mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

ドラフト1位公言の戦略的価値とベイスターズの賭け



10月19日 ドラフト前日




【これまでのドラフト1位公言の経緯】


各紙の報道で皆さんご存知のこととは思うが、今年のドラフト戦線は例年にない特異なものとなっている。


今日までに12球団中9球団がドラフト1位で指名する選手を公言しているのだ。


各球団による1位指名公言を報道された時系列順に並べてみよう。


9月28日 巨人 浅野翔吾 外野手 高校(高松商業)


10月10日 ソフトバンク イヒネ・イツア 内野手 高校(誉高)


10月11日 西武 蛭間拓哉 外野手 大学(早大)


10月11日 日本ハム 矢沢宏太 投手/外野手 大学(日体大)


10月13日 広島 斉藤優汰 投手 高校(苫小牧中央高)


10月14日 オリックス 曽谷龍平 投手 大学(白鷗大)


10月18日 楽天 荘司康誠 投手 大学(立大)


10月19日 中日 仲地礼亜 投手 大学(沖縄大)


10月19日 ヤクルト 吉村貢司郎 投手 社会人(東芝)




【事前にドラフト1位を公言する狙いとその効果】


そもそも、事前にドラフト1位を公言することの狙いはどこにあるのだろうか?


スポーツ紙の各記者も書いている通り、それが「意中の選手に入札する意図を持つ他の球団を牽制し、競合相手を減らす」ことにあるのは間違いない。


しかし、それが効果的な戦術となるためには、一定の条件が必要だ。


例えば、一人の圧倒的な一位指名候補選手がいて、ほぼ全球団が彼に集中するだろうという予測がある場合、そのことを事前に公言することの戦略的価値はほぼゼロである。


他のチームは「そうですよね」と思うだけだ。


12球団がこぞってこのスーパースター候補に集中した結果、当然くじ引きとなり、当然そのうちの11球団が外れ1位を指名することになる。


この時点で、この年のドラフトはスーパースター君がいなかった世界の普通のドラフトと同じとなり、競合したりしなかったりしつつ外れ1位(嫌な語感だが代わりの言葉が見当たらない)や外れ外れ1位が次々と決まっていくことになる。


1位の抽選を外した球団はその年のナンバー2以降の選手を選べるわけで、外れによる損失はそれほど大きくはない。元々スーパースター君を引き当てる確率は1割以下だったのだ。


従って、このような状況で、ある球団が彼を1位指名することを公言しても、他の球団の指名行動に及ぼす影響は限りなくゼロに近いことになる。


一方、ドラフト一位候補と目される選手が多数おり、それぞれが実力伯仲している年のドラフトで各チームがそれぞれの補強ポイントに照らしてばらばらな指名を行うと予想される場合はどうだろう?


例えば、各球団相互の読みで、12球団の1位指名が別々の10人程度にバラけるという予想が共有されていた場合、運悪く一人の選手に競合してしまった球団が抽選を外すことになると、その時点で既に10人の候補選手が1位指名されてしまっていることになる。


このため、この球団の1位指名はナンバー11以降からということになってしまう(実際には、ポジションや特性に応じて各選手は一つの物差しで順位がつけられるものではないが、ここでは話を簡単化している)。


先ほどのスーパースター君の年のドラフトとは違い、この外れのインパクトは非常に大きい。この球団は2位指名から始めるのと同じようなことになってしまうのだから。


このような状況で、比較的競合しやすいと予想される選手を1位指名したい球団にとって、競合する相手を排除するあるいは数を減らすための戦略として、1位指名の公言は有効となり得る。


この公言を受けて、同じ彼を1位指名しようと考えていた他の球団は、抽選に外れてナンバー11以降からの外れ1位指名になるリスクを取るよりは、競合を避けて(彼らにとっての)ナンバー2を指名できるように最初の球団と同じように1位指名を公言するという戦略をとる可能性が高い。


もちろん、競合覚悟で最初の球団と同じ選手を1位指名するという球団もあるだろう。


彼らは、公言を避けて当日にこの選手を1位指名するか、あるいは同じ選手の重複指名を公言することで3球団以上の競合を避けるという戦術を選択することもできる。


もし、最初の球団が全球団の評価を的確に把握しており、彼らの1位指名予定選手は多くの球団の候補でもあるものの他を圧倒するほどの評価ではなく、他の球団は彼らにとって次善の候補の1位指名を公言するという反応の連鎖が起こると予想している場合、彼らの最初の公言によってその年のナンバー1選手を競合なしに獲得できることになる。


そして、本当にこのような連鎖が起こるとすると、2番目に公言したチームはナンバー2、その次はナンバー3という具合で公言の早いものから順に優れた選手を無競争で獲得できることになる。


つまり、この場合、少なくとも一巡目について言えば、ドラフトは始まる前に終わっていることになるのだ。


上にも書いたように、この理論は各選手のポジションや特性を無視した乱暴な簡単化によるものなので、実際には12人の選手の序列が全て決まるということはないだろう。しかし、それでも、投手/野手/捕手、高卒/大社、右/左などのようにタイプ分けをしていけばそれぞれのカテゴリーの中での序列というものはある程度決まっていくのではないだろうか?




【今起きている事象を深読みすると】


今年のドラフトは、先ほどの例で言うと明らかにスーパースター君のいるケースではなく、2番目の群雄割拠のケースに該当していると考えられる。


つまり、公言の連鎖を狙った戦術が有効となり得る。


巨人は、9月28日というかなり早い段階で浅野選手の1位指名を公言している。


先ほどの理論から言うと、彼らは、「浅野選手が今年の1番人気で、競合する球団が複数あるが、それらの球団にとって浅野選手の指名は絶対的なものではなく、指名した場合に巨人と競合することが決まっているのであれば、次善の候補の指名に変更するだろう」という予測をたてていたと考えられる。


そして、ここまでのところ、その読みは当たっている(この場合もファーストペンギンと言うのだろうか?)。



巨人の仕掛けを受けて、他の球団は遅ればせながら彼らの指名行動を分析し始めた。


そして、最初に対応したのがソフトバンクだった。


彼らは恐らく本来は浅野選手の指名を考えていたのではないだろうか?


そして、巨人の仕掛けから約2週間をかけて、巨人と競合して抽選を外しナンバー11の外れ1位を狙うと言うリスクをとるよりもイヒネ・イツア選手をより高い確度で獲得すべきと言う判断をした。


この行動に促されて、西武と日本ハムもそれぞれ蛭間選手と矢沢選手の1位指名を公言した。


この間わずか2日。恐らく、巨人、ソフトバンク、西武、日本ハムは今年の候補選手と彼らの補強ポイントに照らして打てる野手の獲得を目指していたのではないだろうか(矢沢選手は二刀流だが、日本ハムの指名は野手を主眼にしたものか)?


巨人による浅野選手の指名公言のあと、それぞれが次善の候補の1位指名公言を行なって一定のリターンをより確かなものとした。


ここまでで、投手の1位指名公言は二刀流の矢沢選手を除けば含まれていない。


最初の(専任としての)投手の1位指名公言は13日の広島による斉藤選手で、この場合もオリックスによる曽谷投手の指名がその翌日に公言されている。


この2球団が初めから投手狙いだったのか、浅野選手以下の野手陣に対する公言を受けて変容したものかは不明だが、恐らく、2球団とも斉藤選手を狙っていて、広島の指名を受けてオリックスが曽谷投手を確保する行動に出たと言うところか。


そして、最後のクラスターが昨日から今日にかけての3球団だ。


ここでも、楽天の荘司投手の指名がきっかけとなって、同投手を候補に挙げていた中日とヤクルトの次善候補指名の公言と言う連鎖が起きたのではないかと考えられる。


もしこのまま無風でドラフトが終了すれば、巨人は大成功。広島と楽天もしてやったりで、他のチームもそれなりに納得した上での行動の結果として受け入れるだろう。




【残った3チームの指名候補とベイスターズの賭け】


ここまでで1位指名を公言していないのは、ベイスターズ、阪神、ロッテの3球団だが、彼らの1位指名候補は既に名前の上がっている9選手とは別にいるのだろうか?


私はその可能性は低いと思う(実際、つい先ほど阪神の畑山統括スカウトの「重複辞さず」というコメントが報道された)。もし別の選手を指名するつもりなら、それこそ公言したほうが競合を避けると言う意味で有利だ。恐らく、もはや無風の指名になるだろう。


つまり、この3球団は既に名前の上がっている9選手を競合覚悟で指名する腹を括っていると見るべきだろう。



先日のブログでも書いたが、ベイスターズの重点的な補強箇所は打てる外野手、伊藤光、嶺井、戸柱の次を担うことのできる捕手、即戦力のリリーバーだろう。


ここで注意すべき点は、1位指名を公言されている選手に捕手は含まれていないということ、そして、上に書いたように阪神とロッテの1位指名はこの9人に含まれていると見るべきだと言うことである。


つまり、ベイスターズが1位指名を公言されている9選手を敢えて重複覚悟で指名して外れた場合でも、外れ1位で大阪桐蔭の松尾捕手などを指名できる可能性が極めて高いと言うことになる(外れ1位も抽選となって外した場合でも野口、吉田という即戦力の捕手がいる)。


この保険は大きい。


公言をしなかったことによって他の球団の手の内はほぼ読めた。そして、他の球団はこちらの手の内は全く知らない(これも情報の非対称性とか言うのだろう)。


従って、今年のベイスターズは安心して賭けに出るべきだと思う。


報道によると、ベイスターズは全スカウト総出で高松商業の浅野選手の試合を視察に行っているようなので、彼が本命の一人であることは間違い無いだろう。


そうであれば、迷わず浅野選手に巨人との競合覚悟で突っ込むべきだ。外れても松尾君なら素晴らしい次善策だ。


三浦監督の右手にかけようぜ!