今シーズンの三浦監督の采配を査定してみよう
今シーズンのリーグ戦が終わり、これからポストシーズンの戦いに入ると言う今の時期、143試合を振り返って監督の采配はどうだったのか検証してみようと思う。
ここで、ちょっと注意したいのは、主観的な見方や感情論ではなく、できればデータに基づいて采配の良し悪しを評価したいと言うことだ。
と言うのも、各チームのファンがそれぞれの監督の采配を手放しで褒めることは極めて稀なように思うからだ。
優勝チームについては流石に露骨な批判はないものの、それ以外の監督については賞賛よりも否定的な意見の方が多いのが常だ。
例外は監督就任直後にも関わらず思ったよりも成績が良かった場合で、今シーズンのセリーグでは広島の新井監督がこのケースに当てはまる。
ファンは皆それぞれが応援するチームの選手達が大好きなわけで、勝てばやはり贔屓の選手の貢献だと言い、負ければ有能な選手達を使いこなせなかった監督が悪い、と言う論調になるのは致し方ない。
ファンによる監督の評価が辛口になるもう一つの理由は、失敗した采配を後から弾劾するのは極めて容易く、結果論の罠にはまってしまうことが多いことにある。
と言うような前置きをした上で、我がベイスターズの三浦監督の采配について、手元にあるデータを使って他のチームの監督との比較をしてみたい。
最初から言い訳になってしまうが、こうした比較の方法としては様々なものが考えられ、そして決定打と言えるようなものはなく、それぞれが采配の良し悪しの「一面」を捉えていると言う程度のものに過ぎない。
こうしたさまざまな評価の全体として、三浦さんの采配の特徴と言えるようなものが見えてくれば良いのだが。
【結局順位が全てだ、説】
監督はチームの成績に対して責任を負うべき立場なのだから、結局順位が全てだと言う考え方。
この説を採ると、3位になったベイスターズを率いた三浦さんはセリーグで3番目の監督と言うことになる。
これはこれで一つの評価なのだが、ジャイアンツの原監督のようにチームの編成についても決定権を持つ場合はさておき、与えられた戦力で試合に臨むその他の監督についてはあまりにも単純過ぎる。
【僅差で勝って大差で負けるのがチームの運用に長けた監督だ、説】
監督の采配と言う話になると良く参照される指標に「ピタゴラス勝率」と言うものがある。
これは、ピタゴラス勝率=総得点の二乗/(総得点の二乗+総失点の二乗)がチームの勝率と良い相関関係にあることに注目したもので、実際の勝率がこの数値を上回っていると得点の割に勝ちが多く、失点の割には負けが少ない、と言うことになる。
僅差で勝って大差で負ける、言い換えれば勝つべき試合を落とさず、負け試合では悪あがきせずにブルペンを温存する、つまりリソースの運用が上手い監督がこれにあたると思う。
セリーグの各チームについてピタゴラス勝率と実際の勝率の差を計算した結果を表にまとめた。
広島の新井監督がピタゴラス勝率よりも4分以上高い勝率となり、中日の立浪監督がそれに続く。
逆にヤクルトの高津監督の勝率はピタゴラス勝率よりも6分以上低いことになる。
そう言えば、今シーズンのヤクルトの場合、勝つ時にはこれでもかと言うほど点を取り、負ける時には打線が振るわずロースコアで敗れることが多かったように思う。
この指標では、我が三浦監督の勝率はピタゴラス勝率にかなり近く、可もなく不可もないと言えるだろう。
しかし、失礼な言い方だが、優勝した阪神の岡田監督よりも最下位の立浪監督が優っていると言う結果はどうも釈然としない。
と言うのも、この指標はチームカラー、つまり打線が強みのチームか投手力が強みのチームか、によって大きく影響されるため、監督の運用とは言い切れない側面が強いためだ。
【そもそも得点が多く失点が少ないのが良い監督ではないのか、説】
ピタゴラス勝率との差で評価すると言うのは、チームの総得点と総失点は決まっていると言う前提のもとにその中でどうやって勝ちを増やし負けを減らすかと言うことに着目することになる。
しかし、そもそも、良い監督と言うのは得点を増やして失点を減らせる監督のことなのではないかと言う指摘も当然ながらある。
さて、それでは得点や失点に強い影響を持つ選手の実力と切り離してどうやって監督の手腕を評価することができるだろうか?
おそらく最も良い方法はチームのOPSに注目することだろう。
OPS = 出塁率+長打率は野手の得点への貢献についての最も良い指標の一つとされており、従って、チーム全体のOPSは総得点と強い相関関係を持っている。
つまり、チーム全体のOPSから予想される得点よりも実際の得点が多ければ、それは監督の戦術が優れており選手たちの実力以上に得点を取ることができていると理解して良さそうだ。
次の表をご覧いただきたい。
チーム全体のOPSから予想される得点と実際の得点の差は阪神が+43、読売が-58と言うかなり異なる傾向がでている。
定義から明らかな通り、OPSには盗塁や走塁、犠打や進塁打などは含まれないため、こうした戦術を駆使する岡田監督はOPSに基づく予想よりも大きなプラスを記録した。
一方、強打者を並べて長打に期待する原さんは0.7を超えるリーグ随一のOPSから予想されるほどには得点が伸びずに大きなマイナスになってしまったと言う解釈もあながち間違いではないだろう。
さて、我が三浦監督はと言うと、ここでも、ほぼOPSからの予想通りに得点していることが分かる。
つまり、一部のファンが言うようにこれほどの打線を持ちながら得点できないのは采配のせいだ、と言う批判は必ずしも当たらないように思う(それを言うなら原さんに対してだろう、というのは言い過ぎだろうか?)。
同じことはチーム全体の被OPS(各投手が相手打者に許した出塁率と長打率の和)と失点についても当てはまる。
つまり、チーム全体の被OPSから予想される失点よりも実際の失点が少なければ、継投の時期やリリーフ投手の起用などが上手い監督という事になる。
この表の通り、ここでは、ヤクルトの高津監督が0.7を超えるかなり高い被OPSの割には失点を抑えており、それに続いて我がベイスターズの三浦監督も健闘していると言う結果が出ている。
この二人の監督とも投手出身であることも関係するのだろうか?
ともかく、三浦さんの継投が不味いので沢山負けた、と言う批判はこの指標を見る限りは妥当とは言えないようだ。
ただし、この表全体として、被OPSの高いチームが実際の失点が予想より少なく、逆に被OPSの低いチームは実際の失点が予想より多いと言う傾向があるので、指標自体の妥当性も今後考え直す余地があるかも知れない。
【リードされても諦めずに終盤で逆転できる監督が勝負強い監督だ、説】
逆転勝ちが多く、逆転負けの少ない監督は「勝負強い」と言う印象になると思う。
代打や代走の起用など終盤で得点するための引き出しを多く持っていて、同時に、勝ちパターンの継投を確立しているチームを構築できた監督がこれにあたる。
下の表をご覧いただきたい。
皆さんの印象どおり、阪神の岡田監督はリーグ最多の32回の逆転勝ちをものにした一方で、逆転負けは中日の20回(ライデル・マルティネスはやっぱり凄いね)に次いで少ない21回となっている。
逆にヤクルトの高津監督はリーグ最多37回の逆転負けを喫し、最小の19回の逆転勝ちしかできなかった。
先制した試合の勝率がリーグで唯一6割を切り、先制された試合でひっくり返せたのはわずか2割と言う成績であり、前者についてはクローザーのマクガフ投手退団後に勝ちパターンが一枚足りなくなったことが大きな理由だと思う。
しかしこれは采配と言うよりはチーム編成上の弱点と言って良いだろう。
我が三浦監督はリーグ2位タイとなる28回の逆転勝ちに対して逆転負けは同3位の24回であり、比較的良好と言って良い。
ファンによる戦評では、監督の采配で落とした試合が多かったと言うことになっているようで、それはまあそうなのだろうが、他のチームも同様であり、比べてみればむしろ良い方だと言うことなのではないか。
先制した試合の勝率も先制された試合の勝率も他のチームに比べると良いと言える。
ただ少し気になるのは、先制する確率が5割を切っており、最下位の中日に次いで下から2番目だと言うことだ。
考えられる理由としては、シーズンを通じて一、二番の選手を固定することができず、他チームよりも先制攻撃と言う面で物足りなかったと言うこと、あるいは、ゾーンで勝負するチームオーダーの下、先発投手の制球が立ち上がりに甘くなり失点するケースが多かったと言うことだろう。
先制する確率を5割台後半にまで高めることにチームとして取り組むことが来季の重要な課題になるのではないだろうか?
こうして様々な側面から今季の三浦監督の采配を査定してみると、やはり一部のファンの批判は辛口に過ぎるもので、セリーグの他の監督と比較してはっきり劣っているような点は全く無いと言って良いように思う。
しかし、同時に、はっきりとした長所が無いのも事実であり、やはり優勝を目指す上では物足りないと言う評価が妥当にも思える。
現状のままではAクラス争いをする監督、と言うことか。
チームの特徴に合った明確なストロングポイントをどうやって打ち出していくか、が監督4年目となる三浦さんの来季の重い宿題になる。
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