DeNAベイスターズは今どこに向かおうとしているのか?(中編)
前回の記事で、横浜DeNAベイスターズという球団が大きく変わろうとしていること、そしてそれを強力に推し進めているのが南場オーナーの指揮のもと実務に携わる萩原統括本部長たち経営陣だと思われることを書いた。
これまでの12年間に蓄積した経験や知識に基づき、現経営陣は当初、全くの素人であったプロ野球チームというコンテンツの良否を数値化し、目標を立てて課題を明確にしつつ改善していく、という通常の企業活動としてのチーム運営を主体的に行なっていく自信ができたことがその理由の一つだろう。
そして、それを支える原動力となっているのが資金の充実だと思う。
【進化のためのリソース】
先日、横浜スタジアムにおける主催試合の観客動員数が公表され、ウィング席の増設によるキャパシティの増大に加えコロナ禍の終焉もあり、今シーズンは過去最高を記録したことが明らかとなった。
当然、DeNAのスポーツ部門の収益も上がっており、第2四半期決算は売上収益39%増の110億円、セグメント利益が100%増の40億円(第1、第2四半期の合計は74億円)であった。
DeNAのスポーツ部門というのは今のところ実質ベイスターズそのものであり、プロ野球がシーズンオフとなる第3、第4四半期は赤字が予想されるため(昨年の実績は46億円の赤字)、年間の利益は圧縮されるだろうが、それでもかなり良い数字である。
今永昇太のポスティングにより10億円超と言われる譲渡金が入った場合、それは収益としてカウントされるのだろうか?
だとすると、年度後半の赤字も減少するはずだ。この場合、2023年度の最終利益はおよそ40億円というところになる。
この資金の一部は留保あるいはコロナ禍での赤字の穴埋めに使うにしても、大半は悲願の優勝に向けて優秀な選手やコーチを獲得するなどの投資に回すのだろう。
横浜スタジアムの買収と拡張、横須賀のファーム施設Dockの建設などインフラへの投資は既にほぼ完了しているのだ。
優勝を狙えるという下馬票があり期待が膨らんだ今シーズンを3位で終えた今、今永昇太が渡米しバウアーや石田も居ないかも知れない来シーズンは育成に舵を切って雌伏の年とする、などということはファンが許さないだろう。
人気先行で実力が伴わずファンが去って行くという状況をDeNA経営陣は最も恐れているはずだ。従って、彼らは持てる資金を積極的に補強に回すに違いない。
余談だが、DeNAが数年前に東芝から買収したBリーグの川崎ブレイブサンダースもコロナ禍から脱してようやく黒字に転じた。
Bリーグのシーズンは10月から5月であり、プロ野球のシーズンオフにほぼピッタリとはまる。
ブレイブサンダースの収益が安定してくれば、DeNAのスポーツ部門全体として第3、第4四半期のベイスターズ分の赤字を一部補填してくれることが期待できる。
DeNAの企業戦略はしっかりと考えられているようだ。
【経営陣主導の本気の補強とは】
ファンの間でも2024年シーズンからしばらくの間は育成に舵を切った我慢の年になるだろうという声がしばしば聞かれる。
しかし、上に書いた資金面の充実を考えれば、育成と補強はもはや二者択一の問題ではなく、同時に進めて行くことが可能だ。
しかし、資金が充実したからと言って、ベイスターズがいわゆる金満球団のように振る舞うことは無いだろう。
現在のチーム力を分析して課題を明確にし、それぞれに適切なリソースを配分して全体としてバランスの取れた補強を目指すに違いない。
補強の全てが金銭を必要とするわけではなく、逆に言えば、金をかけても改善のおぼつかないこともある。
誰から頼まれた訳でも無いが、現在のベイスターズが抱える課題を分析してみると、次のような補強ポイントが見えてきた。
(1) ローテーションの3番手、4番手となる先発投手
今永昇太の移籍がほぼ確実でトレバー・バウアーの去就が不透明であることから、来季の先発ローテーションである程度確実に見込めそうなのは、東克樹と大貫晋一という左右の柱だろう。
大貫は春先の肩の故障からなかなか状態が上がらなかったが、シーズン終盤には自身初の完封をマダックスで達成するなど本来の力を見せていた。
一昨日の契約更改時のインタビューでも来季にかける覚悟が明らかであり、期待できそうだ。
東克樹については今年の大活躍の反動を懸念する声もあるが、彼のピッチングは対戦相手の対策や調子の波による影響を考慮してもある程度安定したレベルを期待して良いと思う。
この2人に続く投手としては平良拳太郎とハマちゃんの名前が挙がるところだが、彼らに関しては正直言って蓋を開けてみないと分からないところがある。
そこで、球団の編成もこの点を補強ポイントと捉えて資金を投入しようとしている。
一人目はオリックスからFA宣言した山﨑福也投手。
今期自身初となる二桁勝利を挙げた左腕で打力も評価が高いことからセリーグへの移籍を検討しているという。
埼玉出身で日大三高から明治大学を経てオリックス入りした彼が在京球団を希望することは十分に考えられる。
4年8億以上という金額はやや割高感があるものの、ヤクルト等の提示を受けてDeNAはさらに金額を上げたという情報もあり、どうも珍しくマネーゲームを本気で戦っているようだ。
ソフトバンクや読売も参戦という情報もあり、流石に金銭面だけでは旗色が悪いが、オリックスから入来コーチが復帰することやDeNA得意のクリエイティブな提案(登板日以外も右の代打でベンチ入りし、ヒット数に応じて出来高払いなど)で引き寄せて欲しい。
もう1人はMLBのピッツバーグパイレーツから今オフにリリースされたウィル・クロウ投手。
フォーシームの最速は156km/h、高速のスウィーパーが得意の先発投手で28歳という年齢からも期待が持てそうだ。こちらも獲得報道は未だ出ていないが期待して待つこととしよう。
バウアー投手がNPBにとどまると言う選択をした場合の年俸12億円のうち今シーズンとの差額8億円、山﨑福也投手とクロウ投手に各2億円として合計12億円(2024単年)をここに投資しよう。
(2) セットアッパーとクローザー
7年間にわたってベイスターズのブルペンを黙って支えてくれたエドウィン・エスコバーの退団が濃厚であることは寂しい限りだが、彼自身がSNSで語っていたように新たなページを開く決心をしたのであれば、感謝しつつ送り出したい。
今季は山﨑康晃、三嶋一輝といったベテランが精彩を欠き(三嶋は手術明けなので無理させられないという意味合いが強かったかも知れないが)、昨年活躍した伊勢大夢と入江大生もシーズンを通して状態が上がらなかった。
その代わりに、上茶谷大河がスクランブルで登板し、森原康平とジェフリー・ウェンデルケンが8回、9回を担当して勝ちパターンの核となったが、圧倒的と言える成績とまではいかなかった。
昨シーズン後半に台頭してきた石川達也、宮城滝汰に加えて、ファームでは徳山壮磨の成長も見られることから、全体として見れば今年よりは層が厚く、ある程度のレベルでブルペンを運用して行くことが出来そうだ。
しかし、近年のNPBでは、優勝チームは例外なく終盤に圧倒的な力を持つリリーバー達を多く抱えており、上述した陣容では未だ物足りない。
ドラフト2位で名城大の右サイドスロー投手、松本凌人を獲得したのにはこうした背景があってのことだろう。
読売の大勢投手の例を見ればわかる通り、力のある真っ直ぐを投げる変則的なサイドスロー投手というのは成功する確率がかなり高いのでは無いかと思う。
私は来シーズンの比較的早い時期から彼が勝負どころで右の強打者と対戦することを夢想している。
読売の岡本、坂本、阪神の大山、森下、中日の細川、ビシエド、ヤクルトの山田哲人など、松本投手のタイミングの取りづらいフォームから繰り出される最速153km/hのストレートやシンカーで勝負する姿を見るのが楽しみだ。
加えて、ソフトバンクから森唯斗、オリックスから中川颯を獲得した点も補強ポイントとして合致していると思う。
いずれも戦力外とはなったものの、所属チームの編成上の理由ということであり、まだまだ通用する力がありそうだ。
先発転向が成功したとは言えなかった森投手だが、リリーフに回ればストレートの球速も上がるだろうし、何といっても数多くの修羅場を切り抜けてきた経験値と胆力を考えれば、ブルペンの精神的支柱としても期待できるのではないか。
中川投手は希少種となったアンダースローの投手であり、このところベイスターズに欠けていた右の強打者に対するワンポイントでの登板のような形でブルペンの幅を広げてくれそうだ。
ここまでの補強を資金面で見ると森投手の年俸5000万円
が目立つ程度で、ドラフトと育成で賄っている印象だ。
と言うことは、ここでも積極的な投資の可能性があるのではないか?
何だか金勘定ばかりしているようで気が引けるが、エスコバー投手の退団が濃厚と言うことであれば、彼の年俸2億6000万円が浮くことになるので、円安とは言えそこそこ勝負できるだろう。
今オフから編成に移って米国の選手たちも担当する斉藤隆さんはMLBでもフロント入りしていた経験があり、的確にNPBにフィットするリリーバーを連れて来てくれそうな気がする。
さて、ここまで投手陣だけ書いたところで予想以上の分量となってしまった。
この記事は中編ということにさせていただき、次は野手編を改めて別記事でまとめることにしよう。
乞うご期待。
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