トレバー・バウアーがやって来た!
3月24日 昨日のフライトで来日したトレバー・バウアー投手の入団記者会見が横浜ベイシェラトンホテルで行われた。
昨日も空港のゲートを通ってくる瞬間から報道陣が詰めかけ、自身のブランドであるBauer outageのTシャツと短パン姿のバウアー選手の動画がインターネット上で配信されていた。
史上初めてサイ・ヤング賞獲得投手が現役の投手としてNPBにやって来ると言うことで、その注目の高さがうかがえる。
今日の記者会見で壇上に上がったバウアー投手は明るいブルーのスーツに赤系のパワータイをしめる気合いの入った出立ちで、短い自己紹介の後、報道陣からのさまざまな質問に答え、ベイスターズの新しいホーム用ユニフォームを羽織ってカメラマンの求めに応じてポーズをとっていた。
気難しいと言う印象が伝えられているバウアー投手だが、私の印象としては、自分のやりたい事がはっきりしており、そのための方法論にも独自の考えがあるため、協調性には欠けることがあるかも知れないが、それはプロスポーツ選手としての情熱と誠意が基本となっているように感じた。
また、親日家と言われているように、異なる文化に対する尊敬とそれを学ぶ真摯な姿勢を強く感じた。
メディアから何か知っている日本語があれば言ってみて欲しいと言うリクエストがあった際には、もちろん挨拶程度のフレーズは良く知っているはずだが、それには乗らず、“未だ皆さんの前でお話しできるほど日本語を良く知ってはいないが、これから野球の用語を始めとして学んで行きたい”と答えて躱していた。
UCLA卒業の教養人でもあり、聡明さも持ち合わせていると思う。
バウアー選手と日本球界そしてメディアとの最初の遭遇は概ね友好的な雰囲気で終始した。
私としては、彼のコメントでいくつか注目すべきポイントがあるように感じたので、これらのポイントと私が考えたこととをまとめておきたいと考え、早速筆をとることとした。
【背番号96の意味と数値目標】
バウアー投手のドジャースでの背番号は27でベイスターズだと上茶谷大河投手が使用している。
どうするのかな、と思っていたが、彼の選んだ背番号は96というかなり大きな数字だった。
その数字が今シーズンのストレートの平均球速の目標値であることが今日のバウアー投手のコメントで明らかになった。
来日前、自身のSNS上で最速100mph(161km/h)のストレートを投げる動画が配信されていたが、あれはNPB使用球だったのではないだろうか?
かなり以前に球団からNPB使用球を彼に送っていたそうなので、こうした投球練習もそのボールで行っていたと考えるべきだろう。
この100mphという数字が浮かび上がるところをハイライトした編集からも見て取れるように、これも彼の目標数値だと思う。
つまり、平均96mph(約155km/h)、最速100mphのストレートを投げることを目標にしていると言うことになる。
MLBのデータを見ると、2021年シーズンのフォーシームの平均球速が94mph(約151km/h)なので、今シーズンはそこからさらに3〜4キロ程度の高速化を図るということで、1年以上実戦から遠ざかっていた期間にそれだけ精進していたと言うことか。
目標についての質問では、まず最初にチームの優勝が最大の目標と断った上で、上記の球速に関する目標に加えて、のべ200人の打者から三振を奪いたいと付け加えた。
ちなみに、昨シーズンの奪三振王はジャイアンツの戸郷投手で奪三振数154なので、バウアー投手がこの目標を達成すれば、まず確実にこのタイトルを手に入れることができることになる。
彼の奪三振率 K/9 (9イニング当たりの奪三振数)は2020年が12.33、2021年が11.45なので、仮に12程度を目安とすると、見方を変えれば彼は今シーズン150イニング程度を投げるつもりでいると言うことになる。
NPBの場合、規定投球回数は試合数と同じ143なので、彼は規定投球回をクリアして200奪三振を目安としていることになり、史上初めてのサイ・ヤング賞と沢村賞の受賞者になりたいと言う発言とも矛盾しない。
もう一つ注目したいのは、彼の挙げた目標の全て、つまり、球速や奪三振と言うのはチームの打撃や守備といった要因によらずピッチャーの力量で達成できるものばかりだということだ。
勝利数や防御率など他力本願の要素が入る目標は口にしない。
ここもさすがだと思ったし、私は好感を持った。
【野球を科学する姿勢】
バウアー投手はカリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)で物理を専攻していたそうで、上記の目標数値の設定を見ても理系思考の人であることがわかる。
今日の会見でも、
“自分の技術、スキルを磨くことが好きですし、野球を科学することに情熱をかけてきた”
と語っている通り、ラプソードのような投球の回転数や回転軸あるいは球速のような数値化された情報と照合しながら投球フォームや筋力の付け方などを最適化して行く科学的な練習方法のパイオニアでもある。
ベイスターズでも今永昇太や大貫晋一は同じようなアプローチで練習を行なっているので、彼らにとっても学ぶことは多いと思う。
バウアー投手が2019年に来日してDock of Baystarsの施設で練習した時にも、母体がIT系企業であるベイスターズのデータアナリストたちの陣容と設備や機器などに関心していたようで、自身と同じ米国シアトルのドライブライン・ベースボールに通う今永投手たちとの交流も楽しんだようだ。
ベイスターズのチーム統括本部長である萩原龍大さんのコメントを見ても、過去数年間のこうした交流が今回バウアー投手がベイスターズでプレーすることを選んだ大きな要因になっているようだ。
バウアー投手はその他にも重さの異なるボールを壁に向かって投げると言う最近やっと広まって来た練習方法もいち早く取り入れており、また、試合前に140m(!)と言う大遠投を行うことでも有名だ。
今日の彼のコメントで私が驚いたのは、NPBのボールについて尋ねられた時の回答で、彼としては大きな差異ではないのでボールの動きはさほど変わらないと言っていた際に、NOB使用球を切断して断面も詳しく調べたと語っていたことだ。
これは、まさに理系的思考だと思う。
そこまで調べた上で問題ないと言うことなので、この点についてもまずは安心して良いだろう。
【新球スプリットチェンジ】
バウアー投手はトレーニングで自分の技術を向上するのが何より好きと言うことで、一年以上のブランクの間もトレーニング中心のストイックな生活を送っていたようだ。
その成果の一つが上記のストレートの球速向上であり、そしてもう一つ彼が挙げたポイントが新たな変化球となるスプリットチェンジの習得だ。
バウアー投手はいずれも150キロを超えるフォーシームとツーシームを軸に、高速シンカー、スライダー、カットボールと多彩な変化球を操ることでも有名だ。
しかも、動画を見ると、これらの変化球は日本では経験の無いようなグニャグニャ曲がる尋常では無い軌道であり、日本のバッターはどういう反応をするのだろうかと興味がわく。
その中で、これまで投げていたチェンジアップについては、あまり気に入ったボールではなかったと本人も言っている通り、投球に占める割合は2.6%程度である。
新球のスプリットチェンジはこのボールを改良したもので、フォークボールのように人差し指と中指の間を開き、ボールを挟むような形で手首を固定し、ストレートと同じ腕の振りで投じる。
球速はフォーシームよりも10キロ以上遅く、フォークボールのように鋭く落ちる。
握り方は投手によって多くのバリエーションがあるようだが、例えば、今永昇太の場合は下図のように5本の指の全てがボールの縫い目にかかるように握る。
フォークボールと違って肘に負担がかからないことに加えて、通常はボールに触れない薬指も使ってボールを操ることができるのが利点だ。
最近だと、去年ベイスターズに在籍したクリスキー投手が鋭く大きく落ちる素晴らしいスプリットチェンジを投げていた。
ベイスターズの捕手陣がしっかりと捕球し、ワンバウンドのボールも確実にブロックできるようだとバウアー投手の奪三振率はさらに上昇するだろう。
【NPBデビューまでのスケジュール】
昨日来日して今日入団会見という慌ただしい日々はこれからもう少し続くだろう。
新居への引越し、別送した荷物の受け取りと整理なども行いながら、並行して、チームの首脳陣や選手たちとの挨拶、横須賀のDock of Baystarsでの練習を始めることになる。
早ければ、来月上旬にはイースタンリーグでの調整当番が始まるだろう。
横須賀スタジアムのイースタンリーグの試合にサイ・ヤング賞を受賞したバリバリの現役メジャーリーガーが登板するというのは、ある意味、彼の1軍での登板よりも“事件”と言って良い。
横須賀スタジアムは満員になるだろうし、守備につくベイスターズのファームの選手たちは非常に緊張するだろう。
特に、彼の投球を受けるファームの捕手は大変だ。
だって、100マイルのストレートとスプリットチェンジも投げるんだぜ。
お互いに慣れるためにも、伊藤光や戸柱恭孝などの1軍の捕手を同時に横須賀に派遣して彼とバッテリーを組むと言うことも真剣に考えた方が良いのではないだろうか。
そして、その次に1軍でのデビューという事になるが、バウアー投手自身の言葉によると、それは4月中には実現するだろうとのこと。
WBC組の復帰や故障で離脱中の大貫晋一とタイラー・オースティンの合流に加えて、もう一つとても大きな楽しみができた。
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