mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

必要とされる喜びを知った上茶谷大河のこれから





昨日の試合では、石田健大が初回から崩れ6失点した。


石田は2回になっても立ち直ることができず、二死満塁で初回に満塁ホームランを放ったブリンソンが打席に入ると交代を告げられた。


そのとき私は、上茶谷は出すなよ、と念じていた。


いくら便利屋だからと言っても、初回に6点を失いモップアップが必要な所だと言っても、それはあんまりと言うものだ。しかも、二死満塁の大ピンチ。


この起用法で、どうやって彼はモチベーションを保つことができるだろうか?



【行けと言われたところでベストを尽くします】


昨シーズンの上茶谷は当初ブルペンの一員だったが、開幕投手だった東克樹の調子が上がらず、エース今永昇太も開幕直前に前腕の肉離れで離脱するなどの事情があり、序盤は先発ローテーションに組み込まれた。


序盤こそ、100球以内での完封勝利、マダックスを達成するなど好調だったが、徐々に成績を落とし、最終的には、12試合に先発して3勝6敗、防御率4.73と言う結果だった。


今季は開幕から中継ぎとしてブルペンを支え、ビハインドロングなど花形とは言えないような局面での起用が続いているが、全く腐ることなく、自分の役割を必死に全うしようとしている。


正直に言って、私の上茶谷投手に対する印象はそう言うものではなかった。


ドラフト一位で東洋大から入団し、先発の柱としてチームを引っ張ることを目指して自分の投球のレベルアップを第一に考えている選手だと思っていた。


同期入団でドラフト3位の大貫晋一(ただし、大貫は社会人を経由しているので上茶谷よりも年上)が昨シーズンも二桁勝利を挙げるなど、ここ数年はチームの勝ち頭になっていることを考えれば、彼としても忸怩たる思いがあったことだろう。


その彼が意外にも便利屋的な起用法をされる中で生き生きとしている。


“じつは昨季も開幕はブルペンだったんですよ。


ですから前年と同じように「チームの力になれるのならば、どこでもやります」と、監督やコーチには言いました。


僕としてはどこで投げようが、勝ちにつなげられると思っているので、今のその役割をまっとうするだけですね”


ここまで30試合に登板して1勝1敗だが、防御率1.57、奪三振率8.61と言う内容は彼の主戦場が回またぎのロングリリーフやモップアップであることを考えると、非常に良くやっていると誰もが認めるだろう。



【器用貧乏だった】


上茶谷選手は野球センスが良い。だから色々なことを人よりも早く習得することができる。


しかし、振り返ってみると、そのことが彼のキャリアパスを迷走させる原因になったようにも思えてくる。


すぐ出来るようになる、と言うことと、一つのことを磨き上げることができる、と言うことはかなり違った能力を必要とする。時として、前者は後者にとって邪魔になることすらある。


その代表例が上茶谷投手であるような気がしてならない。


毎年のように投球フォームを変え、シュートやフォークなどの新しい球種にも手を出して持ちだまに加えることができる。


問題は、プロ野球の打者たちに、「投げられる」と言うレベルのボールは通用しないと言うことだ。


プロ野球で成功する選手たちは、不器用で一つのことを飽きずに繰り返し練習し、遂にその技術に関しては他の追随を許さないレベルに達した、と言う例が多い。


「井の中の蛙大海を知らず」と言う誰でも知っていることわざは元々中国の古典(荘子)の一節だが、日本に伝わってから、その意味を大きく変える下の句が追加されているのをご存知だろうか?


“されど空の深さを知る”



そう、プロ野球の成功者達は、井戸の底からはるかに高くポカンと開いて見える小さな空だけを眺めて日々を過ごし、その深さを知る人たちであることの方がむしろ多い。


言い方を変えれば、上茶谷大河は野球に関して「器用貧乏」だったのだ。



【スキルセットを逆算して作る】


その上茶谷投手が、中継ぎとして、与えられたどんな局面でもチームの力になりたいと願うようになった。


“性格上、いろいろ試したくなっちゃうんですけど、今年はそれを一旦やめようって。


やろうと思えば球速を求めるフォームでも投げられるとは思うんです。


けど、150キロの速球を投げたとしても簡単に打たれてしまう世界。


あくまでも対バッターを意識しての工夫が必要になります。


やっぱり僕はスライダー系のピッチャーなんで短いイニングを投げる上で、自信のあるボールで勝負しないといけない。


フォークやシュートも投げたいなとは思うけど、ボールになって無駄球になるのがもったいないというか、テンポが悪くなってチームに流れをもっていけなくなるような気がするんです”


今季の上茶谷投手が努力しているのは、ストレートの球質を改善すること。


具体的には、VAA(Vertical Approach Angle)と呼ばれる指標を見て、ホームベース上を通過するボールの軌道ができるだけ水平に近いように工夫しているとのこと。


実際、VAAが0即ち水平に近いストレートは被打率が低いと言うデータがあるらしい。


これは私の推測に過ぎないのだが、ストレートつまり「真っ直ぐ」が水平に飛んでくれば、バッターは「点」としてしか認識できないことになり、スイングするバットの軌道と言う面を活かすことができないと言うのがその理由なのではないだろうか。


本来は色々なことができる上茶谷投手が、中継ぎとしてチームに貢献すると言う目標から逆算して出した答えが、ストレートとスライダー系の変化球に絞ってその質をできるだけ高めて行く、と言うことだったようだ。


中継ぎと言う先発よりも制約の多いポジションを任されて、彼は、空の深さを知ろうとしているのかも知れない。



【三嶋一輝の言葉】


先発から中継ぎに回って、1番変わったのはメンタル面だと思う。


自分が出したわけではないランナーを背負い、投球しなければいけない場面でマウンドに上がるのは「精神的にきついじゃないですか」と、上茶谷選手はコメントしている。


そのことをブルペンの先輩である三嶋一輝投手に聞いてみると次のような答えが返ってきた。


“カミチャ、こんな言い方もあれだけど、もう投げるしかないんだよ。


できるかぎりのことをしてマウンドに上がったら“もう誰のせいでもないんだ”ってくらいの気持ちで腹をくくれないと、力を発揮することはできないよ”



その後、5月21日のヤクルト戦(横浜スタジアム)で同点の11回表、一死満塁の場面でマウンドに向かった。


“マウンドに行く前はすごく嫌だったんですよ。


同点だし、ここで打たれたらどうしようって……。


けど、ブルペンカーに乗っているときに、ふと三嶋さんの言葉を思い出したんです。


そうしたら、もうやるしかないんだって気持ちが高まり、向かっていくことができたんですよ”


ピンチを凡打と三振で切り抜けると、12回表もマウンドに立ち、無失点で切り抜けた。


“力を出すためには、腹をくくるしかない。


リリーフっていうのはこういうことなんだなって、深く理解できた場面でしたね”



【必要とされる喜びを知った上茶谷大河のこれから】


話は冒頭のシーンに戻る。


昨日のジャイアンツ戦、0-6と大差をつけられ、先発投手が試合を作れなかった2回裏二死満塁のピンチ。バッターボックスには前の打席で満塁ホームランを打っているブリンソン。


私の念は三浦さんに届かず、やはりコールされた名前は上茶谷大河だった。


考えて見れば、この局面で上茶谷以外の誰をマウンドに送っても、勝ちパターンを無謀につぎ込むと見られるか、2回途中で試合を捨てたと見られるか、どちらかになってしまう。


上茶谷をマウンドに送ることによってのみ、かろうじて試合を捨てず、かつ、今後の勝ちパターンの起用に影響しない采配となる。


そして、この采配が成功するためには、このピンチを彼が切り抜け、さらに回またぎで自分の打席が回るまで投げ続けなくてはならない。


上茶谷はこのことを誰よりも深く理解していたはずだ。そして、その役割をしっかり果たしたいと強く思っていたに違いない。


そして、頭の中には再び三嶋一輝のあの言葉があったはずだ。


“できるかぎりのことをしてマウンドに上がったら「もう誰のせいでもないんだ」ってくらいの気持ちで腹をくくれないと、力を発揮することはできない”


どうしようもない大敗だった昨日の試合で、上茶谷投手の見せてくれた気迫のピッチングの内容を彼の名誉のためにここでもう一度書いておきたい。


2回裏、登板時二死満塁


ブリンソン ファーストゴロでスリーアウト


3回裏


大城 空振り三振


浅野 レフト前ヒットで一死一塁


メンデス デッドボールで一死一、二塁


長野 サードゴロで二死一、三塁


長野の代走重信盗塁で二死二、三塁


吉川 セカンドゴロでスリーアウト(無失点)


4回裏


坂本 センターへのツーベースヒットで無死二塁


岡本 空振り三振で一死二塁


秋広 フォアボールで一死一、二塁


ブリンソン センター前ヒットで一死満塁


大城 3球三振で二死満塁


浅野 見逃し三振でスリーアウト(無失点)


三度にわたって大きなピンチを迎え、三度とも無失点で切り抜けた。


そして、この間にベイスターズ打線は牧秀悟の犠牲フライでこの日唯一の得点を挙げた。


5回表に打席が回ってくると代打山本祐大が告げられ、この日の上茶谷の仕事は終わった。


なんとタフな職場なのだろう。


今季は、チームがピンチになるといつもチームメイトも我々ファンも上茶谷大河の背中を見ている、と言うことになりそうだ。


そこには持続可能な未来はないのかも知れないが、本人と首脳陣が十分に話し合って出した結論である以上、今年はこの役目をやり切ることだ。


そして、その献身が、先発への復帰につながるのか、セットアッパーなどブルペンでのポジションの向上となるのかは未だ全く分からない。


しかし、今、彼に与えられた役目を全うし、空の深さを知ったことは、これからの彼のプロの投手としての人生に大きなプラスになることだろう。


そのことを信じて、私は明日からまた背番号27の必死のマウンドを見守って行こうと思う。



number webに記載された上茶谷大河投手のインタビューを参考にさせていただきました。詳細については以下を是非ご一読ください。


https://news.yahoo.co.jp/articles/7103eafcd1bb68cd37707777f8744010e3ba304b?page=1