mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

器用貧乏からの脱出



“器用貧乏(三省堂 新明解四字熟語辞典より)


なまじ器用であるために、あちこちに手を出し、どれも中途半端となって大成しないこと。


また、器用なために他人から便利がられてこき使われ、自分ではいっこうに大成しないこと”



【三浦監督の上茶谷評】


12月8日 何故かこのタイミングでスポーツ紙各社が三浦大輔監督の上茶谷大河投手への次のようなコメントを掲載した。


「物まねばっかりして、見るたびにフォームが変わっている。


人に物まねされるくらい、自分の形をしっかりつくり上げなさい」


「迷ったときに戻れる軸、基本となる幹を太くしないと安定した成績は残せない。


上茶谷はそのあたり。向上心もあり、練習は一生懸命取り組んでいますから」


これに対して、上茶谷選手本人は


「もちろん、そうなれるように頑張ります」


と“殊勝に意気込んだ”と語った、とのこと。


このやりとりはどのような場面で行われたのだろう。


秋季トレーニングも終わったこの時期に三浦監督と上茶谷選手がどこかで出会うことがあったのだろうか?


あるいは、記者が三浦監督に上茶谷選手のことを質問して上記のコメントを引き出し、別の機会にそれを上茶谷選手本人に伝えたということなのかも知れない。


上茶谷選手は言わずと知れた2018年ドラフト1位入団の期待度の高い投手だが、どうも2年目以降伸び悩んでいる印象が強い。


同期入団の大貫晋一投手(ドラフト3位。ただし、社会人を経由した早生まれの大貫選手が3学年上)が2度の二桁勝利を含む通算33勝を4年間で挙げているのに対して、上茶谷選手は13勝にとどまっていることもこのような印象に関連しているだろう。


【野球のふるさと】


上茶谷投手と言えば、ベイスターズの今永、三嶋、山崎ら先輩投手陣の投げ方や、宮崎選手の打撃フォームを真似て誇張し過ぎたモノマネで人気を博しているが、この器用さが彼自身のピッチングのブレない軸を作ることの妨げになっていると言うのが三浦さんの指摘だ。


彼のコメントにある「迷ったときに戻れる軸、基本となる幹」については、今年の初めに小谷正勝アドバイザーと三浦監督が行った対談で関連する話題が出ていた。


小谷「一番プライドを壊さないで、導いてやるには『野球のふるさと』に帰ることだな。


何で良くなったのかを考えるんだ。


野球を始めた時から振り返って、これだと思った瞬間がある。それが原点。


俺は小学生のころ、お宮の石灯籠に向かって投げたら、なぜかうまいこと投げられた」


三浦「僕の場合は子どものころ、おやじが商売してて、店の裏の細い路地でのピッチング、キャッチボールですね。道幅が1メートルあるかないかのところ。


それがコントロールが良くなった原点かなと思います」


小谷「人間の視野、感覚ってすごい。三浦は路地がはまったんだな。


細くて、変なところに投げたら当たっちゃうから、コントロールのコツをつかんだ」


三浦「プロに入っても、プレートの幅からバッター、キャッチャーのイメージまではつきやすかった」


上茶谷投手の野球のふるさとは何だろう?



上茶谷少年は中学時代、トイレ休憩でもタイヤを引っさげていた。重さは約60キロ。


2トントラックのタイヤをロープで腰に縛り、グラウンドやポール間はもちろんのこと、トイレでも離すことなく、プロで闘うための下半身を作り込んだ。


所属した京都東山ボーイズの甲斐省三監督は「身長も160センチに満たない。大会でも1回くらいしか投げていない。大河はとにかく走っていた」と語っている。


親子鷹で、スポ根で最高峰の舞台を目指した。




野球を始めたのは小学1年。夕食後、自宅ガレージに設置されたネットで、父篤史さんとティー打撃、ネットスローに明け暮れた。


毎日2時間の特訓は、中学に入っても続いた。


軟式用ネットの中心部は、もうボロボロになっていた。


「切れたら練習終わるなと。思いっきり投げました」と硬球でぶち破ると、後方に駐車していた高級SUV「ランドクルーザー」のフロントガラスを突き抜け大破。


「次の日になったら、ネットもガラスも直っていて…普通に練習は続きました」


と懐かしそうに笑った。


こうした練習がプロのレベルで有効とはとても思えない。しかし、それでも彼の「野球のふるさと」は、モノマネに代表される技巧とは真逆のスポ根的な世界にあるのではないだろうか?


例えば、もう一度、ひたすら体幹を鍛え抜いてみるとか。



【マダックスはまぐれではできない】


ご存知の方も多いと思うが、マダックスと言うのは投球数100未満で完封勝利を挙げることを意味しており、精密機械と呼ばれたコントロールの持ち主グレッグ・マダックス投手にちなんで名付けられた、


マダックス投手自身は生涯で13回のマダックスを達成しており、これは日米を通じて圧倒的な記録となっている。


2020年以降のマダックス達成者を見ると、ヤクルト小川泰弘、楽天早川隆久、阪神高橋遥人、日本ハム加藤貴之、ソフトバンク東浜巨と言った錚々たるメンバーが並んでいるが、その中に、


2022年4月16日 上茶谷大河


の名前がある。


今年の序盤戦、横浜スタジアムでのヤクルト戦だった。被安打5、わずか91球での堂々たるマダックス達成で挙げたシーズン序盤での2勝目だった。


そしてあの春の短い期間、上茶谷投手は紛れもなくベイスターズのエースだった。



しかし、翌週の広島戦(4月23日 マツダスタジアム)では猛打のカープ打線の前に6回途中6失点で沈んだ。


その後、復調しかけると重度の捻挫でマウンドから運び出されたり、コロナ陽性で離脱するなどを繰り返したこともあり、序盤以降はわずかに1勝。シーズン通算3勝(6敗)で終えた。




上茶谷投手は起用であるせいか、多面性がある、良い時と悪い時、様々な顔を持っているような気がする。


不器用な人が一つのことをひたむきに練習して身につけたのに比べて、器用な選手が簡単に習得した様々な技能の引き出しは時としてお互いに競合したり矛盾したりすることがあるのか?


あるいは、簡単に身につけたことは簡単に揺らいでしまうのかも知れない。


今シーズン、上茶谷投手は、「もう意図的に投球フォームを変えることはしない」と語っていた。


2年目の肘の故障の再発予防のために元々ダブルプレーンだった腕の振りを意図的にシングルプレーンに戻すことを宣言し、「子供の頃から自然に投げていたフォーム」に戻すことにしたと言う。


上腕と前腕の回転面がずれているダブルプレーンの投球フォーム(男性には珍しい「猿手」のようにも見えるが気のせいだろうか?)



自然な投げ方に戻して更にシンプルにして行けば自ずとシングルプレーンに理にかなった投げ方に収束すると言う手応えを今季得たとのこと。


彼自身、少年の頃のスポ根時代に戻って愚直に投げ込むと言う決意をしたのかも知れない。


そう考えると、三浦監督の薦める「器用さの放棄」は上茶谷投手自身にとっても望むところなのだと思う。



マダックスはまぐれではできない、という言葉がある(作者は私)。


だから、もう一度自分自身を信じて愚直に頑張れ上茶谷。


同期の大貫晋一と並んでベイスターズの右のエース二本柱になる日をいつまででも待っている。