はるか昔のことだが、幼児の頃、砂場で大きな山を作ることに情熱を燃やしていた。
他の子供たちと比べて格段に大きな山を作れることが自慢であり、大人たちに褒められて得意になっていた記憶がある。
その頃の「山づくり」のコツはただ一つ、何度も作っては壊すという行為を繰り返すことだ。
砂場に行くと、おもむろに小型の山を作る。
この山を上から潰すと平たく広い台地ができる。
そして、その上に前回よりも大きな山を作り、これも壊して台地にし、さらに大きな山を積み上げるのだ。
このプロセスを4、5回繰り返すと、惚れ惚れするほど大きな山が出来ている。
子供の頃の砂山づくりを思い出したのは、クライマックスシリーズファイナルステージで阪神に三連敗して今季の戦いが終わった直後、ベイスターズのチーム編成の報道を見たからに相違ない。
2021年から今年にかけて三浦ベイスターズはチームという砂山を作ってきた。
しかし、その高さと大きさはリーグ優勝できる水準ではないことが、万全の優勝を遂げた阪神タイガースとの直接対決で顕になってしまった。
そして、球団首脳はこの山を一度潰して台地にし、その上にもっと大きな山を作るという決断を下したのだろう。
その決断と三浦大輔監督の辞任のどちらが早かったのかは部外者である私には分からない。
球団と三浦監督とは日頃からコミュニケーションをとり合う関係性だったようなので、両者ほぼ同時に自然発生的に浮かんできた考えであるようにも感じる。
最後の試合が終わって間もなく、外国人選手たちの帰国が始まった。
ダヤン・ビシエド、ローワン・ウィック、マイク・フォード、アンドレ・ジャクソン、トレバー・バウアー、タイラー・オースティン、そして最終戦に先発したアンソニー・ケイ。
この7選手全員が退団する可能性は決して低くない。
球団としては、先発ローテーションの柱であるケイ投手とジャクソン投手は当然慰留に努めるだろうが、二人ともMLBの複数球団が興味を示しているようなので引き留めることは難しそうだ。
ウィック投手もMLBあるいは他のNPB球団から声がかかっているという噂もある。
バウアー投手とフォード選手については、成績を鑑みて球団からオファーを出さない可能性がある。
ビシエド選手は日本人選手枠なので悩ましいところだが、年齢とインハイが打てないという弱点を考えると難しいか。
最も難しいのがオースティン選手だが、状態が良い時の高いパフォーマンスと故障で長期離脱を繰り返す悪癖、そして高騰した年俸を球団がどう見るかというところ。
この7選手の今季の年俸総額はおよそ20億円に上る。
球団が、砂山を一旦台地に均して、その上に大きな山を築こうというのであれば、7選手全てをリリースし、その資金で新しい有望な外国人選手を10人以上獲得することもできる。
もちろん、外国人の登録枠は限られているが、日本の野球への適応性という「やって見なければ分からない」リスクを踏まえて、余剰の選手まで抱え、外国人選手間の競争を促すこともできる。
実績のある選手で引退あるいは戦力外となった例も多い。
森唯斗(引退)、三嶋一輝(戦力外)、京山将弥(戦力外)、徳山壮磨(戦力外)、浜地真澄(戦力外)
全員が投手、しかも中継ぎであることは何を意味するのだろうか?
今季のベイスターズの弱点がブルペンであることは明らかなので、ここに大鉈をふるう意図であるのは間違いない。
しかし、その後のドラフトでの投手指名は僅かに二人。しかも、2位の島田投手は(少なくとも初年度は)先発として起用するだろう。
今シーズンも最終盤で最も頼りになる抑えだった森原康平がFA権の行使を熟慮する中、球団のテコ入れの策はどのようなものか。
トレード、現役ドラフト、外国人リリーバーの獲得など、今後の動向を注視したい。
野手では、来年38歳になる宮﨑敏郎三塁手の後継者を確保することが最優先課題だ。筒香選手のサード起用は短期的には最適解だが、彼も来月34歳になる。
ドラフトでの小田康一郎選手の一位指名、今秋のフェニックスリーグでの度会隆輝のサード起用が球団の意図を示している。
そして、桑原将志のFA宣言の噂も聞こえてきた。
球団一の元気印である桑原選手も32歳になり、移籍のチャンスはこれが最後だろう。
蝦名達夫、梶原昴希という俊足巧打の若手が育ってきたことを彼がどう捉えるか?
来季は高卒7年目となる森敬斗のセンターコンバートもフェニックスリーグで模索されているようだ。
捕手陣における戸柱選手のように、桑原将志がメンターとして若手の外野手たちを導く役割を期待している私としては、是非とも残留して欲しいところだが。
その他、故障を抱えた選手たちの手術に関するニュースも多い。
大貫晋一(右肩クリーニング手術)
森敬斗(右肘クリーニング手術)
山本祐大(右前腕プレート除去手術)
柴田竜拓(左肩反復性脱臼のため手術)
そして今日、石井琢朗コーチの退団が報じられた。
さにわべの 八重山吹の 一枝散り
しばらく見ねば みな散りにけり
ああ、寂しいことだ。
しかし、忘れてはいけない。
今はあえて山を潰し、均して台地を作る時期なのだ。
その上にはより高く大きい山を築いていくことができるだろう。
そうだ。
終わりははじまりでもあるのだ。