mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

クローザーは抑えて当たり前、などと言うことはない




7月15日 横浜スタジアム


ベイスターズ 1-2 カープ


勝 栗林良吏 2勝6敗7S
負 山﨑康晃 0勝6敗20S
S 矢崎拓也 4勝0敗15S


本塁打 坂倉将吾8号(9回表ソロ)



今永昇太と大瀬良大地の投げ合いで5回途中まで両投手ともパーフェクト、と言う稀に見る投手戦だったが、最後はリリーフ陣の出来が勝敗を分けた。


9回一死まで1-0でリードしていたベイスターズファンとしては、勿論、このまま勝ってくれることを願っていた。


クローザーを投入した以上、勝利の方程式と言うことになるが、山﨑康晃が今シーズン既に5敗を喫していることから、期待と不安の入り混じった気持ちを皆が持っていたはずだ。


そして、残念ながら不安の方が的中し、山﨑康晃は坂倉選手に同点ソロホームランを打たれ、さらにデビッドソン選手にもツーベースを打たれたところで三浦監督自らマウンドに向かって投手の交代を告げた。


しかし、一度カープに傾いた流れは変わらず、3番手のエドウィン・エスコバーは小園選手に不運な内野安打を許して一死一、三塁となってしまう。


叩きつけるようなゴロが高く弾み、ショートの京田陽太が少し下がって捕球せざるを得ず、無駄のないスローイングではあったが、俊足の小園選手は間一髪セーフとなってしまった。


そして、代打の會澤選手が初球、高めのストレートを簡単にレフトへ打ち返し、これが決勝の犠牲フライとなった。


その裏のベイスターズの攻撃はカープのクローザー、矢崎投手に三者凡退で片付けられてゲームセット。


インターネット上では、勝てた試合を落とした、山﨑康晃はクローザー失格だ、と言うコメントで溢れているようだが、私としてはこうした意見に対してなるほどと思う部分もある一方、少し違う見方もしている。


まず、今日の試合は勝てた試合を落とした、と言える内容だったのだろうか?


確かに、9回一死走者なし、1-0のリードでクローザーがマウンド上にいる、と言う局面だけで考えれば、本来、勝つ確率は高い筈だし、そこで勝てなかったのは我々のクローザーの今日の力が不足していたことが敗因と言って良いと思う。


山﨑康晃の坂倉への2球目は外角のベルトの高さのストレートで、一発だけは避けなければならない場面では一番いけないボールだったし、明らかな失投だったと思う。



しかし、野手の成績をおさらいしてみると、1番から6番の打者が全員ノーヒット。それどころか、フォアボールの出塁すら一度もない、と言う異常なほどの停滞ぶりだった。


6回の先制シーンは、7番の京田陽太のヒットの後、バントを失敗して開き直った戸柱恭孝のライト線を破るヒットで無死一、三塁とし、今永昇太が送りバントフェイクのスクイズのような形で得点を挙げたものだった。


チーム全体で3安打、1四球と4回しかランナーを出しておらず、これで勝ち切るには虎の子の先制点を守り切るしかなかった。


酷暑の中124球を投げた今永昇太は終盤さすがに疲れが見え始め、5回以降毎回ランナーを出し、2回得点圏にまで進まれたが、何とか無失点で切り抜けた。



ここまでも攻撃の圧力はカープの方がかなり強かったと思う。


そして、8回裏の攻撃で藤田一也の今季初ヒットが出て栗林投手を二死二、三塁まで攻めたが、楠本泰史が内野ゴロに倒れて追加点を奪うことができなかった。


あまり良い流れとは言えず、これで山﨑康晃が最終回を無失点で抑えて勝ち切ったら、これしかない細い勝ち筋をなんとか引き寄せた勝利、もっとはっきり言ってしまえば儲けものの勝ちだった、と思う。


しかし、結果としては、そう上手くはいかなかった、と言うのが私の印象だ。


とてものことに、勝てた試合、だったとは思えないのだ。


そして、山﨑康晃はクローザー失格と言う意見について、半分は納得するものの、それでは誰にすれば良いかと言うと、皆さんの仰るようにウェンデルケン、入江大生、森原康平などが好調なのだから、彼らを使えば良い、と簡単には思えない。


それほど、9回の1イニングを抑えると言うのは難しいことだ、と思っている。


以前、伊勢大夢がセーブシチュエーションで登板して苦い経験をしたこともあったし、今日の別の試合でも、連続無失点を続けていたタイガースの岩貞投手が岩崎投手の代理クローザーとして登板して失点し、最終的には延長戦で逆転負けした、と言う阪神ファンにとっては悔しい敗戦もあった。


そう、そんなに簡単ではないのだ。


クローザーなのだから抑えて当然だ、と言う人は、自分の命の次くらいに大事なもの(全財産など)を賭けて、何か簡単なことを確実に行う、と言う場面に自分がいることを想像して欲しい。


例えば、英国のロアルド・ダールという作家の「南から来た男」と言う短編は、次のような話だ。


「私」はジャマイカのホテルのプールサイドで、ある小柄な老人に賭けを持ちかけられる。


私が自分のライターを10回続けてミスなく着火できれば彼の高級車を貰うことができ、一度でも失敗すれば私は左手の小指を失う、と言う賭けだ。


彼の熱心な誘いに負けて私が承諾すると、老人は慣れた手つきで私の左手を机に紐で固定し、ボーイに持って来させた鋭利な肉切り包丁を振りかぶる。


この状況で、私は冷や汗をかきながら、一回、また一回とライターに火をつけていく。


そして、回を重ねるにつれて、私の精神は極限にまで追い込まれていく。



続きはダールさんの原作を読んでいただくとして、話を元に戻すと、防御率の良い入江やウェンデルケンにクローザーをやらせれば問題解決だ、と思っている方はご自分でも上記の老人の賭けにのったことをリアルに想像してみて欲しい。


10回ずつミスなく着火できる試技を10セット行い、これは簡単なことだと思えるまで練習した後に、「私」と同様、左手を固定されてミスした瞬間に小指を失う状況で10回着火してみせる。


自分のことだと思うと恐怖と緊張が湧いて来ないだろうか?


私には怖すぎてとても出来ないことだ。


そして、私と同じように少しでも恐怖と緊張を感じる人は、山﨑康晃の恐怖と緊張も少し理解できると思うし、入江やウェンデルケンがクローザーとして登板してもいつもと同じような投球が出来て当然とは簡単には思えなくなるのではないだろうか?


誤解のないように言っておくが、私は今日打たれた山﨑康晃を擁護するつもりは全くない。


しかし、クローザーと言う呪われた職業は決して簡単なものではない、と言うことだけは肌で感じた上で、最良の選択はどうあるべきか議論したいと思っている。