今日明日の巨人戦は延期 コロナ禍のプロ野球の品質管理とは
7月29日 対読売ジャイアンツ戦 横浜スタジアム 延期
今日と明日のジャイアンツ戦は、コロナのクラスター発生により読売側がチーム編成困難という理由から後日に延期されることとなった。
オールスター休み直前の阪神戦で3連敗を喫し、後半戦再開後のスタートダッシュを期待していた私にとっては大変残念なニュースだ。
今のところ、31日の試合は実施する方向で最大限の努力をするということだが、開催の可否はかなり不確かだと思う。
昨日行われたNPB及び12球団の臨時実行委員会では、試合延期に至った経緯について、巨人側から次のような説明があった
”当球団では7月19日~23日までの5日間に、支配下選手69人中38人が新型コロナウイルスの陽性判定を受け、故障による長期離脱者を除くと試合に出場できる野手は、捕手2人、内野手2人、外野手5人の9人という状況になっていました。
このため本日、支配下登録の70人枠の最後の1枠を、育成契約の内野手1人を支配下登録することで埋め、出場可能な野手を10人に増やしましたが、それでも内野手は1人不足することから、陽性判定を受けた選手のうち、昨日27日と本日28日に隔離期間を終えた計17名(うち内野手は8人)について、この両日、全員のコンディションを見極めながら、試合出場ができる選手の有無を確認したうえで29日から再開されるリーグ戦に臨むことができないか検討してきました。
しかし、本日午後の時点でも隔離期間を終えた内野手8人とも全力疾走や全力投球ができるコンディションにはなく、この状態で29日からの試合に出場させた場合、大きな故障につながりかねないことから、少なくとも29日と30日はチームとして試合に臨むことは困難と判断し、本日、臨時実行委員会の開催を申し入れたものです。”
別の報道では、スタッフも含めた球団全体としての感染者数は77人に及ぶとしており、上記の”支配下選手69人中38人が新型コロナウイルスの陽性判定”ということを見ても、これまでの他の球団で発生したクラスターとは規模が異なるという印象を受ける。
なお、昨日(28日)には、イースタンリーグのDeNAー巨人戦が行われており、その試合でのジャイアンツの出場選手は以下の通り。
1番 廣岡(SS)
2番 重信(CF)
3番 石川(DH)
4番 ウレーニャ(2B)育成
5番 勝俣(3B)昨日支配下登録
6番 伊藤(1B)育成
7番 萩原(C
8番 保科(LF)育成
9番 岡田(RF)
この緊急事態で急遽支配下契約が行われた勝俣選手を除いても、育成選手3名が含まれており、支配下登録の選手達も、廣岡選手、重信選手、石川選手といったところを除けば、一軍での印象はほとんど無い若手ばかりだ。
この決定を受けて、SNS上では様々な意見が飛び交っている。
”DeNAやヤクルトの時には無理してでも試合を開催して、連敗を喫したりしているのに、巨人だけはクラスター発生後10日も試合を行わないというのは不公平だ”
”これだけ大きなクラスターが出た以上、感染の拡大防止という意味でも試合は実施すべきではない。”
”感染拡大防止の観点と言うが、DeNAの時には、沖縄まで遠征して試合をさせられたじゃあないか。”
”DeNAやヤクルトの場合と比べても、今回のジャイアンツのクラスターはさらに大きく、まともにメンバーが揃わない状況だからしょうがない。”
”先週コロナ陽性判定されたが無症状の選手達はそろそろ復帰できるのだから試合をやるべきだ。”
”いや、復帰したばかりの選手達は全力で走ったり投げたりできる状態ではなく、怪我を予防する意味でもいきなり試合というのは難しい。”
”昨日(28日)にファームではDeNAー巨人戦が行われているのだから、試合ができないということは無いだろう。同じメンバーで29日の一軍の試合を行うべきだ。”
”いや、二軍の試合と違って一軍の試合には育成契約の選手は出場できないので、ファームの試合はできても一軍公式戦はできない。”
”コロナ禍でのクラスターとは言え、チームの管理不行き届きでもあるのだから、チーム編成できない場合は不戦敗とすべきだ。”
”いや、試合数が減ると、相手チームの選手達の個人成績にも関わってしまうのでそれは難しい。”
いずれもそれぞれに”なるほど”と思わせる内容だが、両チームのファンやそれ以外のプロ野球ファン全員が納得できるようなロジックは見当たらないように思う。
上述した意見は、以下のようにそれぞれ異なる価値観に基づくもので、これらは互いに相容れないものだからだ。
① ペナントレースにおける競争の公平性が大事だ
② コロナによる感染の拡大防止が最も重要だ
③ クラスタを発生したチームはそれによって迷惑を被る相手チームに対して何らかのペナルティを課されるべきだ
これらは全て、それぞれの観点で”正しい”。しかし、同居できない”正しさ”が複数同時に存在するのがこの手の難しい問題の常だ。
ニーチェも言っている通り、”本当の悲劇は、善と悪との対立ではなく、善と善との対立によって生まれる”のだ。
私は、上に書いた様々な価値観の中で、どれか一つが他のものより重要だ、というようなことを書くつもりはない。くどいようだが、こうした価値観の多様性というもの自体、現代の社会の中で認めていくべきで、むしろ、皆それぞれの立場で様々な意見を持つべきだと思う。
私自身はと言えば、上に書いた様々な価値観は全てもっともなことだと思う。その上で、もう一つ、自分にとって最も気になるポイントについて書いてみたい。
それは、興行であるプロ野球の試合が提供するサービスの品質が重要だ、という意見です。
私がプロ野球を観て、ああ良かったと思う瞬間は、走攻守何であれ、プロフェッショナルのレベルでしか見ることのできない素晴らしいプレーを見ることだ。
言い換えれば、プロ野球というものが顧客の一人である私に提供するサービスの品質は、私にとっては、どれほど”プロフェッショナルのレベルでしか見ることのできない素晴らしいプレー”を多く見せてくれるか、ということで決まる。
そして、野球というスポーツの性質上、こうした素晴らしいプレーは両チームの実力がいずれも一定以上のレベルにあって初めて可能となるものだと思う。
例えば、佐々木朗希投手の160km/hを超えるストレートや150km/hのフォークボールは相手によらず素晴らしい、という意見もあるかも知れない。
しかし、私は、彼のブルペンでの投球練習でこうした素晴らしいボールを見るだけでは、野球というスポーツの本来の良さを感じることができないと思う。
佐々木朗希投手のストレートを”打つかも知れない”スラッガー達が彼と対戦して初めて、そこでの駆け引きも含めて素晴らしい野球の1シーンが出来上がる。
かつての暗黒時代から、私は、”野球は勝ち負けじゃないし”と自嘲気味に言っていた。
こういうことを言う理由には勝敗には目をつぶって観戦せざるを得なかった当時の状況もあったが、それ以上に、”プロフェッショナルのレベルでしか見ることのできない素晴らしいプレー”を観たいという気持ちが強かったということもある。そして、それは今も変わらない。
私にとって、プロ野球の試合というのは勝ちと負けを決める手段ではないので、今回の場合もジャイアンツの不戦敗という裁定はあまり歓迎できない。
ちょっと極端かも知れないが、チームの勝ち負けが何よりも大事なら、原監督と三浦監督がプロ野球スピリッツで対戦して決めるのでも、あるいは、もっと単純にジャンケンで決めても良いような気がする。
長々と書いてしまったが、私は、ジャイアンツのチーム編成上、プロ野球としての品質を保ったプレーを見せることができないのであれば、延期という決定を支持したい。
しかし、それでも、一つ注文をつけたいところはある。
プロ野球の試合としての品質とは何であるか、NPBに基準を提示して欲しい。そして、今後は、その基準に照らして、開催の適否(可否ではない)を第三者的に検証すると言ったルールを明確化する必要があると思う。
プロ野球が、素晴らしいプレーというサービスを提供するビジネスである以上、他のどのビジネスでもそうであるように。そのサービスという製品が最低限満たしているべき品質の基準を何らかの形で明文化するべきだと思うのだ。
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