mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

勝つために準備する意欲を最大にすることがこれからの課題だ





今年のCSファーストステージではカープの周到さが際立っていた。


昨日の第1戦、2-1とベイスターズ1点リードで迎えた8回裏。


ベイスターズ先発の東克樹が好投を続ける中で唯一投げにくそうにしていたデビッドソンをフルカウントから四球で歩かせると、広島ベンチは迷わず羽月隆太郎を代走に送る。


しかし、ここで二盗は仕掛けない。


左腕の東克樹が目で牽制し、強肩の山本祐大も十分に警戒していたからだ。


打席の矢野選手は1球で送りバントを決めて一死二塁。


次打者の菊池涼介のところで三盗をするのは兼ねてからの手筈通りだったのだろう。


羽月選手は「1球目から行くと決めていました。怖さは全くなかったです」と試合後にコメントしていた。


走者一塁では警戒厳重だが、二塁に進むとDeNAバッテリーと二塁手、遊撃手は牽制球などの警戒を怠りバッターに集中するようになる、と言うことがデータアナリスト達から伝えられていたのだろう。


「怖さは全くなかった」と言うのは東が最初からセカンドに牽制球を投げることは絶対に無いという確信があったからに相違ない。


ノーマークのまま初球から走って完全にセーフ。



山本祐大が三塁へ送球すらできないほど完全に意表をついた攻撃だった。


さらに3球目に菊池涼介がスクイズ。


予想外の三盗を決められてバッテリーが動揺していることを見越した一手はものの見事に決まった。


打者が東克樹と相性の良い菊池選手だったこともバッテリーやDeNAベンチがスクイズに対して無警戒になってしまった要因の一つであるように思う。


ここまでの一連の攻撃は予め綿密に計画された一種のサインプレーとも言うべきものだったと思う。


スクイズの直前にわざとサードコーチャーと走者の羽月選手が話し合っていたのも巧妙なトリックだったのかも知れない。


秘すべきスクイズの直前にこれ見よがしに次のプレイの確認をすることは絶対にない、と誰でも思う筈だから。


デビッドソンの四球の後わずか4球しかもノーヒットで2-2の同点となる失点を喫したことは東-山本バッテリーにとってもDeNAベンチにとってもショックだったと思う。


この攻撃で流れが大きく傾き、初戦の逆転サヨナラ、さらには第二戦でのカープの勝利につながる道筋が出来たと言っても過言ではないだろう。


今日の第二戦でもカープの攻撃には周到さを感じた。


初回の攻撃で先頭の菊池涼介が9球粘ってレフトフライ、続く野間峻祥も8球粘ってライトフライ。


そして次の西川龍馬も粘り、8球目を今度はライトスタンドに叩き込む先制のソロホームランを放った。



恐らく、今永昇太は立ち上がりに制球がやや不安定になり球数を多く投げさせると甘いボールが来るというデータがあったのだろう。


明らかに意図を感じる各打者の粘りだった。


以前、トレバー・バウアーがカープと2度目に対戦した際にめった打ちにあって大炎上したことがあった。


これは癖を盗まれていたせいだと思うが、それでも、それを手がかりに完璧に打ち崩すと言う結果を出すためには相当に周到な準備をしていたに違いない。


それ以来、カープには優秀なデータアナリストの方がいて、しかも現場のコーチや選手たちと緊密に連携が取れていると感じることが多い。


その集大成が今回のクライマックスシリーズだ。



勝敗を大きく分けたものは、勝つための準備の差だったと思う。


ベイスターズの采配について色々な意見があることは承知している。


初戦の桑原のバスター、林の盗塁、蝦名の前進守備、今日の大田泰示のバント、ポストシーズンで同点という緊迫した局面での上茶谷の回跨ぎなど。


私は、こうした采配だけを取り上げて是非を議論すべきではないと考えている。


本番の生きたボールに対する桑原のバスターや大田泰示の送りバントはどの程度準備していたものだったのか?


CSという負荷の大きい舞台での回跨ぎについて上茶谷はメンタルも含めた準備をしていたのか?


つまり、意図する戦術を成功させるための周到な準備の有無に注目すべきだと思うのだ。



少し脇道にそれるが、女子ソフトボール界で永く日本のエースに君臨されている上野由岐子さんの話をしよう。


2004年のアテネオリンピックで米国に敗れて銅メダルに終わった直後、上野さんが日本のソフトボール界では当時誰も投げていなかったシュートを習得した。


上野さんがシュートを我がものにし、しかもそれが試合で威力を発揮する「使える」ボールだと知った当時の宇津木監督が考えたことは、このボールをギリギリまで秘匿すると言うことだった。


上野さんはこの監督の指示を守り、それからの4年間国内外の試合でシュートを一度も投げることなく2008年の北京オリンピックを迎えた。


そして彼女はこの大会でも最後の日まではシュートを投げなかった。


上野さんが公式戦で初めてシュートを投げたのは予選ラウンドを終えた後、この大会で米国との2度目の対戦となる決勝戦だった。


米国チームは全く予想していなかった上野投手のシュートボールと初めて対戦して驚愕し、事前に描いていたゲームプランは霧散して敗れた。


日本女子ソフトボール界初めての金メダルはこうして獲得されたと言うことだ。


上野さんが密かに研鑽し監督がそれを秘匿したこの4年の間の眠り爆弾のような周到な準備には本当に頭が下がる。



今回のクライマックスシリーズでカープにあってベイスターズになかったものは、こうした勝つための周到な準備とそれを支える執念だったと私は思う。


これから来年2月のキャンプインまで野球のない長い日々が続くことになるが、ベイスターズの監督、コーチ、選手たち、そして他の多くのスタッフの方々が今日の敗戰を糧にして「勝つために準備する意欲」を12球団で最高と言えるレベルにまで高めてくれることを祈って止まない。



“「勝つ意欲」はたいして重要ではない。そんなものは誰もが持ち合わせている。


重要なのは、勝つために準備する意欲である”


ボビー・ナイト(将軍と呼ばれた米国のバスケットボール名コーチ)