mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

度会隆輝の満塁ホームランと感情のジェットコースター





プロ野球というのは異世界だとつくづく思う。


私たちの暮らす普通の世界では、退屈な時間の中に、時折、悔しいことや腹の立つこと、悲しいこと、そしてごく稀に、ああ、生きていて良かった、と思うようなことがある。


しかし、これらは皆私たちの内面で起きていている感情の動きであり、日々の生活は、特に仕事というやつは、少なくとも表面的には何もなかったかのように淡々と過ぎて行く。


日常というのはそうあるべきものなのだ。


マウンドとバッターボックス、約18mを隔てて対峙していたピッチャーとバッターが、ほんの数秒後には天国と地獄に分かれ、打たれた投手は膝に手をついてうなだれ、打者は片手を大きく天に突き出してダイヤモンドを一周する。


その彼を見つめる数万の観衆は万雷の拍手を送るのだ。


この非情なまでに鮮烈な勝者と敗者のコントラストは、私たちの暮らす普通の世界では絶対に見られない。



私たちは、ただ、決して劇的なことの起きない日常生活の代理戦争のように、プロ野球という残酷な勝負の世界に憧れ、声援を送り、そしてしばしば当事者のように打ちひしがれて食事も喉を通らなくなる。



一昨日の雨の夜、横浜スタジアムの阪神戦で、味方打線がなんとか試合をひっくり返して作った3-1のリードを9回表に登場したクローザーが一死も取れずに台無しにしてしまった。


恐らく、山﨑康晃投手はあの夜、どこに持っていけば良いのか分からない強烈な悔しさを抱いて過ごしたのだろうし、巻き添えを食った若い徳山壮磨投手も大きな挫折感を味わったのだろう。


彼らに代理戦争を託した我々ファンも落ち込み、悔しさを噛み締めていたので、横浜市内の夜空には星も見えなかったという。


それからわずか2日後の今日、今度は正反対のことが起きた。


東克樹と戸郷翔征という2人のエースの緊迫した投げ合いは、1-1の同点のまま6回を終えていた。


そして迎えた7回表の読売の攻撃。


一死走者無しから、前の打席で東からレフトフェンス直撃のツーベースヒットを放っている2年目の萩尾選手が今度はセンター桑原将志の頭上を超えてフェンスに当たるスリーベースヒットを打った。


続く吉川尚輝も前の打席で東からヒットを打っており、今日はこの2人が最もタイミングが合っているように見えた。


吉川選手は東の初球を叩いてライト前への逆転タイムリーヒット、1-2とリードを許した。



その裏、尻上がりに調子を上げた戸郷選手は山本、度会、代打井上を三者凡退に退けてお役御免。


この後ジャイアンツは未だ無失点で10ホールドを上げている新人の西舘投手からクローザーの大勢投手へ繋ぐ継投に入るので、この時点でベイスターズの負けがかなり濃厚という情勢だった。


しかし、8回表に2人のランナーを出しながらも森唯斗投手が気迫のこもったピッチングでジャイアンツ打線を抑えると、その裏の攻撃でベイスターズがセットアッパーの西舘投手を攻め立てた。


まずはその回先頭、久々の1番センターでスタメン出場した桑原将志がセンター前ヒットで出塁し、2番石上泰輝が1球で送りバント成功。


一死二塁で打席に入った佐野恵太は2-2と追い込まれてから外角高めにやや甘く入ったストレートを逆らわずに左中間に運ぶツーベースヒット。


桑原が生還してあっという間に追いついた。


さらに、続く4番牧秀悟も2球で追い込まれてからインコースのストレートを引っ張ってレフトの頭上を越える逆転タイムリー。



3番と4番の活躍で3-2と試合をひっくり返した。


その後、二死満塁となって、この日初めて8番に打順を下げてスタメン出場の度会隆輝が打席に入る。


度会の対左腕の打率が1割を切っていることを知っているジャイアンツベンチは左の高梨投手をマウンドに送った。


バッテリーは5球続けてスライダーを選択し、度会は2回バットを振ったがその時点では全く合っていないのは明らかだった。


フルカウントからの6球目、度会は5球目までで高梨投手のスライダーの軌道に慣れてきており、しかもこのスライダーが1番甘いコースに入った。


パンチショットというのだろうか?


手首を返さずに強くぶつける感じでコンタクトすると打球はグングン伸びてライトスタンド中段に飛び込む満塁ホームランだ。DeNAになってから初めての新人の満塁弾との由。



手首を返して振り抜いてしまうと打球はフックしてしまいファールになっていたことだろう。


度会選手の技術とセンスを改めて感じさせられた打席だった。


高梨投手はベンチでうなだれ、一方の度会隆輝は一塁側スタンドを埋め尽くしたファンが総立ちで歓声を送る中、ダイヤモンドを回りながら何度か以前よりは控えめなガッツポーズを見せた。


一昨日とは打って変わった歓喜の瞬間。


私自身、毎年言っていることなのだが、ペナントレースは毎日が感情のジェットコースターだ。


9回は森原康平があっさり三者凡退に抑え、7-2で快勝。


森唯斗は移籍後初勝利を挙げた。





ホームに戻ってきた時、その後に守備につく際に深々とお辞儀をしながら声援にこたえる時、そしてお立ち台でも度会選手の目には涙があった。



ここまで数試合にわたってノーヒット。


一発サヨナラの場面で三振に倒れるなど自分に不甲斐なさに悔しさを噛みしめていたこともあった。


そして今日初めてトップバッターから外れて8番に下げられた。


緊迫した場面でも笑顔で打席に入り、凡退しても笑顔を見せたことについて賛否それぞれの意見が飛び交うなど周囲からのプレッシャーもあったことだろう。


その全てを堪えて、結果で見返してやり、ずっと声援を送ってくれていたファンたちに恩返しができた嬉しさやホッとしたような気持ち。


そうした沢山の感情が混ぜこぜになって涙になったのだろう。


いや、本当のところは私には分からない。


数万人の観衆そして数百万人の視聴者が自分の一つ一つの動きを見つめる中である日は凡退し、ある日は奇跡のような素晴らしいプレーを見せる。


その時の本人の気持ちはどんなものなのだろう?


これは、同じ経験をしたことのあるごくわずかな人間にしか本当には分からないことなのだろう。


ここまで書いて、Chemical brothersというバンドのLet forever beという歌を思い出した。


数年前に三菱地所のテレビコマーシャルで使われていたのでご存じの方もいらっしゃると思う。


あの歌詞は、ひょっとすると、度会隆輝の心のことを書いていたのではないだろうか?


“And how does it feel like

To make it happening?

大それたことをやってのけたら

どんな気分になるんだろう?


And how does it feel like

To shine on everyone?

そしてみんなを光で照らしたら

何を感じるのかな?


And how does it feel like

To be a crystalline?

その後、結晶みたいに透明な気持ちになったりして?


Scream a symphony

さあ、大きな声で交響曲を叫ぼう”




さて、プロ野球という異世界は、明日、どんなドラマを見せてくれるのだろうか?