mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

トレバー・バウアーの記者会見を深読みする





去る10月16日月曜日に横須賀にあるDeNAの球団施設Dockにおいてトレバー・バウアーが記者会見を開いた。


主題は彼が来季所属する球団の条件などについて。


この会見以前から、性暴力に関する件が和解金等を支払うことなく不起訴となり、彼の無実が法的に立証されたことを受け、MLBへの復帰の道が開けたと言う趣旨の報道や書き込みが多く見られた。


一方では、投球時の粘着性物質使用に関する紛争等で彼とMLB上層部との間には埋め難い溝があり、本件が決着したからと言って直ちにMLBのチームが彼にオファーを出すとは限らないと言う識者の言葉も伝えられている。


彼の今季の年俸は契約途中で彼を放出したドジャースから30億円、ベイスターズから4億円プラス出来高ということだが、このうちドジャース分は来季以降ゼロとなるため、彼の所属する球団が全額を負担する必要がある。


NPBに残ってベイスターズあるいは他の球団に所属する場合でも年俸10億円程度は必要なのではないか、と言うのがこれまた識者の見解である。


シーズン途中から彼が言っていた通り、日本、韓国、米国のどこでプレイしているかは全く分からないと言うのが現状だと思う。


私は、彼がこのタイミングで記者会見という手段で来季所属球団の条件を公表したことに大いに興味があり、その点に注目して彼が何を考えているのかを理解しようと試みた。


野球に対する深い愛情を持ち賢い彼のことだから、この会見についても背後にしっかりと検討された戦略があってのことだと思うのだ。



【誰に伝えたかったのか】


来季の所属球団に彼が求める条件と言うのはまさに契約に関する事項であり、本来は彼を獲得しようとする各球団の編成担当者と共有すべきものだ。


しかし、そうであれば今後の交渉を通じてそれぞれの球団に伝えれば良い訳で、あえて記者会見と言う手段を使う必要はない。


強いて挙げれば、同じことを各球団に伝える手間を省く、NPBのみならずMLBや韓国の球団にも伝えられることを狙う、と言うことが考えられる。


このうち、各球団とのコミュニケーションの手間を省くため、と言うのはそもそも代理人の仕事でありちょっと考えにくい。なんだったら同じ内容の書類を送付するのでも良いではないか。


MLBや韓国の球団も同じことで、他の選手と同様に、公表せずに可能性のある球団に代理人が様々な方法でコンタクトすることができる。


こうして考えてみると、やはりバウアー選手の狙いは、本来は各球団と共有すれば良い彼の要求を一般の人々と広く共有することだったのだろう。



恐らくは、来季の所属球団の選定プロセスの透明性を高め、結果的に彼がどこに所属することになろうとも、どう言った基準や価値観で彼がその意思決定を行ったのかを我々が理解できるような仕組みを作ることが狙いなのだと思われる。


もう一つ考えるべきことは、彼のこの狙いは彼自身のYouTubeチャンネルを通じても実行可能だと言うことだ。


毎週定期的にアップしている彼自身の動画でこの内容を伝えることは簡単であるにもかかわらず、そうしなかったのは何故だろうか?


これまでの彼のパブリックリレーションのあり方を振り返ってみると、内容と対象に応じて情報を伝える手段を区別しているように思う。


彼自身の興味があるコンテンツを彼自身のファンと共有する場合はYouTube、彼のファンと言ういわば内輪にとどまらず広く社会に発信したい内容は記者会見を通じて、と言うように。


そう考えると、彼は「来季の所属球団の選定基準や価値観」を彼のファンに加えてNPBやMLB等のファン全体(ここには彼に対するアンチの人々も含まれる(特に米国))、さらには社会全体に向けて伝えたかったのだろうと思う。


さらに深読みすると、何故Dockだったのか、も気になる。


他球団も対象になる話なので、彼自身が各紙に連絡して第三者的な場所を用意することもできるはずだ。


もし彼がそうしていたらどのように受け止められただろうか?


我々は、バウアー選手はもうベイスターズには所属していないと感じたことだろう。恐らくは退団することを前提に新たな所属先を探すプロセスを始めたと解釈していたことと思う。


しかし、彼はそうはしなかった。


今後の各球団のオファーがどうなるかは全く分からないが、DeNA所属選手として、ベイスターズに残留すると言う可能性を持ちつつ、幅広く可能性を探ると言うのが現在のスタンスだろう。



【何を伝えたのか】


記者会見で彼が語った「来季の所属球団に求めること」は以下の三つ。


(1) 優勝を狙えるチームであること


(2) 彼自身が個人タイトルを狙うことに協力してくれること


(3) 彼のプレイを多くのファンが楽しんでくれる環境があること


いずれも彼が日頃から口にしていることであり、特に違和感はない。


(1)に関して言うと、常勝軍団を求めているのではなく、優勝争いに参加する確率が高い球団であることに注意すべきだ。つまり、NPBで言うと阪神やオリックスだけが候補ではなく、彼らのライバルになる球団はこれに該当することになる。


(2)は彼の中4日(あるいは3日)の投球間隔を認めてくれる球団ということを意味する。


これは実は簡単なことではなく、先発ローテーション全体を彼を軸として組み立て、他の投手は週によって中7日になったり登板機会を飛ばすと言ったスケジューリングを行うことが必要になる。


もちろん、その見返りとして、その球団は頼りになるイニングイーターを手に入れることができるわけだが、そもそも、先発ローテーションが充実しているチームはイニングイーター自体不要な訳で、そうなると阪神やオリックスはちょっと考えにくくなるように思う。


言い換えれば、(1)と(2)の条件を両立させることのできる球団は、先発ローテーションが充足していないにも関わらず優勝争いを演じることのできるチームということになるので、NPBで言うとソフトバンク、DeNA、読売あたりに絞られるように思う。


世間ではソフトバンク有利という声もあるが、ソフトバンクは(2)を受けれるのが容易ではないと言う「球団関係者」のコメントも伝えられている。


読売は既にメンデス投手とグリフィン投手という左腕外国人2人の残留を既定路線にしていると伝えられており、外国人選手枠の問題も考えた上でバウアー選手を軸にした先発ローテーションを組むということになるので、彼らを投げ抹消のような使い方で起用し、さらに外国人打者や外国人リリーバーにも制約をかけることが必要になるのでさらに難度が高い。


一方のDeNAは交流戦あたりからバウアー選手を中4日で回すことを前提とした先発ローテーションを組んでおり、(2)に関しては実績がある。この点は大きなアドバンテージと言って良いだろう。


(3)は人気球団であることに加えて、ベンチやロッカーまで彼が撮影することを許可すると言う条件も含まれているだろう。この点もベイスターズは問題ないが、試合映像の使用に関してはパリーグの方が融通が効きそうだ。



さて、彼が会見で挙げた三つの条件と並んで、彼が挙げなかったことにも注目する必要がある。


具体的には、金額や動作解析等の設備だ。


このうち動作解析やデータ分析については自前の機器とスタッフで十分に対応できるために条件とはしなかったと語っている。


また、金額についてはMLBとNPBの間で差があることを考慮して挙げなかったとする記事もあった。


少し穿った考えかもしれないが、最終的に所属球団が決まった時点で、結局はお金の問題だったんでしょ、と言うありがちな批判に対して先手を打ったと言う面もあるだろう。


こうして三つの条件を公表した以上は、これらが満足される球団であることを大前提として、その中で金銭面も含めて総合的に判断したと言う説明をするだろうし、彼は実際にそうやって決めるだろうと思う。



【彼が期待する効果は何か】


冒頭に述べたように、今回の記者会見はバウアー選手が自発的に行った戦略的なコミュニケーションであり、必ずその目的がある。


最後にその目的について考えられることを書き出してみよう。


(ベイスターズに対して期待する効果)


ベイスターズについては、(2)と(3)の条件を満足できることが実績として示されている。


争点になるのは(1)の優勝を狙えるチームというところだと思うが、実は彼がこの会見をベイスターズのCS敗退直後、来季に向けての体制刷新の時期に行ったことは、公の場を借りてチームの課題に本腰で取り組むことを球団フロントに求めた、という意味合いが強いように思う。


実際、投手コーチ、オフェンスコーチともにデータアナリスト達と緊密に連携して定量的な裏付けのある作戦を現場に伝えることのできる小杉コーチや大原コーチあるいはつる岡コーチなどの昇進が既に報じられている。


こうした動きから見ても今回の会見でバウアー選手がベイスターズに期待した効果は、個人成績が優れているにも関わらず勝利に繋げられなかった首脳陣へのフロントの本気のテコ入れ及び編成上のアンバランスの是正であり、それは既に発揮されつつあるように思う。


ところで、ベイスターズの関係者は彼が今回語った三つの条件を我々同様16日に初めて聞いたのだろうか?自前の施設Dockを使って行うのに?


それは考えにくい。


彼らは事前にこの3箇条を聞いて、既に動き初めていたと考えるべきだ。


また、会見後、バウアー選手の残留のために南場オーナーのSNSに多くのファンが直訴するメールを送っているらしい。この面でも彼の狙いは効力を発揮しつつある。



(2) NPBの他の球団に対して期待する効果


端的に言えば、お金だけではない、と言うこと。


特に(2)に関しては、他の投手や外国人選手への波及効果をもつこの条項を受け入れられるように球団内のコンセンサスを取り付けてから話を持って行かなくてはならないと各球団担当者が認識することが彼の期待する効果だと思う。


そして、(2)が容易ではないというソフトバンクの「球団関係者」のコメントなどは、それが本当だとすれば、バウアー選手の期待する方向で推移しているように思われる。


(3)MLBの各球団に対して期待する効果


金額を条件として挙げなかった大きな理由は、資金力の差でNPB以上の金額を提示すれば喜んで米国に戻ってくるという訳ではないことを知らしめたかったからだろう。


(1)の条件がある限り、MLBの弱小球団がお金を積んでもダメということになる。


バウアー選手自身はMLBで再び活躍したいという気持ちは勿論あると思うが、MLBでさえあればシッポを振って戻ってくるということはない、と明確にすることで彼のプライドを示したかったのだろうと思う。



以上を総合的に考えてみると、


・彼の今回の提言を受けて首脳陣や選手の補強に球団が本気でテコ入れして名実ともに優勝を狙えるチームにする


・バウアー選手が満足できる最低限の資金を確保する


と言う二つのハードルがクリア出来れば、彼の来季の所属先として我がベイスターズが最も有力だ、と私は結論づけたい。


これが単なる身贔屓な主張かどうかはいずれ明らかになるだろう。