mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

このまま行けと、田中 健二朗の中の田中 健二朗が命じるんだ

10月5日 対タイガース 2-5 負け


前回に続いて、坂本裕哉のピッチングは余裕がなかった。


初回、先頭バッターの近本にストレートをセンター前にはじき返されて、速球に自信が持てなくなったように見えた。そして、代わりに選んだ変化球が甘いコースに入ることが多く、連打を浴びて早くも4点を献上した。

59打席ノーヒットの佐藤輝明にヒットを打たれたのは、厄落としと思っておこう。


2回は下位打線ということもあって少し落ち着いたが、3回には大山がライトスタンドぎりぎりに飛び込むソロホームラン。これで5対0。

横浜スタジアムでなければライトフライだったかも知れないが、大山はしっかり振り切っていた。横浜でのホームランの打ち方を一番よく知っているのは、実は、彼かも知れない。


打線の方は、5回に関根の内野ゴロと桑原のタイムリーツーベースで2点を挙げたところまで。苦手の青柳が相手とは言え、あまり良いところはなかった。


ところで、毎年秋風が吹く頃になるとやって来る戦力外通告は今日だった。


乙坂智外野手(27)、飯塚悟史投手(24)、斎藤俊介投手(27)、勝又温史投手(21)、進藤拓也投手(29)、武藤祐太投手(32)、風張蓮投手(28)、笠井崇正投手(27)、R・コルデロ投手(23)、中井大介内野手(31)の10名(うち8名が投手であることは、来季の編成の方向性を示唆していると思う)。


それぞれにプロ野球選手としてのストーリーがあり、私の記憶に残っているプレイもいくつかある。クライマックスシリーズで乙坂の打った通算2本の本塁打はこれからもずっとおぼえていることだろう。


彼らにはこれからもそれぞれの人生があり、今後の活躍と多幸を祈ってやまない。しかし、私はベイスターズで定点観測しているので、彼らが去って行くことの寂しさを感じる。

これまでにも多くの選手たちが戦力外となって、或いは引退して、プロ野球の世界から去っていった。やはり寂しい。


この寂しさを私に代わって斎藤茂吉が詠んでくれた歌がある。


さ庭べの 八重山吹の 一枝散り しばらく見ねば 皆散りにけり (赤光より)


いやしかし、寂しいことばかり書いていても仕方あるまい。少し元気が出るような言葉を並べてみようと思う。


勘違いしちゃいけないのは、下に落ちるっていうことが、進化してないということではないんですよ。下に落ちるのも、次に昇るための変化かもしれない。昇るために、落ちることが必要なこともある。 本田圭佑


成功があがりでもなければ、失敗が終わりでもない。肝心なのは、続ける勇気である。 ウィンストン・チャーチル


敗北?私はその言葉の意味を存じません。 マーガレット・サッチャー


ガキの頃からイロハを習い、ハの字を忘れてイロばかり (これはちょっと違ったか)


最初、サンザンな目にあう。二度目、オトシマエをつける。三度目、余裕。こういうふうにビッグになっていくしかない。それには、サンザンな目にあった時、落ちこんじゃだめだ。 矢沢永吉


こけたら、立ちなはれ 松下幸之助


少し元気が出てきた。そう言えば、今日のタナケンは良かった。

トミー・ジョン手術を終えて一軍に復帰してから5戦で無失点だ。中野から見逃し三振を奪った外角低めいっぱいのストレートは素晴らしかった。怪我する前よりよかったんじゃないか?イヤッ、絶対そうだ。


最後にもう一つ。


明日になれば明日の太陽がまたピカピカやねん。 じゃりン子チエ


山崎康晃を今呑みこんでいる嵐とその向こうにあるもの

先日の記事で、麻雀放浪記のドサ健のセリフを引用した。それはたまたまだったのだが、それ以来、今まで並べてみたことのなかったプロ野球と戦後の焼け跡で行われた賭け麻雀について、いくつか共通点があるような気がしてきている。


山﨑康晃について書くこの記事は、この辺から始めてみようと思う。


例えば、サイコロというのは、我々のような常人にとっては、1から6までの数字をランダムに出してくれる統計的な装置だが、かつて商売人と呼ばれたプロ雀士の中には、何ヶ月も寝る間を惜しんで練習し、かなりの確率で決まった目を出せるようになった人達がいた。この技を使って、自分の山に積みこんだ役満の牌(イカサマです)を自分のパートナーにひかせる(勿論イカサマです)。


別の雀士は、麻雀牌の裏側にある竹の一つ一つ微妙に異なるパターンを全て記憶して、裏返しにしている対戦相手の持っている牌を読みとってしまうというスキルを身につけた。当時でも少し時間が経つと麻雀牌は新しいものに交換していたようなので、その僅かな時間に牌を記憶するのは超絶的な技と言える。


賭け麻雀でもプロ野球でも、勝負事には必ず相手がある。そして、相手はその時々のスタンダードを想定して戦術を練ってくるので、そこからわずかでも、しかし確実に上回る何かを持てば、それが決定的なアドバンテージになり得る。


必殺技というのは恐らくそう言うものだろうと思う。


プロ野球の世界では、18.44m 離れたピッチャーマウンドから140キロに近いスライダーで外角ぎりぎりを狙ってボール一個分の出し入れをするコントロールを磨く人達がいるが、これもまた、サイコロの出目を思うように操るような、常軌を逸した、つまりスタンダードを超えた技術ではないだろうか。


山﨑康晃が2015年にデビューした時、彼は上に書いた意味での必殺技を持っていた。

彼がツーシームと呼ぶ特殊球だ。


このボールは、亜細亜大学野球部時代に先輩の東浜巨(現ソフトバンク)からカープの九里亜蓮と山﨑康晃が伝授されたものだそうだが、この三人の投げる同じルーツのボールは実際の動きが微妙に異なる。

この三人がかつての雀士さながら常軌を逸した練習をして、この必殺技を磨いていくプロセスは、想像することしかできないが、凄まじいものだったに違いない。


2015年に山﨑康晃がデビューした時、当時のスタンダードに合わせたバッティングでは、かすりもしないと言うことがしばしばあった。我々は狂喜して、歓声を送ったりジャンプしたりした。

しかし、私たちはその時から、(クロスステップで投げ込むキレの良いストレートは勿論大きな武器だが)この一つの必殺技にかけた彼のクローザーとしての成功に何か危ういものを薄々感じていて、それがまた、プロ野球の中でも少し異例の山﨑康晃の際立った魅力となっていた。


それから、山﨑康晃は170個のセーブを積み重ね、その間に失敗もしてきている。私は、彼の生命線はツーシームがわずかだが決定的にスタンダードを上回っていることだと考えているが、その生命線が破綻したと思われる危機も何度かあった。スタンダードは時と共に変化するのだ。中でも、昨年から始まった今回の危機は最大のものと思われる。

彼はこれまで、努力によって危機を乗り越えてきたが、今回はまことに厳しい。

そして、かつて歓声を送りジャンプしていた人たちは、彼の体型や生活など色々と批判し、リスペクトが失われつつあるようにも見える。


そう、彼は今、嵐の中にいるのだ。


そして、この嵐の中で彼を救うことができるのは、彼自身しかいないのだろうと思う。彼がもう一度、スタンダードを超えた必殺技を編み出すための常軌を逸した努力をすることができるかどうかに全てがかかっているように私には思える。


勝負事といえば、プロの将棋の世界も思い出される。映画になって人気の出た3月のライオンと言うマンガで、名人に挑んで決定的な敗戦を喫した先輩棋士について、主人公である桐山零が次のように語る箇所がある。


倒れても、倒れても、飛び散った自分の破片を掻き集め、何度でも立ち上がり進んでいく


繰り返しになるが、山﨑康晃を救うことができるのはたった一人、彼自身をおいて他にはいない。彼が、今現在飛び散ってしまっている自分の破片を掻き集め、もう一度立ち上がって前に進んでいくと言う決意を持つかどうかにかかっているのだ。


誤解の無いように言っておくが、私はそうして欲しい、とか、そうであることを信じている、といった気持ちを持っている訳ではない。彼のこれまでの努力と、もしこうした決意を持った場合のこれからの苦難を想うと、とても気楽に頑張れとは言えない。


桐山零が言っているように、嵐の向こうにあるもの、それはただ更に激しいだけの嵐なのだ。


山﨑康晃選手、何ヶ月かかっても良いので、自分自身で納得のいく答えを見つけることができるよう、心から祈っています。


デビュー当時、張りつめた弓から矢が放たれるような山﨑康晃投手のピッチングフォーム

伊勢大夢の旅のはじまり

10月3日 対ジャイアンツ(東京ドーム) 3-3 引き分け


今日の今永昇太は、ストレートのキレもチェンジアップの抜けも良く、コーナーに丁寧に投げ続けていた。


7回118球、13奪三振で被安打3(ただし、そのうち2本がソロホームランで2失点)。ハイクオリティースタートの堂々たるピッチングだった。


7回裏の丸への2球目は変化球が真ん中に入る明らかな失投で、これさえなければというところだが、とても責める気にはならない。むしろ、丸との相性の悪さが失投を呼ぶことになった悲運を感じた。

しかし、今永なら、「相性が悪いから、なんていうのはレベルが低い。幼稚な考え方。そこをどうするか考えることでランクが上がる」とか言いそうな気がする。


そう、偶然とは意志がもたらす必然なのだ。


こうして、ベイスターズはエースとファンを哲学的にする。


5回表の攻撃のことも少し書いておきたい。先頭打者の宮﨑が、両手をうまくたたんで内角の難しい球をレフトのポールぎりぎりにソロホームラン。あれがファールにならずにひたすら真っ直ぐ飛んでいくところが、彼の打撃技術の素晴らしいところだと思う。


そして、二死満塁から佐野が高めのボール球を強く弾き返して、フェンス直撃の2点タイムリーとなった。久しぶりに胸のすくような攻めだった。


ところで、今日、私が一番書きたいのは伊勢大夢のことだ。


伊勢は、明治大学から一昨年ドラフト3位で入団した23歳の若者だ。ルーキーだった昨年は、年初に交通事故にあってむち打ちとなり出遅れたが、後半にはブルペンになくてはならない存在になった。

しかし、未だ勝ちパターンに定着した訳ではなく、これまでにセーブ機会での登板もない。


その彼が、先輩クローザー達の不調のために、3-2で一点差の9回裏、敵地東京ドームでジャイアンツの4番から始まる強力な打順と対峙することになった。


さすがに緊張したのか、先頭の4番岡本にはストレートのフォアボール。代走の増田には盗塁されたが、打者のカメーイヨシユキーは力強いストレートで三振に切ってとった。増田の盗塁は三浦監督がリクエストを要求したほど微妙なタイミングだったが、判定は変わらずセーフ。


これがアウトだったら、つまり戸柱の二塁送球がたまたま30センチ右だったら、伊勢は人生初のセーブをあげていたのではないかと思う。しかし、こんなことを言っていると、また、「たまたまで勝ち続けることはできない。なぜ勝ったのかということを、しっかり皆さんに説明できるようにしなくてはいけない」とか言って今永先生に怒られそうだ。


次の丸はライトフライに打ちとってツーアウト。行けるかも知れない、と思った。


そして、ビエイラの代打で大城が出てきた。ストレートは打てそうな気配がなかったが、2ボール2ストライクからの6球目、落ちきらないフォークが真ん中に入ってあわや逆転サヨナラホームランかという飛球がライトフェンス上端に当たって同点タイムリー。


しかしその後は伊勢が踏ん張った。中島敬遠の後、廣岡に死球を与えた時は我が家の神棚に手を合わせたが、次の好調松原はストレートを軸に三振に仕留めてゲームセット。


伊勢がクローザーの大役を自分のものにするには、まだまだ修行の旅が必要だと思う。しかし、私は、彼がクローザーになるために必要な強いストレートと強い心を持っていると言うことをハッキリと感じた。


一つだけ言わせてもらえば、大城に打たれた場面では、キャッチャーの要求に首を振ってでもストレートを投げ込んで欲しかった。この点は次の機会までに良く考えて欲しい。


彼が自分自身の力を誰よりも信じることが、クローザーになるための旅に絶対に必要な切符だと思うからだ。



宮沢賢治「銀河鉄道の夜」より ブルカニロ博士が真の幸福とは何かを探す旅に出ることを決意したジョバンニ(主人公)にかけた言葉。


さあ、切符をしっかり持っておいで。


お前はもう夢の鉄道の中でなしに本当の世界の火やはげしい波の中を大股にまっすぐに歩いて行かなければいけない。


天の川のなかでたった一つのほんとうのその切符を決してお前はなくしてはいけない。