私は今永昇太のMLBでの活躍を確信している
以前から既定路線だとは言われていたが、今オフに今永昇太がポスティングでMLBに挑戦することが今日正式に発表された。
DeNAの萩原統括本部長はポスティングを容認した理由として次の2点を挙げている。
“戦力として、エースとしていてくれたことも、選手会長としてまとめる役割もそうだが、歴代の中でも非常に大きい貢献をしてくれた選手でもある”
“本人の夢を叶えたいという気持ちと、それに足る実力があると判断した。判断したからには夢を応援してあげたいということはずっと言ってきていること”
私の所には誰も取材に来ないが、私も萩原さんと全く同じ考えだ。
今永昇太の実力を評価し、彼のピッチングを愛しているからこそ、ベイスターズに囲い込んでしまうようなことはせず、彼の夢を叶えてMLBと言う世界最高の舞台で世界最高の打者達と対戦することに挑戦して欲しい。
今永投手自身、NPBでの活躍を目標とするのではなく、MLBで先発ローテーションを任される投手になることをゴールに設定してキャリア設計をして来たのだろう。
先日上梓された“今永昇太のピッチングバイブル”を早速購入して読んでみたが、我々ファンというよりはこれから高い次元で投手として成長して行くことを目指す若い選手達に向けた極めて実践的な内容だった。
ピッチングバイブルのシリーズ自体はこれまでにも千賀投手や山岡投手など数人の選手について刊行されており、今永昇太のものもそのシリーズの一つと言うことになる。
投げる哲学者と言われ、ピッチングに関する全ての要素を明晰に考え続けて来た彼の日本の若い投手達への置き土産でもある。
今シーズンの終盤、今永投手は勝ち星を挙げることができなかった。
最後の勝利が7月25日の中日戦なので、その後2か月以上にわたって勝ち星から遠ざかってしまったことになる。
CSファーストステージの第二戦では5回を投げ、2本のソロホームランで2失点。
彼自身に負けはつかなかったがチームは敗れ、そのままシーズン終了となった。
こうした成績を見て、彼のMLBでの活躍を疑問視する声も聞こえてくる。
しかし、私はそうは思わない。
今日はその理由を書いてみよう。
トレバー・バウアーが日本に来たばかりの頃、特に広島戦と巨人戦で連続して長打を浴び、ノックアウトされたことがある。
広島戦については彼の投球時の癖がバレていたと言う説もあるが、バウアー投手自身が後日語っていたように、MLBの打者に対するアプローチが日本では有効ではなく、NPBの打者の特徴やバッティングの傾向に即して球種もコースも変える必要があったようだ。
具体的に言うと、フライボール革命が日本以上に浸透してアッパースイング気味のMLBの強打者達には有効だった高めの伸びのあるフォーシームがレベルスイングでコンパクトに捉える日本の打者達に狙い打ちにされた。
私には、その姿が今シーズン終盤の今永昇太の投球と少しオーバーラップして見える。
ラミレス前監督も指摘していたが、この時期にはメジャー各球団のスカウト達が来日して今永の投球を観戦しており、彼らの前でメジャー仕様の投球をしていたと言うことはあるように思う。
誤解のないように言って置きたいが、今永昇太がチームの勝利よりも自分のキャリアアップを優先していたと言う意味ではない。
最終的なゴールをMLBでの先発ローテーション定着とした場合、彼の最大の武器は後述するように異例の回転数を持つきれいなフォーシームであり、それを磨くことを優先するのは長期的な戦略として当然のことだ。
その長期的な戦略の中で、今シーズンの終盤、そしてCSではチームが勝つための最大限の努力をしてくれたと思う。
しかし、初期のバウアーと同様、高めのストレートを強くコンパクトに振り抜かれてホームランを多く打たれた印象はある。
その一方で奪三振王に輝いたことからもわかる通り、多くの場合はそのストレートで空振りを奪っていたことも事実だ。
ホップ成分の多い彼のきれいなフォーシームはNPBでは諸刃の剣だったと言っても良い。
しかし、私はそのストレートがMLBでは大いに威力を発揮し、今永昇太を立派なローテーション投手にしてくれると信じる。
下の図をご覧いただきたい。
これはMLBの投手達と日本から挑戦する主な投手達のフォーシームの特徴を平均球速とホップ量(落ち幅)で整理したものだ。
佐々木朗希の球速はここでも際立っており、米国でも力で勝負できるイメージがすぐに湧いてくる。
我らが今永投手は平均球速こそ標準的ではあるものの、同じ球速帯ではホップ量がずば抜けていることがわかる。
何かの点でずば抜けている、というのが重要なのだ。
良く言われていることだが、バッターはボールを見て打っている訳では無い。
眼球の回転速度からして目の前を通過していく150キロの物体を見ることなど絶対に出来ないのだ。
プロの優れた打者達は脳内に膨大な投球のデータを持っており、投手の手の向きや初速などリリースの瞬間の情報に基づいてどの球種がどこにくるかを予測し、スイングを開始する。
彼らのデータベースは通算でより高い打率やより多くの長打を打てる様にMLBの平均的な投球に合わせてある。
だから何かの点で例外的なボールは極めて打ちにくいのだ。
今永昇太の場合はそれが平均的な球速なのに妙にホップする(落下量の少ない)ストレートということになる。
もう一つ彼にとって追い風と私が感じるのは、同リーグのチームと年間25試合ずつ対戦し、それが全体143試合のうち大半(125試合)を占めるNPBとは異なり、球団数の多いMLBでは同一カードが比較的少ないため(同一リーグ同一地区では4チーム計76試合でそれ以外の86試合は年間に数試合しか対戦しない他地区か他リーグとの対戦)、慣れられたり対策されたりということに時間を要する点だ。
従って、今永昇太の特異なストレートは一定の期間は特異なものであり続けることだろう。
全てについて深く考える今永投手は、MLB挑戦で通用せずボロボロになって帰って来たらどうしよう、と言っているようだが、心配には及ばない。
きっと上手くいくさ。
成功は必ずしも約束されていないが、成長は約束されている。
アルベルト・ザッケローニ
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