mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

大田泰示選手の復活がベイスターズの守備力を向上させるはずだ

今シーズンのベイスターズの試合を見ていると、広島などの守備の良いチームとの差を感じることが何度かあった。そこで、少しデータを調べてみることにした。


各ポジションを最も多くのイニング守った選手の守備の指標UZR※は以下の通り。


※Ultimate Zone Rating: 同じ守備機会を同じ守備位置の平均的な野手が守る場合に比べてどれだけ失点を防いだかを表す守備の評価指標


一塁手 ネフタリ・ソト・・・・・・・-3.2

二塁手 牧秀悟・・・・・・・・・・・-3.6

三塁手 宮﨑敏郎・・・・・・・・・・ 2.7

遊撃手 大和・・・・・・・・・・・・-5.7

左翼手 佐野恵太・・・・・・・・・・-15.3

中堅  桑原将志・・・・・・・・・・-3.0

右翼手 タイラー・オースティン・・・-2.2


UZRは各チームの同じ守備位置の選手の合計が0となるように設定され、UZR=0であればそのポジションの平均的な守備力を持つこととなる。


±5であれば、それぞれ平均よりもやや優れている(劣っている)と言うこととなり、優秀な選手は10あるいはそれ以上を記録することもある(西武ライオンズの源田選手のUZRは22以上)。なお、-15以下となると非常に劣っていると言う評価となってしまう。


薄々気づいてはいたが、あまりかんばしくない。


平均よりもやや優れていると言う評価になったのは宮﨑選手のみ(規定未到達まで含めると柴田選手が二塁手としてプラス5を記録している)。最近、守備範囲が少し狭くなったようには思うが、グラブさばきの巧みさは健在ということだろう。


その他の選手は軒並みマイナス。守備が良いと言われている桑原選手や大和選手でも平均よりやや劣ると言う評価では厳しい。

他方、オースティン選手は本職が外野手ではないことを考えると健闘していると思う。


打撃は良いが守備を何とかしないと、と言われている佐野恵太選手は-15を超えており、本当に何とかしないといけないようだ(佐野選手のUZRはセリーグの左翼手の中で最下位)。

ブービー賞はタイガースのサンズ選手で-11.4であり、それより上位の選手とは大差がついている。


やはり、足の速くない選手が外野を守るのは難しい。

UZRはあくまで一つの指標だが、やはり実態とかけ離れた結果ではないと見るべきだろう。


改善策としては次のようなことが考えられる。


遊撃手については、森敬斗選手(2021年は217イニングのみだがUZR-0.7)の出場機会を増やす。

これはベテランの域に入った大和選手の休養によって彼の指標改善にもつながる可能性がある。ただし、森選手は無理な送球で大きなエラーをすることもあったので、石井琢朗コーチや田中浩康コーチの指導で大人の守備を身につけることが必要だ。


二塁手については、柴田選手が守備固めで出場し、牧選手がソト選手に代わって一塁に回ると言う今シーズンのパターンが考えられる。

しかし、牧選手自身が今オフは守備練習を頑張って、全試合を通して二塁を守りたいと言っているので、その意欲を尊重したい。チームとしても、彼のような強打かつ好打の二塁手レギュラーの存在は他チームに対する大きなストロングポイントだ。


オースティン選手は打棒を考えれば十分な守備力だと思う。そして、桑原選手は以前ゴールデングラブ賞を獲ったこともあり、来年は復活してくれるだろう。


こうして見ると、やはり一番の改善点は左翼だと思う。佐野選手はもともと内野手登録だったのだが、筒香選手のMLB挑戦に伴って左翼に固定されたと言う経緯もある(その筒香選手も本来のポジションだった三塁にバルディリス選手が入ることになったためにコンバートされたと記憶している)。


牧選手には本人の希望通り全試合二塁手として頑張ってもらい、ソト選手の打撃が復調しないようなら佐野選手をファーストに戻すと言う策が考えられる。

佐野選手は2018年に65イニングと少ないながらもUZR 1.5(1000イニングに換算したUZR1000では22.7)を記録しており、もう一度しっかり練習してくれれば、少なくとも左翼手よりは大幅に改善しそうだ。


この場合は、新入団の大田泰示選手が左翼に入るか、あるいはオースティン選手を左翼に回してライトに入れば良い。

大田選手は、2020年に右翼手としてゴールデングラブ賞を獲得した実績もある。



そして、注目すべきは彼の守備範囲である。

この図は2018年シーズンの大田選手のライトでの守備範囲である。上の図は外野への飛球全体についての捕球確率の分布で、100%捕球している白の範囲が守備位置よりも前、特に一塁線上からファウルグラウンドにまで広がっている(図中の黒い線がNPB全体の平均)。なお、下の図は飛行時間の短いライナーなどに限った場合を示している。



上記のように、二塁手牧秀悟、一塁手佐野恵太あるいはソトという布陣になった場合にポテンヒットやこの二人の届かないファウルフライが多いと言う事態が目に浮かぶが、大田選手が右翼手であれば、かなり救ってくれるシーンが増えそうだ。


大田選手の大きな魅力である長打や走塁を除いても守備面でこれだけのメリットがある。


私は、やはり、三原社長が言っていたように、ベイスターズが大田選手に以前から着目していて、FAでも調査していただろうと言う言葉は本当だと思う。


そしてそれは慧眼だったと思うのだ。ただし、それもこれも2021年シーズンでは守備の指標も大きく低下した大田選手の復活が大前提で、私はこのことに気がついてからずっと彼が2軍施設DOCKで練習に励んでいる横須賀方面に念力を送っている。

東克樹投手は来シーズンに向けて自分自身をどのように設計しているのか

設計というのは、まだ無いものがどうあるべきかを考え、それを具体的な形にしていく行為だ。


将来設計という言葉があるように、我々は皆これからどうなりたいかを考え、その姿や振る舞いに近づけるように努力したり諦めたりする。


対戦相手に研究され対策を練られる立場にあるプロ野球の投手にとって、来シーズンの自身の投球をどのように設計するかは非常に重要な課題だと思う。


東克樹投手は2020年2月にトミージョン手術を受け、長いリハビリを経て今年10月に792日ぶりの復活勝利を挙げた。


そして、2022年は久しぶりにローテーションピッチャーとしてフルシーズンを戦うことになる。来シーズンに向けて彼が投球の設計に意欲的に取り組んでいることは想像に難くない。


今日は、最近のニュース記事やその中での彼のコメントを通じて、東投手が来年に向けて自分自身をどのように設計しているかを考えてみる。



① おしりプリプリ計画

DeNA、開幕投手の濵口が契約更改 東は復活へ「おしりプリプリ計画」

2021年11月24日 https://baseballking.jp/ns/305572


“トミー・ジョン手術から復活し10月23日の最終登板で勝ち星を上げた東克樹は、大幅なダウンにも「3試合しか投げていないので仕方ないと思います」とサイン。


「手術を経験して今シーズン最後に3試合投げられた。来年に向けて希望の光が見えている。自分自身に期待している部分があります」と笑顔を見せた。


現在は「トレーナーさんからパワーを生み出すことに繋がるように“おしりプリプリ計画”に取り組んでいます」と肉体改造に着手。


手術明けの左肘は「問題も不安もなく、万全の状態」で、来季は「5年目なので責任感のある投手として、フル回転で投げていきたいと思います」と完全復活を誓った。“



東投手は、立命館大学2年生の時に左肘痛で一年間登板出来なかった時があり(この頃から今回のトミージョン手術につながる負担の蓄積があったのかも知れない)、その間に徹底的に下半身を鍛えることでストレートの球速を向上させた。


そして、3年時の春季リーグ戦では、京都大学との1回戦でノーヒットノーランを達成するなどの活躍で、リーグのMVP、最優秀投手、ベストナインを受賞した。

また、チームを3季連続のリーグ優勝に導き、全日本大学野球選手権大会にも出場した。


4年の春季リーグ戦では、関西大学との1回戦で再びノーヒットノーランを達成。同じ投手による複数回の達成は、関西学生野球リーグ戦史上初の快挙であった。



昨年受けたトミージョン手術後の長いリハビリでも、筋力強化に取り組んだことは明らかで、復活時の東投手の体型は故障前と比べてかなりがっしりしていることがユニフォームの上からでも見てとれた。


彼が現在推進しているお尻プリプリ計画は、特に下半身を強化することにより、平均140km/h台後半、最速152km/hに達した故障前のストレートの球速を取り戻し、さらに向上させることを目指していると考えられる。


② 遅いチェンジアップ

DeNA東克樹「遅いチェンジアップを」中日笠原らと自主トレで宝刀に磨き

2021年12月19日

https://www.nikkansports.com/m/baseball/photonews/photonews_nsInc_202112180000634-0.html


“DeNA東克樹投手(25)が宝刀チェンジアップに幅を持たせる。


1月は、名古屋で中日の選手らと自主トレを行う予定。「笠原さんのチェンジアップを身に付けられたらいいなと考えている。濱口さんのもそうですが、今より遅いものがあれば武器になる」と、同じ変化球を得意とする左腕から学びたい考え。


トミー・ジョン手術から復帰し、来季の開幕ローテ入りと規定投球回クリアを目標に掲げている。“


東投手は以前からチェンジアップの使い手として高い評価を得ていた。

同じくチェンジアップを決め球としている濱口遥大投手に比べると空振り率は若干低いものの、東投手のチェンジアップはストライク率が非常に高く打者にとってより厄介なボールだ。


名捕手であり名コーチでもある田村藤夫さんが今年の東のイースタンリーグでの投球を見て、次のように仰っていた。


“この日の東はストレートが最速145キロ。手術前は148キロは出ていたと思うが、それに比べるとあと2~3キロは出るのではないかと感じる。そこに126~8キロのチェンジアップとなれば、打者は苦労する。


腕がよく振れていた。腕の振りは非常に大切で、打者は、変化球で腕の振りが鈍くなると、このわずかな違いで球種を見分けて対応してくる。この日の東のようにストレートと変わらない腕の振りをされると、緩急をつけられることで、対応が難しくなる。


東のピッチングは内容が良かった。第1打席では勝負球までチェンジアップを見せずに、組み立てている。


まず1、2球目でストレートを外角に投げ、外のストレートの印象を与えている。そこからインコースにストレート、変化球を4球続け、打者に内角を意識させた。


最後に外角へチェンジアップ。内角を意識させられた西田からすれば手が出しにくくなる。さらに初球、2球目のストレートの軌道があるため、18キロ前後の球速差のあるチェンジアップに惑わされる。


チェンジアップは奥行きで勝負できる特徴のある変化球だ。


スライダーやフォークはベース手前で横にスライドしたり、落ちるなど変化する。しかし、良く抜けたチェンジアップは、なかなかボールがベースに到着しない。


それもストレートとの球速差があればあるほど、チェンジアップは効果的になる。打者はこの時間差にタイミングを狂わされる。スライダーやフォークとはまたひと味違った対応が求められる点で、やっかいなボールになる。

捕手出身の私には「仮にバッテリーを組んだなら楽しいだろうな」と、思わせる内容だった。


内角を意識させたり、外角にストレートの軌道を見せたりしながら、打者の意識や残像を効果的に使いながら、勝負球のチェンジアップで打ち取る。


この日の東はストレート、変化球ともに制球のレベルが高く、受ける捕手からすれば、配球を組み立てる上で、いろんなアプローチが可能になる。そういう意味で、印象に残るピッチングだった。“



田村さんも「良く抜けたチェンジアップは、なかなかボールがベースに到着しない。それもストレートとの球速差があればあるほど、チェンジアップは効果的になる」と仰っていて、東投手の投球デザインもこの効果を狙ってのものだろう。


彼が目標としている中日ドラゴンズの笠原祥太郎投手のチェンジアップは自分のこれまでのチェンジアップよりも10キロほど遅い110km/h台前半のもので、腕の振りを変えることなくこの球種も身につけることができれば大きな武器になることは間違いない。


そして、もう一つ私が注目しているのは、東投手の遅いチェンジアップ習得に関するこの記事が今日のスポーツ紙の全てで報道されていることだ。


新しい球種と言うのはこっそりとやる場合と公言する場合とがあるように思う。


今永昇太投手のフォークボールなどはこっそりと始めて、気がついたら結構投げていたと言う感じだと思う。この場合は、比較的球速の近いボールが既にあって、バッターがそれと見間違うような効果を狙っているのだと思う。


これとは反対に、今回の東投手の遅いチェンジアップは自分から言いふらしているように見える。つまり、バッターに遅いチェンジアップの存在を意識させたいのだろう。

遅いボールを意識させることで他のボールが生きてくることが考えられる。


とは言っても、東投手の2021年シーズンのストレートの被打率は.036であり、既にこれ以上下げられないほど低い。

そう考えると、彼の真のねらいは被打率の高いカーブ(.333)やスライダー(.400)の効果を高めるような配給の幅を作ることにあるのかも知れない。


例えば、110km/h台の変化球がカーブだけなので、タイミングを我慢されると迷いなく狙い打ちされることがあり、そこで同じ球速帯の遅いチェンジアップを意識させて迷わせたい、とか。


あるいは、今シーズン彼にしては珍しく失投を痛打されることのあったスライダーとの球速差をつけることで、失投時に打ち損じる可能性を高める、とか。


9月末に東投手が一軍で復帰登板した夜、私は次のように書いた。


“東投手が去年の2月20日に左肘のトミージョン手術を受けてから、私はずっと待っていた。

今年になってキャッチボールを始めたというニュースを見た。その後も時々Twitterを覗いて近況を知った。


4月21日 手術後はじめて捕手をすわらせて投球しました。

4月24日 捕手の方にすわっていただいて初めて変化球を投げました。

5月9日 初めて打者に投球しました。

7月11日 ようやく実戦(二軍戦)に復帰しました。


徐々に復活しつつあることを知り嬉しかった。捕手をすわらせて、から捕手の方に座っていただいて、に変わったことも嬉しかった。投球以外にも成長しているのだろうと思った。


そして今日、東は2年ぶりに一軍のマウンドに立った。


青木への2球目は外角低めへのスライダーだったと思う。

そんなに甘いボールには見えなかったが、青木が一枚上だった。流し打ちの打球は風にものってレフトスタンドに吸い込まれて行った。満塁ホームランだ。


ここで東は降板。これが2年ぶりの彼の晴れ舞台だった。


この短い時間の出来事は、私の心のヨロイを突き抜けて、子供の頃と変わらないむき出しの自分自身に突き刺さった。立ち直るには、いつものように、2時間程度の有酸素運動で汗をかき、プロ野球スピリッツでかたきをとり、そして酒なども飲むことが必要だろうと思う。


しかし、私には、このショックよりもずっと大きな喜びがある。


そうだ。東克樹がとうとう帰って来たのだ。”


そして私は今、東克樹が帰って来てくれたことの喜びを噛みしめる日々を送っている。

大貫晋一投手がフォーム修正に取り組む



12月14日 地元の神奈川新聞をはじめ多くのスポーツ紙上で大貫晋一投手のインタビュー記事が掲載された。ほぼ共通した内容なので、主なポイントをピックアップしてみる。


「最下位になってすごく申し訳ない気持ち。でも得られたものもある」


「豆苗からゴボウくらいになりたい」と昨オフは1日7食を日課に約5キロの増量に成功した。しかし、5月までに5連敗(1勝)。「序盤はうまくいかなかった。去年の体重に戻したらどうか」と減量した交流戦後は5連勝と息を吹き返した。


今は失敗も成長の過程と捉えている。「少し違うアプローチで取り組みたい」と、今オフは数キロ程度の“プチ増量”を計画。


秋季トレーニングでは制球力の向上へフォーム修正にも着手。斎藤チーフ投手コーチとは、3割3分5厘と打たれた左打者への配球などを話し合ったという。


これに先立つ11月23日、彼は横浜スタジアムで契約更改交渉に臨み、525万円アップの年俸5775万円でサインした。この時のコメントで次のようなものがあった。


「前半戦すごく苦しい投球になることが多かった。チームも最下位になってすごく申し訳ない気持ちがある。その中でも得られたもの、いい経験もできたので、それを来季に生かしていきたい」


「その中でも得られたもの、いい経験」については、以前も触れたがセイバーメトリクスで投手のパフォーマンスの主要な指標とされているtRA※(援護の有無や守備の善し悪しそして運と言ったものをできるだけ排除した投手の実力を示す)で大貫投手がすらりと並んだセリーグのエース達の中で堂々の成績をおさめたことからもそれがわかる。


※ true Runs Average:簡単に言えば、投手がある打球を打たれた場合、結果的にアウトになったかどうか(これは守備に依存する)は無視して、その打球の種類に応じて予想される失点への寄与をカウントするもの


1 J・ガンケル(阪神)3.00

2 奥川恭伸(ヤクルト)3.03

3 柳裕也(中日)3.05

4 大野雄大(中日)3.24

5 大貫晋一(DeNA)3.27

6 大瀬良大地(広島)3.29

7 CC・メルセデス(巨人)3.30

8 床田寛樹(広島)3.44

9 高橋奎二(ヤクルト)3.55

10 今永昇太(DeNA)3.56


今日は、大貫投手の今季(特に前半)の反省と今後の期待についてまとめてみる。


① 大貫晋一投手の特徴

大貫投手について私は非常に強く印象に残ったできごとがある。


2020年9月の横浜スタジアムでの中日戦。ベイスターズはオースティンの3本のホームランなどで大量リードを保っており、先発の大貫投手はイニング間に伊藤光捕手とベンチ横でキャッチボールを始めた(伊藤捕手は立ったままの姿勢)。


その日私はたまたま一塁側エキサイティングシート最前列で観戦していて、このキャッチボールを間近でみることができたが、ベイスターズの攻撃が始まるとそちらに目を奪われていた。


すると、自粛期間中でもありファンの声援が全くない静かなグラウンドで、「シュルシュルシュル・・・」という音がはっきりとわかるほど聞こえてきた。


大貫投手の投げたボールが回転して空気と摩擦する音だった。


間近とはいえ、20mほどは離れていたと思う。私は彼のストレートの回転の良さに舌を巻いたことが強く記憶に残っている。



この話からもわかるように、大貫投手のピッチングのベースはキレの良いストレートをコーナーに投げ込むことだ。


これに加えて、彼は、カットボール、ツーシーム、スプリットという140〜145km/hの球速レンジにある変化球でピッチトンネルを作ることができる。


ピッチトンネルというのは、下図に示す様に、ホームプレートの手前7〜9mのところにトンネルと呼ぶ仮想的な小さい円があるものと考え、この円を通した後、ホームプレートに達するまでの間にばらばらな場所に行くようにすると言うものだ。



バッターがボールを打つためには、トンネルのあたりまでに判断して始動する必要があるため、その後の変化には対応できず、空振りや打ち損ないになると言うのが背景にある。


ピッチトンネルの理論は一時期もてはやされすぎていて、実際にはコース自体が良いということの効用も含まれていたことが指摘された。しかし、それでも、宮下博志さんの最近の極めて緻密な分析の結果、ピッチトンネルにはやはり顕著な効果があることが示されている。

https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53647


詳しくは上記のサイトで彼の論文を見てもらった方が良いが、簡単に言うと、次のようなことが結論として示されている。


1. バッターは真ん中高めの速球を狙っていて、これと同じ軌道の(つまり同じトンネルを通る)ボールに対して高い確率でスイングする。

2. 真ん中高めの速球を狙ってスイングを始めたバッターは、その後の変化には対応できず、特にストライクゾーンの境界あたりまで小さめに外れていくボールは高い確率で空振りあるいは打ち損じてしまう(大きく外れすぎると見極められてボールとなることが多い)。


まとめると、彼は、キレの良いストレートをコーナーに投げ込み見逃しや空振りを狙うことに加えて、甘いコースのピッチトンネルを使って打者にゴロを打たせて討ち取るというスタイルの投球ができる点がストロングポイントだと思う。


② 今シーズン前半の失敗

上記のストロングポイントがあるにもかかわらず、今シーズン前半、大貫投手は痛打されるシーンが目立った。この時のことについて、本人はこう言っている。


「両サイドにしっかりとまっすぐを投げ切ることができなかった」


命綱でもある右バッターへの内角攻めができなくなっていたのは「腕の振りが弱かった」からだ。ルーキーイヤーに6勝、昨年は10勝を挙げて迎えたプロ3年目。開幕から2カード目の頭を任された大貫投手には大事にいこうという意識が働いていたのかもしれない。


「思うようなピッチングができない中、勝ち星を掴み取ることができなかったので、なんとかしたいって気持ちはもちろんありました。そうなるとカウントを悪くしたくないという思いから、腕が縮こまってボールが弱くなっていたんだと思います」


実際、この時期(4/20~5/18)のゾーン別データを見てみると、膝元(インロー)の被打率が左打者で.333、右打者で.429と打ち込まれていて、左打者のアウトローも.571と狙い打ちされている。


腕が振れておらず球威がないため、きちんとコースに投げても打たれてしまっていたのだ。


③ 今シーズン後半の復活と来年への期待

復活のきっかけを掴んだのは、デッドボールだった。ファームでの3試合目の登板となった6月20日のスワローズ戦。大貫投手は右バッターの松本直樹にぶつけてしまう。彼は後にこう言っている。


「あれで吹っ切れました。ここまで強く腕を振っても、あのくらい……いや、当ててしまって申し訳ないんですけど(笑)、これだけ振ってあの辺かなって感覚を掴めたんです」


ファームでは、ブルペンでの緻密な作業に取り組んできた。


「両サイドにしっかりとまっすぐを投げ切ることができなかったので、腕をしっかり振って、強いボールをボールゾーンから徐々に中に入れていく練習をしました。内から広げるのではなく、外から中へ狭めていくんです。右バッターのアウトコースへは左のバッターボックスのラインから少しずつ近づけていく。間違ってもベース板の真ん中へ行かないよう、意識を強く持って投げました」


文章にすると何気なく聞こえるが、これはすごいことだ。どのくらい凄いかを見やすくするために、ホームベースとバッターボックスの位置関係を下の図に示す。



ご存知と思うが、ピッチャーのプレートからホームベースまでは18.44m離れている。そして、投手から見たホームベースの左端つまり右打者の外角ギリギリのコースとバッターボックスのラインとはわずか15cmしか離れていない。


彼の取り組んでいた練習は、まず、18.44m離れた左打者のバッターボックスのライン上に全力のストレートを確実に投げられるようにして、次に、全力投球のまま、そこから15cm離れたホームベースの左端まで少しづつ近づけていくという修行なのだ。


この修行の甲斐あって、シーズン終盤(9/15以降)のゾーン別データでは、右打者についてはアウトローに30%以上の投球を集中させ、そこでの被打率.100と抑えている。また、左打者についても、インローの被打率.167、高めでも2割程度に抑えることに成功した。


ちなみに、右打者のインコースと左打者のアウトコースの投球割合は少し下がるが、被打率はいずれも1割程度以下でさらに抑え込んでいる印象だ。


ただし、課題はまだ残されている。この時期でも、左右のコースに投げきれなかった場合の被打率が高いのだ。


左打者の真ん中(高めから低めまでのトータル)に投げた投球割合が27.5%で、被打率が.675。右打者の場合は投球割合が23%で、被打率が.422といずれも高い。


冒頭の記事にあった「秋季トレーニングでは制球力の向上へフォーム修正にも着手。斎藤チーフ投手コーチとは、3割3分5厘と打たれた左打者への配球などを話し合った」というのは、おそらく、この点だろう。


シーズン終盤でも比較的投球割合の低かった(インコース真ん中は6.3%)左打者の内角の厳しいところに投げきり、投球割合が27.5%あった真ん中のコース(高めから低めまで)を減らすことのできるような制球力を斉藤コーチと投球メカニズムから見直してフォームの修正を図ったのだろうと思う。


以前も書いたが、大貫晋一がこれまでに味わってきた瀬戸際が数多くあったからこそ、そして、その度に、今度が最後になるかも知れないと言う危機感を持って切磋琢磨して新たな技を習得したからこそ、今の彼があるのだと思う。


今回は、斎藤隆コーチと小谷正勝アドバイザーという強い味方を得て、彼がさらに飛躍してくれるものと期待している。いや、確信している。