スクイズ失敗から始まったカタストロフ
catastropheという言葉はフランス語源らしいが、突然の大惨事、破滅を意味する。
ずいぶん前にカタストロフィー理論というのが流行った。
これは、わずかな条件の変更で現象が全く別の様相に飛び移ってしまうような不連続な変化を扱うものだった。
考えてみると、野球の試合の流れがちょっとしたミスから大きく変わり、勝敗がひっくり返る、ということは今までに嫌というほど見てきた。
これもカタストロフの一種なのだろうか?
今日の試合はアンソニー・ケイが三つのフォアボールを出して球数を費やしながらも2安打無失点で7回まで投げきり、ベイスターズが1-0でリードする展開だった。
しかし、1点のリードというのはあって無いようなものなので、喉から手が出るほど追加点が欲しい。
7回裏のベイスターズの攻撃、先頭の山本祐大がレフトオーバーのツーベースで出塁する願ってもない状況。
次打者の梶原昴希には送りバントの指示が出ていたようだ。
しかし、とてもでは無いがバットにボールが当たりそうには見えない。
準備は出来ていたのだろうか?
いや、そもそも基本の練習はしていたのだろうか?
三浦さんの采配は、現実に目を向けず、やってくれないと困るからやってくれるはずだ、という進次郎構文のような謎のロジックで決定されていると思える時がある。
今日のこの場面は、盤上の桂馬に向かって「一つ前に進め」という指示を出しているように見えた。
そして、桂馬は途方に暮れていた。
案の定、梶原選手はツーストライクと追い込まれて強硬策に転じ、高めのボールをなんとか引っ張ってライト前ヒットにした。
やはり桂馬は桂馬翔びなのだ。
結果的にノーアウト一、三塁とチャンスが拡大。
しかし、これはあくまで結果オーライというだけのことで、この記事のタイトルに書いた「スクイズ失敗からのカタストロフ」というのは、実はこの桂馬の困惑から既に始まっていたようにも思える。
続く京田陽太の打席で、ベンチはスクイズのタイミングを見計らっていたようだ。
そして、2-1という絶好のカウントでスクイズを命じたが、簡単に言えばタイガースベンチの方が上手だった。
ボールになっても良いという覚悟で低めのフォークあるいはチェンジアップを選択した。
シュート回転して左打者から遠ざかりながら落ちていくボールをしっかりバットに当てて前に転がすのは至難の技だ。
ファールとなって再び強硬策。
今度はセカンドに転がすゴロで、ゴロゴーであればなんとか生還できるだろうと思って見ていると、三走の山本祐大は途中で止まってしまい、挟殺プレーでアウト。
阪神のランダウンプレイはソツがなく、梶原はセカンドまでしか進めない。
虎の子のサードランナーを失ったところで、チャンスが潰えたことはほぼ決定だった。
ケイの代打筒香嘉智はストレートにかすりもせずに空振り三振。
桑原将志もセンターライナーに倒れた。
京田陽太のスクイズ失敗が元凶のように言われているが、上にも書いたように、ベンチワークの差と見るべきだと思う。
ノーアウト一、三塁という絶好のチャンスを潰したことで流れはタイガースに傾き、その後はご存知の通り。
登板した全てのリリーバーが打たれ、8回、9回だけで7失点という破滅的な敗北となった。
たしかに伊勢大夢のボールは全て上ずっていて、いつものキレも無いように見えた。
しかし、そういった個人の状態や力量というものをこえて、ベイスターズの守備の破局へと向かう大きな流れに呑まれたように思える。
突然の雨もあって、観客はスタンドを後にし、見慣れない空席ばかり目立つ景色が残された。
目の前で橋が崩壊していく情景を見ているようだった。
こうなると、もう誰にも止めることはできない。
しかし、試合は明日も続く。
仮設の突貫工事だろうが、明日の夕方までには橋をかけ直してプレイボールに備えなくてはならない。
そして、夜になれば、暗闇の中でサーカスのように眩しく照らし出された舞台で、また、命がけの勝負を繰り広げるのだ。
考えてみれば、いや、考えてみるまでもなく、因果な商売だ。
監督、コーチ、選手の皆さん、せめてベッドでは野球のことを忘れてしっかり休み、明日また元気な姿を見せてください。
Good night, sleep tight!



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