復活の逆転勝利 大きな挫折が力に変わることもある
話は昨日の試合に戻る。
7-3と4点リードで迎えた8回表、川越選手のファーストゴロがベースに当たってファウルゾーンを転がったアンラッキーな二塁打から始まったドラゴンズの攻撃を山﨑康晃に続いてウェンデルケンまで注ぎ込んでも止められず、7-7の同点にまで追いつかれた。
その裏、ベイスターズは牧秀悟のツーベースから山本祐大のタイムリーで再び1点勝ち越したが、9回表、クローザーの森原康平も4本のヒットを打たれて8-8の同点となり、一死満塁で降板。
最後は中川颯が田中幹也を詰まらせたもののポップフライがセカンドとショートの頭上を超えて8-9と遂に逆転された。
最終回のベイスターズの攻撃はマルティネス投手に三者連続三振に打ちとられて試合終了。
まさかの大逆転負けで久しぶりに野球というスポーツの恐ろしさを思い知らされた試合だった。
その悪夢のような試合から一夜明け、場所を神宮球場に移してスワローズとの3連戦が始まった。
昨夜粉々に打ち砕かれたベイスターズのリリーフ投手陣は、まさに自分たちの破片を急いでかき集め前に歩いて行かなくてはならない。
本当にプロ野球選手というものは、そして特に勝ちパターンと言われるリリーバーと言うのはきつい仕事だ。
だからこそ一般人とは桁違いの年俸をもらっているのだ、という人もいるだろうが、あいにく人間のメンタルの強靭さと言うものは年俸に比例して増して行くものではない。
いくら貰っていても、数万人の観衆の眼前で粉々に打ち砕かれれば大きなダメージを受けるし、その翌日に再び数万人の前で厳しい局面を迎えてマウンド上に立つと言うのは我々には想像もできないようなプレッシャーであるに違いない。
いつもより重苦しい気分で目覚めた私は、努めて夕刻からの試合のことは考えないようにしていたが、フト気がつくと彼らの心中に思いをめぐらせていた。
もし今日も僅差で終盤に向かうような展開だったら、ウェンデルケンや森原はマウンドに上がるのだろうか?
彼らが今日の試合をピシャリとしめてくれれば昨夜の逆転負けの呪いは早くも解けるだろう。
しかし、もし今日も打たれるようなことがあれば、それは今シーズンのブルペンの崩壊そしてベイスターズのペナントレースの終了を意味することになるかも知れない。
ああ嫌だ、だから野球のことは考えないようにしていたのだ。
こうした私の葛藤とは全く関わりなく、試合は定刻の18時に始まった。
怪我で昨シーズン棒に振ったため実質新人と言って良い吉野光樹投手は折りに触れてコースにピタリと決まる150キロに近い速球を投げ込むものの甘いボールもしばしば見られた。
初回は走者を出しながらも最後は宮本選手の膝元に素晴らしいストレートが決まって見逃し三振、無失点で切り抜けた。
ベイスターズ打線はヤクルト先発の高梨投手を打ちあぐね、4回までヒット一本に抑えられた。
その間、吉野投手は2回のオスナ選手の先制ソロホームラン、3回にも村上選手のタイムリーで失点し、0-2とリードを許した。
すると、5回表の攻撃で宮﨑敏郎がショート内野安打で出塁し(アウト判定がリクエストで覆された)、続く山本祐大が昨夜に続いてホームランを放った。
2-2の同点。
そして、その裏、吉野投手はスワローズの攻撃を3人で退けたが、追いついた直後の投球と守りのリズムが試合の流れをベイスターズに傾かせたように感じた。
6回表、先頭の佐野恵太はスワローズの2番手木澤投手の初球、外角に逃げて行くツーシームを引っ叩き、左方向に高々とフライを打ち上げた。
すると、打球は風にものってレフトスタンドにまで届いた。
このソロホームランでベイスターズは3-2と逆転し、5回で降板した吉野投手にプロとして最初の勝利投手の権利が発生した。
6回裏にマウンドに上がったのは昨夜は登板しなかったローワン・ウィック。
ウィック投手は先頭のサンタナ選手を2球で追い込みながら、3球目のストレートをライト前に弾き返されたが、その後、村上、宮本、オスナの中軸を三者連続三振に打ちとった。
150キロ台後半のストレートは元々威力十分だったが、このところ、大きく変化するナックルカーブでストライクをとり緩急もつける投球スタイルでストレートが生き、さらに奪三振率が上がった。
現時点ではベイスターズのブルペンで最も抑止力の高いリリーバーと言って良いように思う。
そして、7回は伊勢大夢が2本のヒットを打たれたものの後続を断ち切って無失点。
伊勢投手はストレートの球速が戻りつつあるようだが、未だ狙ったところに投げ切るコマンドが不十分で、ボール2、3個分中に入ってしまうように見えた。完全復調まではもう少し時間が必要か。
8回はウェンデルケン、9回は森原康平がそれぞれ登板し、昨日とはうって変わってパーフェクトに抑えた。
今日の森原投手はストレート、フォークに加えてスライダーを多投すると言う新たなスタイルだったが、昨夜の逆転負けの直後にしっかり切り替えられたのは彼の経験と技術のなせる技なのだろう。
昨夜の悪夢のような炎上の連鎖から彼らはどのように夜を過ごしたのだろうか?
恐らく、勝負師として元来持っている負けん気を思い出し、挫折と絶望の淵から何とか這い出したのだろう。
そして、ゲームが始まる頃には、相手は違うもののやり返してやろうと言う燃えるような闘志と冷静な眼を取り戻していたに違いない。
彼らの命懸けの復活を見て、私は「経営の神様」と言われたパナソニック創業者のこの言葉を思い返している。
こけたら、立ちなはれ 立ったら、歩きなはれ
松下幸之助
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