだ。
私は彼のピッチングのバロメーターはストライクゾーンから低めに外れて行くシンカーを空振りさせることができるかどうかだと思っている。
ストレート、カットボール、スライダー、そしてシンカーがピッチトンネルを構成するように投げ込まれるとこうした状況になり、相手バッターを翻弄することができる。
今日はそれが出来ていたし、打線も彼を良く援護した。
3回には一死一、三塁で2番関根大気が右中間を破る2点タイムリースリーベース。
さらに宮﨑の犠牲フライの後、二死一、二塁で桑原将志がレフト前にタイムリーを放ってこの回4点目。リードを5-0に広げた。
8回には牧秀悟がストレートを逆方向に強く叩き、ライトスタンドに飛び込む彼らしい9号ソロでダメを押した、筈だった。
結局平良投手は7回を投げ切って以下の成績を残した。
7回、108球、被安打4、奪三振4、与四球1、無失点
8回は2番手の石川達也が無失点でおさえたが、9回裏に登板した坂本裕哉は制球で苦しんだ。
2-0からストライクを欲しがって、エイやっと投げ込んだストレートがまん真ん中に入り岡本和真にレフトスタンド上段に運ばれた。
その反動か続く梶谷隆幸はフォアボールで歩かせ、怒りの三浦監督がここで降板を命じた。
結局坂本はワンアウトもとれずに降板し、困った時の上茶谷こと上茶谷大河が急遽登板したが、この状況はさすがに気の毒な感じもした。
準備不足だったのか彼もコントロールがもう一つで、続く秋広選手に投げたチェンジアップが真ん中高めに浮いてバッティング練習のようなボールになってしまった。
これも簡単にスタンドまで運ばれてツーランホームラン。これで6-3となり、楽勝ムードは吹っ飛んだ。
テレビではブルペンで山﨑康晃が急いで準備する姿が映され風雲急を告げたが、上茶谷はここでようやくエンジンがかかったのかその後の3人をショートゴロ、三振、外野フライに打ち取りゲームセット。
こうして平良は悲願の東京ドーム初勝利を手に入れた。彼の試合後のコメント。
“巨人に入団したとき、東京ドームで勝つことを目標にした。
10年かかって、チームは違いますけど、勝てて良かった”
おめでとう、平良。今日は十分に患部をケアしてゆっくり休んでください。
最終回のジャイアンツの反撃で明日の試合が心配になったけれど、それは石田健大さんになんとかしてもらうことにしよう。
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