mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

悪い流れを断つには揺るぎない個の力が必要だと東克樹が教えてくれた





カープに二戦連続で延長の末に逆転サヨナラ負けを喫するというこれ以上ないほど悪い流れは、そもそもジャイアンツとのカード第三戦から始まった。


知野直人の代打逆転満塁ホームランで一時は7-4とリードし、完全に逆転勝利の展開だったが、先発のハマちゃんが2回で降板したため苦しくなったリリーフ陣がジャイアンツ打線にジリジリと詰め寄られ、最後は逆転されたあの試合。


悪い流れと言うのは、恐らく、選手全員がガッカリして力を失うことから始まり、さらにきっとうまく行かないのではないかと不安に思うことで定着してしまうものなのだろう。


その流れを引きずったマツダでの第1戦は、序盤から1-4とリードされる劣勢を桑原将志が起死回生の同点スリーランで追いつき一時は逆転したが、最終回のカープの攻撃を凌いで1点差を守り切れるか、と言うと不安が先にたった。


これは私個人がその時に持った感覚に過ぎないのだが、「悪い流れ」の中では不思議と大多数のファンが同じように感じていたことを後から知ることが多い。


きっと選手たちもこうした不安は持っていたのだろう。


昨日の第二戦でもエース今永昇太の攻守に渡る活躍で中盤まで3-0のリードを保っていたが、変化球の制球が不安定で球数が嵩んだ。


6回途中で2点を失った時には122球に達しており、二死二塁のピンチで2番手のエスコバーに交代せざるを得なかった。


この時もエスコバーが打たれるような予感はファン全員と選手たちの集団意識として持っていたが、それは現実のものとなった。


さらに、延長11回裏に中川虎大が登板して二死まで漕ぎ着けた時に初球のストレートをデビッドソンに力任せに投げ込もうと左足を踏み出したその瞬間にも同じ不安が皆を襲った。


いや、もう止めておこう。終わったことだ。


ともかく、この3連敗でチームも我々ファンも集団で不調になり、自分の力を恃む気持ちが失せ、不安に支配されていた。


しかし、たった一人だけ、そうした集団意識に感染していない選手が居た。


それが東克樹だった。


“中5日を任されているということはチームとして勝ちを求めている状態。


しっかりと試合をつくることを意識したい”


試合前の彼の短いコメントには冷静さと強い決意が現れており、不安は全く感じられない。勝ち続けている投手の気概はチーム全体の弱い気持ちを立て直す力を持つだろう。


そして試合が始まると、東克樹はいつもの東克樹だった。



球速は140キロ台中盤だが数字以上にホームベース上で力強く見えるストレートと2種類のチェンジアップ、カットボール、スライダー、カーブにツーシームと多彩な変化球はいずれもキッチリと制球されている。


ストレートとチェンジアップの緩急をつけたコンビネーションで打者を翻弄し、バッティングをさせないシーンも多くみられた。


そして今日は特にスライダーの変化量が大きかったように見えた。左打者はほとんどバットに当てられていなかったと思う。


唯一の失点は3回裏先頭の末包選手への初球、インコースのストレートをスタンドまで運ばれたソロホームラン。


ホームランを打たれると「甘く入った」という表現がされがちだが、このボールは少なくともコースに関しては内角の厳しいところに行っており、打った末包を褒めるべきだと思う。


強いて言えば、山本祐大のミットよりもボール一個分中に入ってしまったが、100球以上を投じてその誤差をゼロにすることは不可能だ。


こうして東克樹はチームと我々ファンを巻き込んだ集団意識に影響されることなく、自分の力を信じてひたすらに腕を振り続けた。


「悪い流れ」を断ち切るのはこうした直向きな個人の踏ん張りなのだろう。


東克樹の背中を見続けているうちに野手たちにも力が戻ってくることを感じた。


今日ショートに入った柴田の好守、牧秀悟がハーフライナーをわざとショートバウンドで捕球して併殺にした彼の得意技、最終回にレフトに入った関根大気(昨日は明らかにレフトの佐野が狙われていたと思う)が見せたスーパーキャッチなどは東克樹が彼らに力を与えた結果だと思う。


そして、最も強く反応したのは桑原将志だった。


1-1の同点で迎えた6回表の先頭打者として打席に入り、カウント2-1からの4球目、カープ先発の遠藤投手のインコースの速球を完璧に捉え、あわや場外ホームランかという大飛球をレフトスタンド最上段に突き刺した。



桑原はさらに次の打席でもカープの2番手アンダーソン投手の内角高めの速球をレフトスタンドに運びリードを2点に拡げた。


この投球は見逃せばボールだっただろう。絵に描いたような悪球打ちは積極性が売り物の桑原選手の好調の証なのかも知れない。


結局、東は9回を一人で投げ抜き、完投で自己最多の13勝目を挙げた。


9回、116球、被安打8、奪三振8、与四球0、失点1


これで9連勝となり、ベイスターズでは三浦大輔投手以来、左腕で言うと野村弘樹さん以来の記録となった。


ハーラーダービーでは2位グループ(戸郷、バウアー、床田)がまだ10勝なので、最多勝はほぼ手中に入れたと言ってよく、最高勝率も確実だ。


防御率は阪神の村上と広島の床田が1点台なのでちょっと難しそうだが、投手二冠というだけでも素晴らしい。


沢村賞は対抗馬が山本由伸投手で、彼の防御率は異次元の数字(1.34)を示しているので旗色が悪いが、完投数で言うと山本投手が1なのに対して東はこの試合で3としているので、完投型の投手を評価する賞である以上、可能性はゼロではない。


私にとって、今年のベイスターズの重大ニュースの一つが東克樹の完全復活になることは間違いない。


あの苦しいリハビリと自分本来の投球ができず打ち込まれた悔しさを考えると、諦めずに、本当に良くぞこの高みにまで登り詰めてくれたと思う。



“強さは勝利から得るものではありません。


あなたの苦労によって強くなるのです。


苦労の末に諦めなければ、それが強さとなるのです。”


アーノルド・シュワルツネッガー