mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

タイトルラッシュの光と影





NPB AWARDS 2023の表彰式が昨日行われ、ベイスターズからは最多勝と最高勝率の東克樹、最多奪三振の今永昇太、首位打者の宮﨑敏郎、そして打点王と最多安打の牧秀悟が晴れの舞台に姿を見せた。


それにしても今シーズンはタイトルをとった選手が例年になく多い。


忘れないように書き出してみよう。


東克樹: 最多勝、最高勝率、JERAセリーグAWARD年間大賞、ゴールデングラブ、ベストナイン、最優秀バッテリー(山本祐大と)


今永昇太: 最多奪三振


宮﨑敏郎: 首位打者、ゴールデングラブ、ベストナイン


牧秀悟: 打点王、最多安打、ベストナイン


桑原将志: ゴールデングラブ


なんと言っても、トミージョン手術から完全復活し、16勝3敗という手術前をはるかに凌ぐ好成績をおさめた東克樹の大活躍が素晴らしい。


チームでは川村丈夫さん以来24年ぶりとなる16勝、佐々木主浩さん以来のベストナイン、そして遠藤一彦さん以来の12連勝と記録を軒並み塗り替えた年でもあった。


新人だった2018年以来の二桁勝利であり、その間の4年間は肘の故障のためにほとんど勝てていなかったことを考えれば、カムバック賞が贈られる可能性もある。



7月25日以降勝ち星のなかった今永昇太も最多奪三振のタイトルは非常に価値あるものだ。


特にMLBは日本以上に三振奪取能力を重視する傾向があるため、ポスティングでのメジャー挑戦を決めた年にこのタイトルをとることができたことでFA市場での価値をさらに高めたことだろう。


2度目の首位打者、3度目のベストナイン、2度目のゴールデングラブに輝いた宮﨑敏郎はもはやNPBを代表する名選手の1人になったと言って良い。


6年の長期契約を結んでからも決して慢心することなくストイックに野球を極め、技術にさらに磨きをかけている姿は若手の良い模範でもある。


そして牧秀悟は旋風を巻き起こしたルーキーイヤーから一度も成績を落とすことなく、徐々にレベルアップしている点が特筆に値する。


入団時から目標にしていた打点王のタイトルを獲得したことは彼自身が一番嬉しいだろうし、今シーズンは開幕前に行われたWBCでの優勝に始まり、11月のアジアプロ野球チャンピオンシップ2023の連覇まで、まさに野球漬けの一年でもあった。


しかし、このタイトルラッシュを喜んでばかりはいられない。


主力選手が好成績をおさめてくれることはファンとしても嬉しい限りなのだが、やはりチームとしてはこの点を解消しなくては優勝の二文字は見えてこないのだ。


これだけのタイトルホルダーを擁しながら、何故、優勝した阪神タイガースに12ゲームもの差をつけられてしまったのか?


私は二つの大きな理由があるように思う。



【個人成績の二極化】


先発投手陣では、前出の東克樹に加えて今永昇太とトレバー・バウアーが強力な三本柱を構成した。


東克樹  16勝3敗
今永昇太  7勝4敗
バウアー 10勝4敗


この3人の合計で33勝11敗、つまり22の貯金を作っている。


にもかかわらずチーム全体としては貯金8にとどまっている、つまりその他の投手で借金14という事実が二極化の最たるものだろう。


大貫晋一 5勝4敗
ガゼルマン3勝5敗
平良拳太郎4勝4敗


という3人の右腕は合計で12勝13敗。昨年勝ち頭だった大貫晋一が開幕前の肩の故障で出遅れたのは痛かったが、合わせて借金1というのは許容範囲だ。


石田健大 4勝9敗
濵口遥大 3勝7敗


この実績ある左腕2人が合計7勝16敗と借金9を作ったのは許容範囲ではない。


簡単に言ってしまうと、この2人の勝ち数と負け数が同程度であれば、つまり借金0であればチームの貯金は17に増えることになる。


これに加えて、抑え投手の不振も痛手だった。


山﨑康晃 3勝7敗8ホールド20セーブ
伊勢大夢 4勝6敗33ホールド2セーブ


昨年は盤石だったこの2人のリリーバーで7勝13敗の借金6も痛い。


リリーバーとしては勝敗よりもむしろ合計41ホールド、22セーブという結果を評価すべきだし、特に山﨑康晃は不運だったこともある。


しかし、である。


一流と言われる投手たちもひとの子であり、毎年大活躍出来るわけではない。


問題は、明らかに本調子ではないにも関わらず石田健大が毎週先発し、山﨑や伊勢はファームで再調整させる余裕がない、という選手層の薄さと投手陣のマネジメントの不備である。


“やられたらやり返せ”という気持ちは大事だが、それは選手たちが自らを鼓舞するためのものであり、首脳陣はそうした「気持ち」に頼ることなく客観的で科学的な選手管理をする必要がある。


野手についても二極化は明瞭だった。


セイバーメトリクスでしばしば使われるwar(打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して、選手の貢献度を表す指標)で見ると、やはりベストナインを獲得した2人が突出している。


牧秀悟  6.6
宮﨑敏郎 4.3



規定打席に到達した野手は合計5人だったが、残りの3人は以下の通り。


関根大気 2.1
桑原将志 1.2
佐野恵太 -1.6


首位打者を獲得したこともあり昨シーズンも最多安打のタイトルをとった佐野恵太のwarがマイナス、つまり走攻守トータルで見るとリーグの平均以下となってしまったのは大きな誤算だった。


佐野選手の場合は有鈎骨骨折で今オフ手術を受けたが、それ以前から彼本来のバッティングではなかったように思う。


150打席以上の野手では、大田泰示とソトのwarが微小なプラスで、京田、大和、林はマイナスだった。


期待された楠本泰史と蝦名達夫はいずれも打率1割台でありwarもマイナスだ。


今シーズン主軸として期待されたタイラー・オースティンと森敬斗はいずれも故障や手術のため、シーズンを通じた戦力としてはほとんど期待できなかった。


誤解のないように言っておくが、私は不調あるいは不在だったこれらの投手や野手のために優勝できなかった、というような戦犯探しをしているのではない。


そもそも、主力選手の一部が不調だったり故障で離脱したりというのはむしろ必ずある、と考えるべきものだ。


晴れの日ばかりではないのは当たり前のことなのだ。



【選手の調子によらず勝つための仕組みの不在】


約半年にわたってほぼ毎日真剣勝負の試合を続けるというのはかなり過酷な仕事だと思う。


そして、投手も野手も成功と失敗の境目は非常に微妙で繊細なものだ。


だからこそ、選手たちの全てが故障も大きなスランプもなくシーズンを全うすることができるなどという楽観的な考えでは優勝などはとてものことに覚束ない。


今シーズンの好不調の選手の割合、故障による離脱率を標準と考えて、それでも20以上の貯金を作ることができるだけの選手層の厚さを確保することが「選手の調子によらず勝つための仕組み」として最も重要なことだろう。


牧秀悟か宮﨑敏郎のどちらかが故障で長期離脱あるいは東克樹が不調でなかなか勝てない、と言った状況でも少なくとも勝率5割で乗り切ることのできるようなチーム編成が必要なのだ。


以前、秋山翔吾がMLBから日本に復帰した際、ベイスターズが獲得するのではないかという噂が出たことがあったが、ネット上の意見としては、これ以上外野手をとってどうするのだという声が多かった。


しかし、これは必要な無駄あるいは冗長性というものだったと私は思っている。あの時、秋山選手を獲得していれば、オースティンや神里が不在の今季にどれほど心強かったことか。


ケチケチしていては優勝などできないのだ。


俊足、強打で内外野複数のポジションを守ることの出来る度会隆輝をドラフトで獲得し、森、京田、大和、柴田、林とそろう遊撃のポジションに東洋大の石上泰輝をドラフト4位で獲得したのも球団首脳が冗長性を意識した編成を心がけている証拠だろう。


戦力外となった森唯斗ら3投手の獲得も同様だ。



そして、増収増益と今永昇太の移籍金によって資金が充実している今オフ、選手層の厚さを増すための補強はこれからまだまだ続くはずだ。


新外国人として投手2名、ホームランバッター1名は狙っていることだろう。


こうしたリスク管理に加えて、ヒットが続かなくても得点を挙げることの出来る仕組み作りも「選手の調子によらず勝つための仕組み」として欠かせない。


今シーズンは苦手投手への対応や打線が不調時に1点をとる作戦などチーム戦術で阪神や広島に大きく遅れをとったことを球団首脳も理解しているに違いない。


そこで彼らが打ち出した打開策が、データ分析に長けた靍岡賢二郎アナリストをヘッドコーチ格のオフェンスチーフコーチに昇格させ、戦術面の責任者にあてることだった。


石井琢朗コーチや鈴木尚典コーチなどは技術的な側面で選手のレベルアップに専念してもらい、作戦と実技それぞれの責任の所在を明確にすることが狙いだろう。


同様のことは、同じくアナリスト出身の大原慎司さんをチーフ投手コーチに抜擢したことにも当てはまる。


動作解析を通じた実技の向上を小谷アドバイザーの指導のもと小杉陽太コーチが担当し、投手起用やブルペンの運用については大原チーフコーチが取り仕切ることになるだろう。


もちろん、こうした取り組みが成功するか否かは来シーズンが始まってみないと分からない。


しかし、萩原統括本部長をはじめとする球団首脳が今シーズンのベイスターズの問題点を的確に把握し、それに対して積極的に手を打とうとしていることは高く評価出来る。


我々ファンとしては、この実験的な取り組みのこれからをワクワクしながら見守っていくことにしよう。


DeNAベイスターズは今どこに向かおうとしているのか?(後編)





テレビの解説者の方からはDeNAの強力打線と言われることがいまだに多い。


失礼だが、これは最新のデータを勉強されていないか、あるいは気を遣っていただいてのことだと思う。


打線の破壊力という意味では、筒香、ロペス、宮﨑、梶谷と揃っていた2017年日本シリーズ進出時に及ぶべくもない、というのが実情だ。


現在の打線の中軸は、宮﨑敏郎、牧秀悟、佐野恵太というあまり足の早くない中距離ヒッターであり、以下の二つの点が補強ポイントであることは誰の目にも明らかだと思う。


(1) 機動力のある外野手(トップバッター候補)


(2) 長距離砲



”DeNAベイスターズは今どこに向かおうとしているのか?”というタイトルで記事を書いてきたが、最終回となる今日はこの二つの弱点に対してどのように萩原さん主導の編成が梃入れして行くのかを見てみたい。


まず、2011年以降の主な野手(ドラフト上位指名選手及び下位指名ながらレギュラーか準レギュラーにのし上がってきた選手たち)のドラフト指名状況を整理してみよう。



目につくのは遊撃手の指名が非常に多いことだ。


2012年の白崎浩之、2019年の森敬斗をドラフト1位で指名したのをはじめとして、2014年倉本寿彦、2015年柴田竜拓、2016年松尾大河、2020年粟飯原龍之介、2021年林琢真と5人を3位で指名している。


アマチュアの遊撃手といえば、内野手の中で最も身体能力に優れた選手が担当する、いわば花形であるため、指名が多いことは理解できる。


実際、ショートとして入団してその後二塁手や三塁手などにコンバートするというのは良くあるパターンだが、逆は非常に少ない。


上位指名された歴代の遊撃手を眺めてみると、白崎選手がレギュラーに定着できなかったこと(新人年から一軍に帯同することで基礎を固めることができなかったという評もある)、森敬斗が度重なる故障もあって首脳陣の期待に沿うようには成長していないことが目立つ。


しかしながら、このポジションについてはなかなか外部からの補強等のが難しい(大和有難う!)ため、編成担当としても来季は背水の陣で臨む森敬斗と林琢真の競争による底上げに期待しているということだろう。


今回のドラフトで打った手は東洋大の石上泰輝選手を4位で指名したこと。


身長は172cmと小柄だが、体重85kgと筋量の多いがっちりした体型で打撃についても小技というよりは広角にしっかりと打ち返す力があるようだ。


それでいて50m5.9秒の走力と遠投120mの肩もあるということなので、森林コンビもうかうかとはしていられない。


このポジションについては非常に適切な補強をしたという印象がある。



続いて、キャッチャーについては、山本祐大が課題の打撃で開眼(レーシック)して正捕手の座を掴みかけている。


伊藤光、戸柱恭孝の二人のベテランが残留することも決定しているため、山本捕手を中心にこの二人を組み合わせて回して行くことで大きな問題はないだろう。


ドラフト1位の新人、松尾汐恩は新人年からイースタンで出色の成績を残しており、打撃に関しては一軍レベルにかなり近づいていると言って良い。


上に書いた通り、来年については一軍の捕手3人体制がしっかりしているため、よほどのことがない限り彼はファームで捕手としてのスキルアップに精進することになるだろう。


後半に昇格してスタメンマスクをかぶる試合があるかも知れない。


セカンドの牧秀悟、サードの宮﨑敏郎は固定で考えて良い。


宮崎については、今季のように適宜休養をとって知野直人あたりが出場経験を積んでいくことになるかと思われるが、知野選手自身も打撃で何かを掴みつつある気配があり、ここで一気にブレイクする可能性も感じる。


ファーストは予想が難しい。


後述するように外野手の補強が進むと予想されるため、レフトの守備に難のある佐野恵太をファーストに専念させるというのが基本線だとは思うが、有鈎骨摘出手術を受けているため、来季の開幕から本来のバッティングを見せることができるかどうか、やや不安がある。


また、手術から復帰するタイラー・オースティンが一塁を守るのか、あるいはスローイングも問題なくライトを守ることができるのか、そしてネフタリ・ソトが残留するのか、といった要素が絡んでくる。


ソト選手については、実は骨折をおしてプレイしていたそうで、今オフに手術を受けてリハビリ中であると言うことも考える必要がある。



しかし、逆に言えば、この状況でMLB等も含め他球団が好条件のオファーを出すことは考えにくいので、私は大幅な減額であってもベイスターズに残留する可能性は高いと考えている。


さらに、一塁手の問題は上記の補強ポイント(2)長距離砲とセットになっていると言っても過言ではない。


長距離砲の候補は、現有勢力で言えばタイラー・オースティンとネフタリ・ソト、そして新たに獲得する可能性のある外国人選手と言うことになる。


新外国人については、ジェイク・ケイブ選手がベイスターズのインスタグラムをフォローしたと言う話が出ており、動画を見ると走攻守ともに期待できるかなり良い選手だと思っていたのだが、フィリーズと契約して来季もMLBでプレイすることが決まったらしい。


もう1人名前が出ているのはベイスターズとソフトバンクが獲得に乗り出していると言う噂のあったフランミル・レイエス選手。


レイエス選手はドミニカ出身の28歳で196cm、125kgの巨漢外野手。



メジャー通算108本塁打で年間30本以上を打ったシーズンが過去2回あることからもわかる通り、パワーに関しては申し分ない。


しかし、近年はウェイトオーバーで守備がかなり劣化しており、肝心のバッティングの方も外角の変化球を空振りすることが多く不振に陥っていると言う噂もある。


私の感想としては、NPB向きでは無いように思う。


その他、素行にやや問題はあるが守備も含めて実績のあるプイグ選手なども噂は以前からあるが、どうなるだろうか?


12月上旬に行われるメジャーのウィンターミーティングあたりから動きが本格化することになるだろう。


火の無いところに煙は立たぬ、と言うが、前述したジェイク・ケイブ選手のインスタフォローの件はやはりベイスターズ側から何らかのアクションがあったことを意味していると思う。


つまり、萩原さんたちは、ソト選手が残留する場合でも第三の外国人野手としてかなりレベルの高い従って高額の選手の獲得を画策していると見て間違いないと思う。


そんなに高い外人選手を沢山とってどうするんだ、と言う向きもいらっしゃるとは思うが、長いシーズンを戦い抜いて優勝するためには分厚い選手層が必要なのだ。


ここでケチってはいけない。


最後に機動力のある外野手だが、これこそ今回のドラフト1位で度会隆輝選手を獲得した狙いだろう。


彼は即戦力としてオープン戦から積極的にチャンスを与え、うまくアピールできればそのままトップバッターでスタメン起用すると言う青写真を描いていることと思う。


1番度会、2番森あるいはその逆というようなドラフト1位入団の1、2番コンビがはまれば、その後ろに多くの強打者が控えているだけに、文字通り、DeNAの強力打線復活ということになる。


度会選手に関しては、CS前のENEOSとの練習試合でベイスターズ側から彼にサードを守らせてみて欲しいという要望を出していたそうで(度会選手は横浜高校時代は内野手だった)、宮﨑のバックアップあるいは後継と言った可能性も見ているようだ。



度会サード、ファースト宮﨑という組み合わせもあるかも知れない。


このように、彼の加入によって打線と守備の自由度が増すことを考えると、このドラフトは非常に有意義なものだったと言えるだろう。


逆に、神里和毅、蝦名達夫あるいは楠本泰史と言った今シーズン不調だった外野手たちは現役ドラフトの可能性も出てきたように感じる。


と言うわけで、DeNAベイスターズに今起きつつある変化について様々な視点から長々と書いてきたが、振り返って見ると、やはり萩原統括本部長をはじめとする球団経営陣の本気度が至る所に見えていると感じる。


新たな体制で死にものぐるいで優勝を目指すベイスターズの戦いは既に始まっている。

DeNAベイスターズは今どこに向かおうとしているのか?(中編)





前回の記事で、横浜DeNAベイスターズという球団が大きく変わろうとしていること、そしてそれを強力に推し進めているのが南場オーナーの指揮のもと実務に携わる萩原統括本部長たち経営陣だと思われることを書いた。


これまでの12年間に蓄積した経験や知識に基づき、現経営陣は当初、全くの素人であったプロ野球チームというコンテンツの良否を数値化し、目標を立てて課題を明確にしつつ改善していく、という通常の企業活動としてのチーム運営を主体的に行なっていく自信ができたことがその理由の一つだろう。


そして、それを支える原動力となっているのが資金の充実だと思う。



【進化のためのリソース】


先日、横浜スタジアムにおける主催試合の観客動員数が公表され、ウィング席の増設によるキャパシティの増大に加えコロナ禍の終焉もあり、今シーズンは過去最高を記録したことが明らかとなった。



当然、DeNAのスポーツ部門の収益も上がっており、第2四半期決算は売上収益39%増の110億円、セグメント利益が100%増の40億円(第1、第2四半期の合計は74億円)であった。


DeNAのスポーツ部門というのは今のところ実質ベイスターズそのものであり、プロ野球がシーズンオフとなる第3、第4四半期は赤字が予想されるため(昨年の実績は46億円の赤字)、年間の利益は圧縮されるだろうが、それでもかなり良い数字である。



今永昇太のポスティングにより10億円超と言われる譲渡金が入った場合、それは収益としてカウントされるのだろうか?


だとすると、年度後半の赤字も減少するはずだ。この場合、2023年度の最終利益はおよそ40億円というところになる。


この資金の一部は留保あるいはコロナ禍での赤字の穴埋めに使うにしても、大半は悲願の優勝に向けて優秀な選手やコーチを獲得するなどの投資に回すのだろう。


横浜スタジアムの買収と拡張、横須賀のファーム施設Dockの建設などインフラへの投資は既にほぼ完了しているのだ。


優勝を狙えるという下馬票があり期待が膨らんだ今シーズンを3位で終えた今、今永昇太が渡米しバウアーや石田も居ないかも知れない来シーズンは育成に舵を切って雌伏の年とする、などということはファンが許さないだろう。


人気先行で実力が伴わずファンが去って行くという状況をDeNA経営陣は最も恐れているはずだ。従って、彼らは持てる資金を積極的に補強に回すに違いない。


余談だが、DeNAが数年前に東芝から買収したBリーグの川崎ブレイブサンダースもコロナ禍から脱してようやく黒字に転じた。


Bリーグのシーズンは10月から5月であり、プロ野球のシーズンオフにほぼピッタリとはまる。


ブレイブサンダースの収益が安定してくれば、DeNAのスポーツ部門全体として第3、第4四半期のベイスターズ分の赤字を一部補填してくれることが期待できる。


DeNAの企業戦略はしっかりと考えられているようだ。



【経営陣主導の本気の補強とは】


ファンの間でも2024年シーズンからしばらくの間は育成に舵を切った我慢の年になるだろうという声がしばしば聞かれる。


しかし、上に書いた資金面の充実を考えれば、育成と補強はもはや二者択一の問題ではなく、同時に進めて行くことが可能だ。


しかし、資金が充実したからと言って、ベイスターズがいわゆる金満球団のように振る舞うことは無いだろう。


現在のチーム力を分析して課題を明確にし、それぞれに適切なリソースを配分して全体としてバランスの取れた補強を目指すに違いない。


補強の全てが金銭を必要とするわけではなく、逆に言えば、金をかけても改善のおぼつかないこともある。


誰から頼まれた訳でも無いが、現在のベイスターズが抱える課題を分析してみると、次のような補強ポイントが見えてきた。


(1) ローテーションの3番手、4番手となる先発投手


今永昇太の移籍がほぼ確実でトレバー・バウアーの去就が不透明であることから、来季の先発ローテーションである程度確実に見込めそうなのは、東克樹と大貫晋一という左右の柱だろう。



大貫は春先の肩の故障からなかなか状態が上がらなかったが、シーズン終盤には自身初の完封をマダックスで達成するなど本来の力を見せていた。


一昨日の契約更改時のインタビューでも来季にかける覚悟が明らかであり、期待できそうだ。


東克樹については今年の大活躍の反動を懸念する声もあるが、彼のピッチングは対戦相手の対策や調子の波による影響を考慮してもある程度安定したレベルを期待して良いと思う。



この2人に続く投手としては平良拳太郎とハマちゃんの名前が挙がるところだが、彼らに関しては正直言って蓋を開けてみないと分からないところがある。


そこで、球団の編成もこの点を補強ポイントと捉えて資金を投入しようとしている。


一人目はオリックスからFA宣言した山﨑福也投手。


今期自身初となる二桁勝利を挙げた左腕で打力も評価が高いことからセリーグへの移籍を検討しているという。


埼玉出身で日大三高から明治大学を経てオリックス入りした彼が在京球団を希望することは十分に考えられる。


4年8億以上という金額はやや割高感があるものの、ヤクルト等の提示を受けてDeNAはさらに金額を上げたという情報もあり、どうも珍しくマネーゲームを本気で戦っているようだ。



ソフトバンクや読売も参戦という情報もあり、流石に金銭面だけでは旗色が悪いが、オリックスから入来コーチが復帰することやDeNA得意のクリエイティブな提案(登板日以外も右の代打でベンチ入りし、ヒット数に応じて出来高払いなど)で引き寄せて欲しい。


もう1人はMLBのピッツバーグパイレーツから今オフにリリースされたウィル・クロウ投手。


フォーシームの最速は156km/h、高速のスウィーパーが得意の先発投手で28歳という年齢からも期待が持てそうだ。こちらも獲得報道は未だ出ていないが期待して待つこととしよう。



バウアー投手がNPBにとどまると言う選択をした場合の年俸12億円のうち今シーズンとの差額8億円、山﨑福也投手とクロウ投手に各2億円として合計12億円(2024単年)をここに投資しよう。



(2) セットアッパーとクローザー


7年間にわたってベイスターズのブルペンを黙って支えてくれたエドウィン・エスコバーの退団が濃厚であることは寂しい限りだが、彼自身がSNSで語っていたように新たなページを開く決心をしたのであれば、感謝しつつ送り出したい。


今季は山﨑康晃、三嶋一輝といったベテランが精彩を欠き(三嶋は手術明けなので無理させられないという意味合いが強かったかも知れないが)、昨年活躍した伊勢大夢と入江大生もシーズンを通して状態が上がらなかった。


その代わりに、上茶谷大河がスクランブルで登板し、森原康平とジェフリー・ウェンデルケンが8回、9回を担当して勝ちパターンの核となったが、圧倒的と言える成績とまではいかなかった。


昨シーズン後半に台頭してきた石川達也、宮城滝汰に加えて、ファームでは徳山壮磨の成長も見られることから、全体として見れば今年よりは層が厚く、ある程度のレベルでブルペンを運用して行くことが出来そうだ。


しかし、近年のNPBでは、優勝チームは例外なく終盤に圧倒的な力を持つリリーバー達を多く抱えており、上述した陣容では未だ物足りない。


ドラフト2位で名城大の右サイドスロー投手、松本凌人を獲得したのにはこうした背景があってのことだろう。


読売の大勢投手の例を見ればわかる通り、力のある真っ直ぐを投げる変則的なサイドスロー投手というのは成功する確率がかなり高いのでは無いかと思う。



私は来シーズンの比較的早い時期から彼が勝負どころで右の強打者と対戦することを夢想している。


読売の岡本、坂本、阪神の大山、森下、中日の細川、ビシエド、ヤクルトの山田哲人など、松本投手のタイミングの取りづらいフォームから繰り出される最速153km/hのストレートやシンカーで勝負する姿を見るのが楽しみだ。


加えて、ソフトバンクから森唯斗、オリックスから中川颯を獲得した点も補強ポイントとして合致していると思う。


いずれも戦力外とはなったものの、所属チームの編成上の理由ということであり、まだまだ通用する力がありそうだ。



先発転向が成功したとは言えなかった森投手だが、リリーフに回ればストレートの球速も上がるだろうし、何といっても数多くの修羅場を切り抜けてきた経験値と胆力を考えれば、ブルペンの精神的支柱としても期待できるのではないか。


中川投手は希少種となったアンダースローの投手であり、このところベイスターズに欠けていた右の強打者に対するワンポイントでの登板のような形でブルペンの幅を広げてくれそうだ。


ここまでの補強を資金面で見ると森投手の年俸5000万円



が目立つ程度で、ドラフトと育成で賄っている印象だ。


と言うことは、ここでも積極的な投資の可能性があるのではないか?


何だか金勘定ばかりしているようで気が引けるが、エスコバー投手の退団が濃厚と言うことであれば、彼の年俸2億6000万円が浮くことになるので、円安とは言えそこそこ勝負できるだろう。


今オフから編成に移って米国の選手たちも担当する斉藤隆さんはMLBでもフロント入りしていた経験があり、的確にNPBにフィットするリリーバーを連れて来てくれそうな気がする。



さて、ここまで投手陣だけ書いたところで予想以上の分量となってしまった。


この記事は中編ということにさせていただき、次は野手編を改めて別記事でまとめることにしよう。


乞うご期待。