mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

今年の上茶谷大河はひと味ちがう





最近、Paraviでのキャンプ中継を横目で見ながら仕事をすることが多い。


コロナ禍で良いことなど一つもないと思っていたが、強いて言えばこういうリラックスした(人目を気にしない)働き方ができるようになったということはあるかも知れない。


もちろん、ずっと画面を注視しているわけにはいかないのだが、ブルペンでの力の入った投球やシートバッティングでの打者と投手の対戦、あるいは、昨日の記事でも書いた石井琢朗コーチのユニークな練習などは少し手を休めて見入ってしまうことがある。


そんな中で上茶谷大河投手の奮闘ぶりが目に付くことが多い。
先日のシートバッティングでも、質の良いボールをコースに決め、投手陣の中でひときわ仕上がりが良い印象だった。


対戦相手は、たしか、楠本泰史選手※と新入団の梶原昴希選手だったと思うが、手が出ずに見逃しのストライクということも何度かあったと思う。


※ 腕に打球が当たるという不運な怪我の直前だったように思う。慎重に治療して万全の状態で復帰してください、と思ったら今日の練習にはもう元気に参加していた。


上茶谷投手は今日のケースバッティングでも登場して、内外角のコーナーにキレのあるストレートを決めていた。



昨シーズンの上茶谷投手は、定評のある「誇張しすぎたモノマネシリーズ」とロメロ投手への一発ギャグの指導ではさすがという活躍を見せていたが、本業のピッチングの方ではかなり苦しみ悩んだことと思う。



リスクを負っても以前のダブルプレーンの投球フォームに戻す決意をしたというのも苦悩の末のことだったのだろう。


それが焦りでなければ良いがと私が心配していたところ、昨年の秋季トレーニングが終わってから、神奈川新聞に次のような記事が出た。


“暗中模索のまま秋季トレーニングを迎えた上茶谷に道筋を示したのは、コーチングアドバイザーの小谷正勝氏(76)だった。「学生の時のフォームで投げなさい」。その言葉をすぐに受け入れたという。”


この部分を読んで、ピッチングメカニズムにも詳しい小谷さんが上茶谷投手にあえてダブルプレーンに戻ることを薦めた理由が分かったように思う。


小谷さんと言えば、選手の個性や状態に合わせた指導に定評があり、故関根潤三監督からは、


「僕が認める野球人の一人が小谷正勝。ピッチングコーチとしてはピカイチで、指導の引き出しがいくらでもあるところがすごい。引き出しが多いから、いろんな選手に『右向け右』をさせられる。しかも、指導がわかりやすい。その選手が一番理解できる言葉で話すから、選手にとってこんなありがたいことはない」


と言われている。


小谷さんは日刊スポーツで「小谷の指導論」と言う連載を行っており、今年の初めに三浦監督との対談で山﨑康晃について次の様に語っていた。


“小谷 一番プライドを壊さないで、導いてやるには「野球のふるさと」に帰ることだな。何で良くなったのかを考えるんだ。野球を始めた時から振り返って、これだと思った瞬間がある。それが原点。俺は小学生のころ、お宮の石灯籠に向かって投げたら、なぜかうまいこと投げられた。


三浦 僕の場合は子どものころ、おやじが商売してて、店の裏の細い路地でのピッチング、キャッチボールですね。道幅が1メートルあるかないかのところ。それがコントロールが良くなった原点かなと思います。


小谷 人間の視野、感覚ってすごい。三浦は路地がはまったんだな。細くて、変なところに投げたら当たっちゃうから、コントロールのコツをつかんだ。


三浦 プロに入っても、プレートの幅からバッター、キャッチャーのイメージまではつきやすかった。


小谷 山崎にもそういう話を聞かせてやった方がいいと思う。“


小谷さんは上茶谷投手のフォームの改良のゴールがダブルプレーンだと言っているのではなく、恐らく、彼の野球のふるさとが大学時代のダブルプレーンだったら、まずはそこに戻って自分がこれだと思った瞬間を思い出すことを薦めているのだと思う。


そして、上茶谷投手が自分の良さを思い出したら、そこからまた合理的で怪我のないフォームを一緒に探して行こうと言っているように思えてならない。


上茶谷投手の悲壮な覚悟を聞いてから感じていた不安が消えて、楽しみだと思う気持ちが湧いてきた。



このキャンプが始まってからも、ブルペンで投球の合間に小谷アドバイザーと上茶谷投手が結構長いこと話し込んで、指導を受けてまた投球するということを二人で繰り返していた。


その成果が、先日のシートバッティングや今日のケースバッティングでのパフォーマンスの向上なのだと思う。


素人の私が、腕の振りの回転面があまり良く見えないカメラアングルで見た印象なので、確かなことは言えないが、入団当初の前腕部と肘から先の回転面が一致しないダブルプレーンの投げ方ではなく、むしろシングルプレーンと言って良いようなきれいな回転をしているように見えた。


それでいて、スムースな体重移動とリリース直前の右足の強い蹴りの勢いをうまく使って、非常にシャープに腕が振れている。とてもダイナミックなフォームになった印象だ。



ひょっとして、小谷アドバイザーと一度「野球のふるさと」に帰り、そこから、合理的でしかもダイナミックな新しいフォームを既に作りあげつつあるのではないかと思う。


もしそうであれば、先発ローテーションの5番目と6番目のポジション争いで、上茶谷投手は一気に一番手にのし上がることになるだろう。


このブログでも何度も書いているが、時おり垣間見る小谷さんの指導は素人目にも素晴らしい。これほど指導者としての実績のある方なのに、一方的に自分の考えを押し付けることを決してしない。


ブルペン後方の定位置に腰かけて長い時間ただじっと投球練習を見守り、指導すべきポイントを見極め、そして、それをどのように伝えれば投手がスムースに自分のものにできるかを考えた上で短く伝える。本当に素晴らしいコーチングだ。


昨シーズンは徹底的に打ち込まれ、東洋大学時代は東都六大学で大活躍したフォームもメンタルもバラバラになってしまった上茶谷投手は、このシーズンオフから潮目が変わり、小谷アドバイザーとの出会いなどもう一度輝くようなキャリアを歩き始めることができるのではないか?


いや、私のような素人の予想など何の意味もない。私はそのことを心の底から祈っている。上茶谷投手が復活するまで、何度でも祈り続けよう。


“I believe that everything happens for a reason.
sometimes good things fall apart
so better things can fall together.”


私は、全ての物事には、起きる理由があると思うの。
そして、時に良い事がバラバラに崩れるのは、
もっと良い事になってもう一度集まるためだと思うの。


マリリン・モンロー