今永昇太と松尾汐恩のこれから
1月5日 今朝のサンスポに今永昇太投手とドラフト1位で入団した新人の松尾汐恩捕手の対談が掲載された。
二人の間で交わされた言葉の中で印象的だったものをいくつかピックアップしてみよう。
【エースと期待の新人捕手の間で交わされた言葉たち】
松尾「(投手をリードする上で大切にしていることは)まずコミュニケーション。
投手と試合の中で話をして組み立てていくことを大事にしているので、これからも投手の方としっかりコミュニケーションを取って頑張っていきたいです」
今永「(松尾捕手がDeNAの先輩投手たちとコミュケーションを取るために必要なこととして)先輩に可愛がられるような選手になることも重要な要素。
野球と真摯に向き合って、真面目に取り組んでいれば必ず松尾選手の周りに人があふれると思う。そういったところも意識してやってほしいですね」
今永「(プロで活躍する選手の共通項は)努力を努力と思っていないこと。
本当に野球が好きで、また野球を職業としていることをしっかり理解している。
なので練習も苦ではないし、辛いことも苦にしない。
そういう感覚を持っている選手が、僕はいい選手だなと感じます」
今永「(良い捕手とは)やっぱり引き出すのが上手い捕手。
投手を操縦するというか、それを投手自身も分かっていないくらいの感覚でできていたら、それはものすごい捕手と言える。
(日本代表で)會澤選手とか森友哉選手と組みましたけど、やっぱり自分が無意識のうちに調子がいいんじゃないかと錯覚させられるような、でも実は捕手が後ろから操縦していることに試合が終わって気が付く。
松尾選手も大阪桐蔭で色々な投手と組んでいますし、その力は十分にあるのではないのかなと思います」
そして、この二人が組んだ時にどういうバッテリーにしたいかという質問に答えて、それぞれ次のように語っていた。
今永「年が離れているとか、それはフィールドに立ったら何も関係ないこと。
松尾選手から『もう少し、こうした方がいいですよ』とか『僕はこう思う』とか、そういうことが言える関係性になれたらいい。
なので、そのような環境づくりを僕はするつもりです。
非常にセンスを感じるし、キャッチングなど高校生離れしているので、早く松尾選手に投げてみたいなという印象を持っています」
松尾「まずはバッテリーを組めるように頑張っていきたいです。
自分の方が全然年下ですけど、それでも自分が引っ張っていけるように、というのは捕手として大事なことだと思う。
引っ張ってもらうのではなく、自分からどんどん積極的に行動を起こしていきたいと思います」
投げるスナフキン、じゃなかった投げる哲学者と言われる今永投手らしい深みのある言葉が並んでいるが、それに応える松尾選手の言葉も新人らしく初々しいながらも物おじすることなく、自分の考える捕手像をしっかりと持っている印象を持った。
流石に名門の大阪桐蔭で育てられてきただけのことはある。
プロに入れば沢山の壁に突き当たることだろうが、問題はその壁をよじ登ったり壊したり、あるいは迂回したりしてその先に進んでいく工夫と努力だろう。
松尾選手が本当に野球が好きで、今永投手の言うように「努力を努力と思っていない」選手であれば、そうやっていつかは正捕手の座を自分のものにしてくれるだろう。
今オフにはポスティング制度を使ってMLB挑戦が噂される今永投手と新人一年目の松尾捕手が公式戦でバッテリーを組むのは難しいかも知れない。
しかし、こうした場での会話に加えてキャンプや練習試合などで今永投手の投球を松尾選手が受けるという機会があれば谷繁元信さん以来の高卒ドラフト1位捕手にとって大きな財産になることだろう。
【投手が捕手を育てるということ】
たまたまかも知れないが、松尾選手はつい先日球団OBの谷繁さんとも対談を行なっている。
そこでは、キャッチングの方法やミットの形の作り方など技術的な内容について捕手同士の会話が繰り広げられており、上述した今永投手との対談とはだいぶ異なった内容となっていた。
この二つの対談記事を読んでいてフト思ったのだが、キャッチングやフレーミングあるいは盗塁阻止といった捕手としての技術に関しては先輩の捕手たちやバッテリーコーチなどから学ぶことが多いのは勿論だが、バッターを打ちとると言うことについては少し違うのではないだろうか。
野球の勝負は7割がたはピッチャーで決まるといった表現をよく耳にする。
こうした時、実際にボールを投げるピッチャーの方に注目がいくのは仕方ないが、実際にはバッテリーの共同作業として捉えるべきではないかと思う。
素人の推論の域を出るものではないのだが、この「共同作業」に必要な知恵やスキルは捕手の先輩たちからは教わるのが難しいのではないだろうか?
理由は簡単。彼らはそこにいないからである。
塁上にランナーが溜まり、そこで好打者や強打者が打席に入る。
ここで、バッテリーはマウンド上に集まって意見交換したり、あるいはサインの交換という形でコミュニケーションをとりながら、前の打席や以前の対戦結果なども考えつつピンチを凌ぎ切るための最良の配球を決めていく。
最近ではベンチからサインが出ることも多いようだが、やはり基本はバッテリーの工夫と意思で切り抜けると言うことになると思う。
やはり、その場にいるものではないとわからない感覚や言葉にすることの難しい情報がそこにはあるはずだ。
ベテラン投手が新人捕手と組んでいる場合でも、そこには明確な職能の分離があり、ベテランの言う通りに捕手が動くということにはならない。
それぞれが意見を出し、アイディアを提案して危機に対処していくという共同作業が行われるわけだが、そのプロセスで幾多の修羅場を潜り抜けてきたベテラン投手の知恵を新人捕手が理解し将来に繋げていくと言うのが「投手が捕手を育てる」メカニズムなのではないだろうか?
プロ野球の世界以外でも、こうした関係性は多くあるように感じる。
自分と同じ職種の先輩のいう通りになっていても身につかないスキルについては、他の職種の人たちとチームを組んで問題解決していくというon the job traningを通じて学んでいくしかないのだ。
以前から、工藤投手と城島捕手、黒田投手と會澤捕手など、エースが期待の新人捕手を育てるという記事は何度か目にしていたが、先輩捕手ではなく何故ピッチャーが捕手を育てるのかもう一つピンとこなかった。
今日の今永投手と松尾捕手の対談記事を読み、そして上に書いたようなことを考えつつ、やっと少し腑に落ちたような気がした。
”優れた仕事をするためには、自分一人でやるよりも、他人の助けを借りる方が良いものができると悟ったとき、その人は偉大な成長を遂げるのである”
アンドリュー・カーネギー
このブログへのコメントは muragonにログインするか、
SNSアカウントを使用してください。