DeNAベイスターズは今どこに向かおうとしているのか?(前編)
進化論で有名なチャールズ・ダーウィンの言葉に次のようなものがある。
“It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent that survives. It is the one that is most adaptable to change.”
“最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもない。生き残るのは、変化する者である。”
現在のNPBに当てはめてみると、
“良い選手を集めた強いチームが優勝するのではなく、作戦面で最も優れているチームが優勝するのでもない。優勝するのは進化するチームである。”
とでもなるだろうか。
少し強引すぎるのではないか、と仰るのもわかります。
しかし、野球の質が急速に変わっていると言われている昨今のNPBでは、上の一文は真実の一面を言い当てているような気もする。
なぜこんなことを書くかと言うと、今シーズンの日程が終了して以来、三浦監督をはじめとする現場のコーチや選手たち、そしてフロントのトップである萩原統括本部長など全員がチームの変化あるいは進化を渇望するような発言を残していることに私は注目しているのだ。
そこで、“DeNAベイスターズは今どこに向かおうとしているのか?”と言うタイトルで2回に分けてこれから起きようとしている変化を様々な視点からまとめてみようと思う。
【2度目の”変わらなくちゃいけない”】
上述した三浦監督のコメントは実際には以下のようなものだ。
“来季に向けていろいろ考えている中でね、いろいろあります。(課題は)一個じゃないです”
“来季に向けてチームとして同じことはできないとしても、うちのところでいろいろ改善していかないといけないところもありますし、変えていかないといけないところもある。自分自身も変えていかないといけないし、いろんなものを変えていかないといけない”
“今のままじゃいけないから、それしかないですよ。全員が思ってるんじゃないですか、全員が思わないと駄目ですよ”
実はこの手のことを彼が口にするのは初めてのことではない。
新たに監督に就任した2021年2月、4位に終わった前年の成績を踏まえての展望として次のような発言がある。
”変わらなきゃ強くならない。(スローガンが)横浜一心ということで、心を1つにするために。
今のまま1つになるのでなく、1つになるために自分がどう変わらないといけないのか。1人ひとりが考えて取り組んでもらいたい。
それは自分もそう。自分自身も変わらないといけない。全員が変わらないと強くならないと思っています”
この時三浦さんは「意識改革」を強く押し出して指揮を執ったが、皆さんご承知の通り、結果は最下位。コロナのために外国人選手の合流が12球団で最も遅れたという事情はあったにしても、新人監督として高い授業料を払った年だった。
来年のベイスターズは2021年と同じ轍を踏んでしまうのだろうか?
そうはならないだろうと言うのが私の見立てで、その根拠を以下に書いてみます。
鍵の一つは今年の三浦さんの「変わらなくちゃ」のコメントにあるこの部分。
“来季に向けてチームとして同じことはできないとしても、うちのところでいろいろ改善していかないといけないところもありますし、変えていかないといけないところもある。”
恐らくこの前後に記者とのやりとりがあってのことなので、この文章は単独で読むと意味がよくわからない。
私なりに補完すると、彼は次のようなことを言いたかったのではないだろうか。
“来季に向けてチームとして(優勝した阪神と)同じこと(を目指すのではなく)、(ベイスターズ独自のやり方で)いろいろ改善していかないといけないところもありますし、変えていかないといけないところもある。”
もしこれが発言の趣旨だとすると、優勝した阪神の後追いはしない、と言う点がまず評価できる。
そして、これは私の身びいきな解釈かも知れないが、「改善すべき点」や「変えていかいといけないところ」はすでに分析できており、さらにそのための施策も具体化されているように感じるのだ。
2021年とは違って今回の「変わらなくちゃ」発言に期待する点は、三浦さんの感覚的な判断ではなく、経営陣やアナリストたちの客観的かつ定量的な分析に基づいて組織としての戦略という裏付けがあると思われることだ。
【シビリアンコントロールを目指すクーデター】
チームを変える必要性についての萩原統括本部長のコメント。
“23年の(シーズン前の)全体ミーティングで、我々全員で優勝すると決めてみようと。そこで何が起こるかを1年間確かめた結果、(DeNA創設以降の)12シーズンで良いチームになってはきたが、優勝するならこのままの延長線上に(優勝は)ないなと判断している”
私は萩原さんのこの言葉にチームの構造を逆転させてしまうほどの強い覚悟が込められているように感じるのだ。
思い返してみると、DeNAがベイスターズを買収した12年前、当時のDeNAは球団経営について何らノウハウや経験を持ち合わせていなかった。
何をどうしたら良いのかも全くわからないので、リーグに参画する際のオーナー会議でサポートしてくださったカープの松田オーナーのご厚意で球団職員が広島に行ってインターンシップのような研修を行わせてもらったそうだ。
一方この頃はNPBで選手としても指導者としても長年にわたって活躍された高田繁さんがベイスターズのGMを務めており、プロ野球の球団のマネージメントという意味では高田さんをはじめとする”野球のプロ”たちが主体だったことが容易に想像できる。
上述した萩原さんの言葉は「12シーズンで良いチームになってはきた」という箇所で”野球のプロ”たちが主体だった過去の12年間を完全に否定することは避けつつも、「このままの延長線上に(優勝は)ないなと判断している」のである。
つまり、彼のこの発言は、球場の買収や回収、企画やイベントといったことだけではなく、選手の育成・コーチングそして戦術といったベイスターズの野球そのものに関しても萩原さんたち組織人が中心となり企業の経営戦略のように客観的・定量的に決めていくことを決心したことを意味しているのではないだろうか。
彼の発言をこのように解釈すると色々なことが腑に落ちてくる。
上記と同じインタビューで萩原さんは、三浦大輔監督就任4年目を迎える来季コーチ陣の役職を、攻撃面、守備面で細分化させたこと、そしてのその理由も説明している。
“オフェンスとディフェンスでしっかりと責任をわけようと。それぞれの分野で、一定の基準にたる野球をしようと。ディフェンスは投手以外に野手も基準をもって取り組む。責任も曖昧にならないようにそれぞれにチーフもつけている。最後の責任、合議したさいの最終判断を受けて、それを監督がとりまとめて意思決定する。そう役割を明確にした”
野球チームを現場の「野球のプロ達」が運営していくのはマネジメントだが、現場の外の利害関係者である球団経営陣が「野球のプロ達」を統治して組織全体の目的を達成させようとすることはガバナンスというべきだろう。
萩原さん達はDeNA本体と同様に、コーチ、チーフコーチ、そして監督のそれぞれについて職権を明確にすることで「良い組織」として機能するように強権を発動する、大袈裟に言えばシビリアンコントロールのクーデターを起こしたのだと思う。
アナリスト出身でチームや選手達のプレイを数値化し可視化することに長けた若いコーチ達はガバナンスしやすく、彼らが重責を担うことになったのもこのクーデターの当然の帰結だろう。
靍岡賢二郎氏がオフェンスチーフコーチに、大原慎司氏がチーフ投手コーチに就任した人事は球界全体で噂になっているが、その背景としては上記のクーデターの成否が今後のプロ野球チームの在り方に影響を及ぼしていくという認識があってのことだと思う。
大原新チーフコーチの今日のコメント。
“データも分かるし、経験も選手のときにあるので、そこをミックスさせて直感的な指導にならないように選手に落とし込んでいきたい”
“最近でいえば、左対左だから(左投手を)出すというのが理にかなっていないことが結構多かったりして、右投手で左打者を抑えるのが得意な選手もいるので、そういうデータから見えることもうまくミックスさせた起用になれば(勝敗の)偏りを解消できるのではないかというのは頭にある”
“野球全体の粗さも取り除いていきたい。投球以外でも隙があった。UZR(複合的な守備指標)は12球団最下位で、大体1試合分落とすくらいの数値が出ていた。それがしっかりできていれば1試合拾えた裏返しでもあるので、基礎的な部分をしっかりやっていきましょうというのはキャンプから言っていこうと思う”
一つ一つの課題に数値的な指標を設けて評価し、定量的な目標を立てて取り組んでいく。
そうした企業と同様の効率的な方法でチームの進化を進める上で、大原チーフコーチや靍岡チーフコーチへの期待は極めて大きい。
このクーデターがチームにどのような変化をもたらしてくれるのか、来年それを見ることが私には楽しみでならない。
次回の記事では、選手達の育成や補強といった視点でこのクーデターがどのように進行しつつあるのかを見ていきたいと思う。
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