mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

タイトルラッシュの光と影





NPB AWARDS 2023の表彰式が昨日行われ、ベイスターズからは最多勝と最高勝率の東克樹、最多奪三振の今永昇太、首位打者の宮﨑敏郎、そして打点王と最多安打の牧秀悟が晴れの舞台に姿を見せた。


それにしても今シーズンはタイトルをとった選手が例年になく多い。


忘れないように書き出してみよう。


東克樹: 最多勝、最高勝率、JERAセリーグAWARD年間大賞、ゴールデングラブ、ベストナイン、最優秀バッテリー(山本祐大と)


今永昇太: 最多奪三振


宮﨑敏郎: 首位打者、ゴールデングラブ、ベストナイン


牧秀悟: 打点王、最多安打、ベストナイン


桑原将志: ゴールデングラブ


なんと言っても、トミージョン手術から完全復活し、16勝3敗という手術前をはるかに凌ぐ好成績をおさめた東克樹の大活躍が素晴らしい。


チームでは川村丈夫さん以来24年ぶりとなる16勝、佐々木主浩さん以来のベストナイン、そして遠藤一彦さん以来の12連勝と記録を軒並み塗り替えた年でもあった。


新人だった2018年以来の二桁勝利であり、その間の4年間は肘の故障のためにほとんど勝てていなかったことを考えれば、カムバック賞が贈られる可能性もある。



7月25日以降勝ち星のなかった今永昇太も最多奪三振のタイトルは非常に価値あるものだ。


特にMLBは日本以上に三振奪取能力を重視する傾向があるため、ポスティングでのメジャー挑戦を決めた年にこのタイトルをとることができたことでFA市場での価値をさらに高めたことだろう。


2度目の首位打者、3度目のベストナイン、2度目のゴールデングラブに輝いた宮﨑敏郎はもはやNPBを代表する名選手の1人になったと言って良い。


6年の長期契約を結んでからも決して慢心することなくストイックに野球を極め、技術にさらに磨きをかけている姿は若手の良い模範でもある。


そして牧秀悟は旋風を巻き起こしたルーキーイヤーから一度も成績を落とすことなく、徐々にレベルアップしている点が特筆に値する。


入団時から目標にしていた打点王のタイトルを獲得したことは彼自身が一番嬉しいだろうし、今シーズンは開幕前に行われたWBCでの優勝に始まり、11月のアジアプロ野球チャンピオンシップ2023の連覇まで、まさに野球漬けの一年でもあった。


しかし、このタイトルラッシュを喜んでばかりはいられない。


主力選手が好成績をおさめてくれることはファンとしても嬉しい限りなのだが、やはりチームとしてはこの点を解消しなくては優勝の二文字は見えてこないのだ。


これだけのタイトルホルダーを擁しながら、何故、優勝した阪神タイガースに12ゲームもの差をつけられてしまったのか?


私は二つの大きな理由があるように思う。



【個人成績の二極化】


先発投手陣では、前出の東克樹に加えて今永昇太とトレバー・バウアーが強力な三本柱を構成した。


東克樹  16勝3敗
今永昇太  7勝4敗
バウアー 10勝4敗


この3人の合計で33勝11敗、つまり22の貯金を作っている。


にもかかわらずチーム全体としては貯金8にとどまっている、つまりその他の投手で借金14という事実が二極化の最たるものだろう。


大貫晋一 5勝4敗
ガゼルマン3勝5敗
平良拳太郎4勝4敗


という3人の右腕は合計で12勝13敗。昨年勝ち頭だった大貫晋一が開幕前の肩の故障で出遅れたのは痛かったが、合わせて借金1というのは許容範囲だ。


石田健大 4勝9敗
濵口遥大 3勝7敗


この実績ある左腕2人が合計7勝16敗と借金9を作ったのは許容範囲ではない。


簡単に言ってしまうと、この2人の勝ち数と負け数が同程度であれば、つまり借金0であればチームの貯金は17に増えることになる。


これに加えて、抑え投手の不振も痛手だった。


山﨑康晃 3勝7敗8ホールド20セーブ
伊勢大夢 4勝6敗33ホールド2セーブ


昨年は盤石だったこの2人のリリーバーで7勝13敗の借金6も痛い。


リリーバーとしては勝敗よりもむしろ合計41ホールド、22セーブという結果を評価すべきだし、特に山﨑康晃は不運だったこともある。


しかし、である。


一流と言われる投手たちもひとの子であり、毎年大活躍出来るわけではない。


問題は、明らかに本調子ではないにも関わらず石田健大が毎週先発し、山﨑や伊勢はファームで再調整させる余裕がない、という選手層の薄さと投手陣のマネジメントの不備である。


“やられたらやり返せ”という気持ちは大事だが、それは選手たちが自らを鼓舞するためのものであり、首脳陣はそうした「気持ち」に頼ることなく客観的で科学的な選手管理をする必要がある。


野手についても二極化は明瞭だった。


セイバーメトリクスでしばしば使われるwar(打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して、選手の貢献度を表す指標)で見ると、やはりベストナインを獲得した2人が突出している。


牧秀悟  6.6
宮﨑敏郎 4.3



規定打席に到達した野手は合計5人だったが、残りの3人は以下の通り。


関根大気 2.1
桑原将志 1.2
佐野恵太 -1.6


首位打者を獲得したこともあり昨シーズンも最多安打のタイトルをとった佐野恵太のwarがマイナス、つまり走攻守トータルで見るとリーグの平均以下となってしまったのは大きな誤算だった。


佐野選手の場合は有鈎骨骨折で今オフ手術を受けたが、それ以前から彼本来のバッティングではなかったように思う。


150打席以上の野手では、大田泰示とソトのwarが微小なプラスで、京田、大和、林はマイナスだった。


期待された楠本泰史と蝦名達夫はいずれも打率1割台でありwarもマイナスだ。


今シーズン主軸として期待されたタイラー・オースティンと森敬斗はいずれも故障や手術のため、シーズンを通じた戦力としてはほとんど期待できなかった。


誤解のないように言っておくが、私は不調あるいは不在だったこれらの投手や野手のために優勝できなかった、というような戦犯探しをしているのではない。


そもそも、主力選手の一部が不調だったり故障で離脱したりというのはむしろ必ずある、と考えるべきものだ。


晴れの日ばかりではないのは当たり前のことなのだ。



【選手の調子によらず勝つための仕組みの不在】


約半年にわたってほぼ毎日真剣勝負の試合を続けるというのはかなり過酷な仕事だと思う。


そして、投手も野手も成功と失敗の境目は非常に微妙で繊細なものだ。


だからこそ、選手たちの全てが故障も大きなスランプもなくシーズンを全うすることができるなどという楽観的な考えでは優勝などはとてものことに覚束ない。


今シーズンの好不調の選手の割合、故障による離脱率を標準と考えて、それでも20以上の貯金を作ることができるだけの選手層の厚さを確保することが「選手の調子によらず勝つための仕組み」として最も重要なことだろう。


牧秀悟か宮﨑敏郎のどちらかが故障で長期離脱あるいは東克樹が不調でなかなか勝てない、と言った状況でも少なくとも勝率5割で乗り切ることのできるようなチーム編成が必要なのだ。


以前、秋山翔吾がMLBから日本に復帰した際、ベイスターズが獲得するのではないかという噂が出たことがあったが、ネット上の意見としては、これ以上外野手をとってどうするのだという声が多かった。


しかし、これは必要な無駄あるいは冗長性というものだったと私は思っている。あの時、秋山選手を獲得していれば、オースティンや神里が不在の今季にどれほど心強かったことか。


ケチケチしていては優勝などできないのだ。


俊足、強打で内外野複数のポジションを守ることの出来る度会隆輝をドラフトで獲得し、森、京田、大和、柴田、林とそろう遊撃のポジションに東洋大の石上泰輝をドラフト4位で獲得したのも球団首脳が冗長性を意識した編成を心がけている証拠だろう。


戦力外となった森唯斗ら3投手の獲得も同様だ。



そして、増収増益と今永昇太の移籍金によって資金が充実している今オフ、選手層の厚さを増すための補強はこれからまだまだ続くはずだ。


新外国人として投手2名、ホームランバッター1名は狙っていることだろう。


こうしたリスク管理に加えて、ヒットが続かなくても得点を挙げることの出来る仕組み作りも「選手の調子によらず勝つための仕組み」として欠かせない。


今シーズンは苦手投手への対応や打線が不調時に1点をとる作戦などチーム戦術で阪神や広島に大きく遅れをとったことを球団首脳も理解しているに違いない。


そこで彼らが打ち出した打開策が、データ分析に長けた靍岡賢二郎アナリストをヘッドコーチ格のオフェンスチーフコーチに昇格させ、戦術面の責任者にあてることだった。


石井琢朗コーチや鈴木尚典コーチなどは技術的な側面で選手のレベルアップに専念してもらい、作戦と実技それぞれの責任の所在を明確にすることが狙いだろう。


同様のことは、同じくアナリスト出身の大原慎司さんをチーフ投手コーチに抜擢したことにも当てはまる。


動作解析を通じた実技の向上を小谷アドバイザーの指導のもと小杉陽太コーチが担当し、投手起用やブルペンの運用については大原チーフコーチが取り仕切ることになるだろう。


もちろん、こうした取り組みが成功するか否かは来シーズンが始まってみないと分からない。


しかし、萩原統括本部長をはじめとする球団首脳が今シーズンのベイスターズの問題点を的確に把握し、それに対して積極的に手を打とうとしていることは高く評価出来る。


我々ファンとしては、この実験的な取り組みのこれからをワクワクしながら見守っていくことにしよう。