mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

嵐の中の山﨑康晃を導くともし火

以前このブログで次のような記事を書いたことがある。


“山﨑康晃は170個のセーブを積み重ね、その間に失敗もしてきている。私は、彼の生命線はツーシームがわずかだが決定的にスタンダードを上回っていることだと考えているが、その生命線が破綻したと思われる危機も何度かあった。スタンダードは時と共に変化するのだ。中でも、昨年から始まった今回の危機は最大のものと思われる。


彼はこれまで、努力によって危機を乗り越えてきたが、今回はまことに厳しい。

そして、かつて歓声を送りジャンプしていた人たちは、彼の体型や生活など色々と批判し、リスペクトが失われつつあるようにも見える。


そう、彼は今、嵐の中にいるのだ。


そして、この嵐の中で彼を救うことができるのは、彼自身しかいないのだろうと思う。彼がもう一度、スタンダードを超えた必殺技を編み出すための常軌を逸した努力をすることができるかどうかに全てがかかっているように私には思える。


繰り返しになるが、山﨑康晃を救うことができるのはたった一人、彼自身をおいて他にはいない。“


その後もずっとそう思ってきた。

しかし、ひょっとすると救いはあるのかも知れない。優しい名伯楽の小谷正勝さんががんの手術から復活しピッチングコーチのアドバイザーとしてベイスターズに復帰したことだ。


小谷さんと言えば、選手の個性や状態に合わせた指導に定評があり、故関根潤三監督からは、「僕が認める野球人の一人が小谷正勝。ピッチングコーチとしてはピカイチで、指導の引き出しがいくらでもあるところがすごい。引き出しが多いから、いろんな選手に『右向け右』をさせられる。しかも、指導がわかりやすい。その選手が一番理解できる言葉で話すから、選手にとってこんなありがたいことはない」と言われている。


小谷さんは日刊スポーツで「小谷の指導論」と言う連載を行っており、今年の初めに三浦監督との対談で山﨑康晃について次の様に語っていた。


(球種を増やした方が良いと言う小谷さんの意見について三浦監督が「本人はカットボールやスライダーを練習しているようです。」と言ったことを受けて)


スライダー、カットはやめたほうがいいね。スプリットがあるんだから。やっぱり、遅い球だと思うね。カーブだね。遅い球は投げる勇気がいる。でも、あるとバッターはすごい邪魔になる。過去の大投手はみんな直球と縦のカーブ。力でいってたのを脱皮して、考え方を変えていかないと。


また、こんなことも言っていた。


小谷 一番プライドを壊さないで、導いてやるには「野球のふるさと」に帰ることだな。何で良くなったのかを考えるんだ。野球を始めた時から振り返って、これだと思った瞬間がある。それが原点。俺は小学生のころ、お宮の石灯籠に向かって投げたら、なぜかうまいこと投げられた。


三浦 僕の場合は子どものころ、おやじが商売してて、店の裏の細い路地でのピッチング、キャッチボールですね。道幅が1メートルあるかないかのところ。それがコントロールが良くなった原点かなと思います。


小谷 人間の視野、感覚ってすごい。三浦は路地がはまったんだな。細くて、変なところに投げたら当たっちゃうから、コントロールのコツをつかんだ。


三浦 プロに入っても、プレートの幅からバッター、キャッチャーのイメージまではつきやすかった。


小谷 山崎にもそういう話を聞かせてやった方がいいと思う。


山﨑康晃の現在のフォームについて。


三浦 少し体が開き気味になっている部分が少し気になるところです。


小谷 俺は足だと思うね。左足上げる時に、カーンと勢いよく上げるじゃん。もう少しゆったり上げれば、何とかなると思うな。良かった時は、リリースの時に左膝がピーンと伸びてた。今は曲がったままだから、一塁側によろける。


どうだろうか。この短いやり取りを見ただけでも、関根さんの仰っていた「指導の引き出しがいくらでもある」や「その選手が一番理解できる言葉で話すから、選手にとってこんなありがたいことはない」と言う評価がちゃんとした根拠のあるものだと言うことがわかる。


山﨑康晃選手。もうプライド云々と言う次元では無いと思う。


生まれ変わった覚悟で、小谷さんのアドバイスに従って「右向け右」してみてはどうだろうか?


筒香嘉智30歳の誕生日とピッツバーグの感謝祭

今日11月26日は筒香嘉智の30歳の誕生日だ。

彼はベイスターズ久々の高卒野手ドラフト1位として2010年に入団した。その後もずっと注目していたが、もうあれから11年経ったのかという印象だ。


筒香選手は中学生の頃から頭角を表し、ボーイズ関西選抜の四番として世界大会にも出場している。中学時代は野球漬けの毎日で、家に帰るとお父上自作のバッティングドームで打撃練習に明け暮れた。放課後友達と遊ぶこともなかったそうだ。


筒香選手の長兄である筒香裕史さんは自身も野球選手を目指していたことがあり、香川県の名門尽誠学園の野球部に在籍したが、後にプロ野球選手となる一学年後輩の田中浩康選手などとは身体能力が違いすぎるという理由でプロの道は諦め、その後はスポーツ指導者となり、現在スポーツアカデミー「Go estudio SPORTS ACADEMY」を運営している。


裕史さんは自宅での弟の打撃練習に付き合い、バッティングマシンへのボールの補充等はお兄さんが行っていたそうだ。この頃、裕史さんは自分自身がプレイすることよりもスポーツ指導の方に興味を持ち、大学を中退して勉強を始めている。

筒香が堺ビッグボーイズに入団したのもお兄さんの薦めによるものらしい。


筒香選手はその後横浜高校で甲子園出場を果たしているが、実は、有名な振り逃げスリーランの試合にも出場している。この試合で、三振を取られた打者の菅野智之(現ジャイアンツ)は、自軍ベンチからの「走れ!」という指示を受けて一塁に走り出し、打者走者の菅野を含む三人の走者が本塁まで到達した。

横浜の捕手は第3ストライクの投球がワンバウンドだったにもかかわらず、打者・菅野に触球をせず一塁にも送球していなかったのだ。実はこの時のキャッチャーは一年生で、アウトと勘違いした後にボールを渡したのは同じく一年生の筒香だった。結局この試合は6-4で敗退。二人の一年生は、これで卒業となる3年生に対してどのような気持ちを持ったかは容易に想像できるが、先輩たちは誰も彼らを責めず、これできつい練習をせずに遊べると言ってくれたそうだ。


このように、筒香選手は周りの人たちと一緒に進んできた。彼自身の野球への取り組みの姿勢や真剣さが周囲の人もその気にさせるような効果があるのだろう。

彼がベイスターズに入って主将になってからもそうだった。


メジャーに行ってからも恐らく様々な人々が関わり、そして彼を助けてくれたのではないかと思う。

最初に入団したレイズを自由契約となった後に誘ってくれたドジャースの人たちも筒香選手の能力と野球に取り組む姿勢を評価してのことだと思う。

ドジャースの3Aでの情報はあまり入って来なかったが、その前後の彼の成績が劇的に変わったことから見ると、明らかにこの期間に彼はMLBで打ち勝っていくための何かを掴んだのだと思う。そして、それは、3Aのチームメイトやコーチングスタッフの力によるところも大きいのだろう。


ピッツバーグパイレーツに移籍してからの彼の成績はご存知の通り。43試合に出場し、打率.268、8本塁打、25打点、OPS.883という立派なものだ。

このところ成績が芳しくないパイレーツのファンたちは久しぶりの長距離砲の加入に湧いていたようだし、シーズン終了後にFAとなった筒香の残留を望むファンの声も多かったようだ。こうして筒香はアメリカでも周囲から応援される選手になった。


そして昨日11月25日感謝祭の当日に、ヨシ・ツツゴウが400万ドルの単年契約で残留するという正式な報道があった。この年俸はチームで二番目に高いものであり、期待の高さがうかがえる。

守備が難点という指摘もあるが、チームは筒香を来シーズン主に一塁手として起用する方針のようだ。また、ナショナルリーグにもDH制が導入される可能性もかなり高いようなので、その場合は、筒香はDH候補の筆頭だろう。


地元のスポーツ記者のTwitterでは次のように書かれている。


A low-cost signing of a potential power bat for a low-slugging team is something Pirates fans can be thankful for this Thanksgiving.


感謝祭というのは、400年ほど前、米国東海岸にやってきた英国人入植者たちが、持参した穀物が育たずに飢えていたところ、原住民たちが差し出してくれた食物や農作物の種などで救われたことに感謝するのが起源らしい(ただしこれは後から作られた話だという説もある)。

筒香選手の残留が、パイレーツファンが今年の感謝祭で感謝するような出来事になったのだとしたら、海の向こうでずっと筒香を応援してきた我々ベイスターズファンにとっても大変嬉しいことだ。


上茶谷大河に関する心配事

11月23日に上茶谷大河の契約更改が行われた。年俸4300万円から1000万円減の3300万円でサイン。


今年の上茶谷は出だしから大きくつまづいた。


4月1日ヤクルト戦2回被安打5 本塁打1 四死球3失点5

4月10日タイガース戦7回被安打1 四死球0失点1 負け

4月17日ジャイアンツ戦6回被安打7 本塁打2 四死球3失点7 負け


最初の登板のヤクルト戦は昨年最下位のチームということで私は少したかを括っていたところがあった。勿論上茶谷投手はそんな気持ちは微塵もなかっただろうが、結果的に打ち込まれている。


そして4月24日タイガース戦一回被安打7失点6 初回KO。まさにめった打ちで初回の阪神の攻撃がいつ終わるのだろう、という感じだった。


シーズンが終わってみると、上茶谷の対戦したチームは優勝したヤクルトをはじめ、全てがAクラスに入っており、考えてみると、強敵ばかりを相手にしていたということになると思う。


その後、上茶谷は一軍登録を抹消され、7月初旬までファームで調整を行うこととなる。仁志二軍監督から「お前の真っすぐじゃ空振りは取れない。その真っすぐで空振りを取ろうとしているのか」という厳しい言葉をかけられ、従来の直球とカットボールでバッターと勝負していくスタイルを変えることにしたが、まだ結果は出なかった。


7月8日カープ戦5回被安打5 四死球4 失点3。四死球の多さがストライクゾーンで勝負できなかった苦しいピッチングを表している。翌日、抹消されて再びファームでの調整となり、今回は長期に及んだ。その間、仁志監督は、今のままでは一軍に上げることはできない、と厳しい言葉をかけていたようだ。


3ヶ月間の雌伏の時を経て10月8日。中日戦で9-3と勝利したが、今季はこの一勝で終わった。


1000万円の減俸。それはいい。成績から考えて減俸は妥当だし、本人も年俸よりもまず、また勝てるようになりたいという気持ちの方が強いだろうと思う。


気になるのは、シングルプレーンに改良していた投球フォームをやめて、東洋大時代のダブルプレーンのフォームに戻すという彼のコメントだ。




投球時の肩から肘そして前腕から手首にかけての回転運動が綺麗な一つの平面に収まっているようなフォームをシングルプレーンと呼び、肩を中心にした肘までの腕の回転運動の平面と肘を中心とした前腕部の回転運動の平面が異なる場合ダブルプレーンと呼ぶ。


腕の振りがシングルプレーンを描くことは、肩の回転力を指先まで効率的に伝えて球速アップにつながり、また、肩や肘に余分な力が加わらないため怪我の少ないフォームだと言われている。ピッチングメカニズムの研究では一番重要視されていることの一つだ。


以前、エドウィン・エスコバーの投球フォームを上から覗き込んだことがある。横浜スタジアムの内野席で最前列付近を移動中にイニング間の投球練習をしていたところをたまたま観たのだ。

それまで私は彼のフォームは手投げのような気がしていて、どうしてあれで160km/hを超える球速が出るのが不思議だったのだが、上から見て謎が解けた。通常正面から写すテレビの画面では見えないテークバックの大きさが物凄いのだ。いわゆる腕のしなり、専門的には肩の外旋というのだろう。力強くしなやかなテークバックは球速アップの重要な条件と言われている。


それ以来、ピッチングメカニズムが投球を決めると言う説を信じるようになった。



上茶谷が回帰しようとしているダブルプレーンは怪我が多いことに加えて、肩と肘の回転運動を効率的に指先に伝えにくいと言う問題もある。ピッチングメカニズム理論的には良い面が無いのだ。


ピッチングメカニズムにも詳しい小谷正勝アドバイザーも同意しているようなので、素人の私の杞憂に終わることを願っているが、やはり気にはなる。


そして彼は、「けがをしないフォームで0勝で終わるのか、けがをしやすいフォームで勝つのか。どっちを選ぶのかというと、僕はリスクを選びたい」と言っている。実はこのコメントが一番気になっている。私の限られた人生経験から言うと、二者択一の問題設定というのはだいたい人が追い込まれている時に想うもので、正解はどちらでも無いということが多いのだ。


怪我のリスクが小さくしかも勝てるフォームを探してもらいたい。


心理カウンセラーの植西聰さんもこう言っている。


しなくてもいい二者択一をしてしまったために、あなたは、人生の楽しみの半分しか味わっていないのかもしれない。