現役ドラフトには謎が多い
昨年から始まり今年で2回目となる現役ドラフトが12月8日に行われた。
ベイスターズからは櫻井周斗投手が楽天に移籍することとなった一方、千葉ロッテマリーンズから佐々木千隼投手を獲得する結果となった。
櫻井投手は左のリリーバーとして頭角を現しかけた時期に相次ぐ故障で出鼻をくじかれた感があったが、いずれはブルペンの柱になって行く人材だと思っていたので意外だった。
調べて見ると、2017年ドラフト5位で日大三高から入団した彼も来年はプロ7年目の25歳になり、中堅と言っても良い年齢にさしかかっているのだった。
エドウィン・エスコバーと田中健二朗が退団し、中継ぎもできる石田健大の去就が不透明な状況で櫻井投手を現役ドラフトに回すという事は、左のリリーバー補強について何か目算でもあるのだろうか、と勘繰ってしまう。
いずれにしても、未だ伸びしろのある櫻井投手の楽天での活躍を祈っている。
スライダーのキレとストレートの強さは平均以上なので、制球難さえ克服出来れば、松井、安楽の抜けるイーグルスでブルペンの柱になる可能性もある。
一方、佐々木千隼投手は2016年ドラフト1位で桜美林大学から千葉ロッテマリーンズに入団したが、この年、ベイスターズも柳裕也投手の外れ1位で彼を指名していた。
佐々木投手に対する外れ1位指名は史上最多の5球団となったが、当たりくじはロッテ。
ベイスターズは外れ外れで濵口遥大を1位指名したという経緯がある。
ネット上でも7年越しの伏線回収とか見えない赤い糸とか言われているようだが、縁が繋がって今回の入団となった。
あの時の知名度、そして2021年の千葉ロッテマリーンズの躍進を支えたリリーバーとしての活躍の記憶を踏まえると、この選手が現役ドラフトに出るのか、と言う驚きがある。
ロッテの現監督である吉井理人さんはパワー系の投手を好む傾向があるように思うので、チームとしても本人の今後を考えた上での判断だったのだろう。現役ドラフトの趣旨にも沿っている。
今シーズンは大半をファームで過ごしたようだが、終盤にシュートを習得するとストレートの球速も上がり、9イニングスを無失点に抑えるとともに本人も手応えを感じていたようだ。
過度な期待をするべきではないだろうが、中日から移籍してきた武藤祐太投手(2018〜2021シーズン在籍)のように右バッターのインコースに投げ込むシュートでロングリリーフをこなす役割は果たしてくれるのではないだろうか?
さて、今日の記事の本題は現役ドラフトでのベイスターズの指名動向ではなく、現役ドラフト自体のルールなどについてである。
色々と込み入った制度があるのは既に各所で報道されている通りだが、こうしたルールはそもそも何のためにあるのだろうか?
【なぜ現役ドラフトが選手の活躍の場を作ることにつながるのか?】
まずは、現役ドラフトのそもそもの狙いから。
長年、プロ野球に接していると、期待値の高かった若手選手や実績のある中堅の選手がある時点から出場しなくなり、やがては戦力外になって行くというプロセスをこれまで何度となく見てきた。
もちろん、怪我や病気、加齢による体力の低下、素行の問題などは如何ともし難いのだが、そうした要因はないにもかかわらず力を発揮できないケースは非常に多い。
彼らはそれぞれに事情があるのだと思うが、チームの編成方針のために出場機会が減ってしまった、コーチ陣の指導が合わないまたは色々な人の意見を聞きすぎて自分のプレイスタイルを見失ってしまった、と言った例を良く見聞きする。
こうした事情で「くすぶっている」選手たちにとって、現役ドラフトは次の意味で復活あるいは覚醒の機会になり得るだろう。
(A) チーム事情の異なる球団に移籍することによって出場機会が増え、実戦感覚を取り戻すとともに試合と練習のサイクルが上手く回り始める
(B) 新たなチームで新たな指導者と出会い、新たなスキルを開花させる
昨年の第1回現役ドラフトでは、阪神に入団した大竹耕太郎投手とベイスターズから中日に移籍した細川成也選手の2人が大成功と言って良い事例だが、大竹投手は上記のAのパターン、和田コーチと出会った細川選手はBのパターンと言うことになるだろう。
成功は2人だけで、現役ドラフトでベイスターズに入団した笠原祥太郎投手のように1年で戦力外になった選手が12人中6名と言う結果から制度としての有効性を疑問視する向きもあるが、半数が戦力外というのは想定内であり、2つの成功例を生んだことはむしろ朗報と評価すべきだ。
【高額年俸の選手はなぜ対象外なのか?】
現役ドラフトの対象となる選手にはいくつか条件があり、外国人やFA権取得者等は除かれるが、年俸についても制限がある。
原則として年俸5000万円以下の選手が対象で、5000万円以上1億円以下の選手は1名含めることができるが、その場合でも年俸5000万円以下の選手は2人リストアップする必要がある。
いずれにしても、年俸1億円以上の選手は対象外ということだが、これは、出場機会の与えられない若手選手に活躍の場を与えるという現役ドラフトの趣旨からすると理解できる。
球団方針の変化などによって事実上飼い殺しの状態になっている高額年俸選手にも現役ドラフトでチャンスを与える、ということも考えられるとは思うが、本来の趣旨とは異なるということか。
彼らについては、既に十分知名度はあるので、所属球団が自由契約として機会を作る、あるいはあまり評判は良くなかったが、数年前の日本ハムのようにノンテンダーという扱いにすると言った方法もある。
現役ドラフトは全てを解決しようとするものではなく、人材活用に向けた施策の一つということで割り切るべきなのだろう。
【指名の連鎖は何のためか?】
現役ドラフトのルールで最も特徴的なのは、次のような選手の指名順序だろう。
・各球団は他球団の対象選手リストから獲得希望選手を議長に通知
・獲得希望の総数順に暫定指名順位を決定。獲得希望同数ならウェーバー順(今年のドラフト会議2巡目の指名順)
・まず、暫定指名順位1位の球団が通知通りに指名。次に、同1位球団に指名された選手を出した球団が指名。次に、その球団に指名された選手を出した球団が指名。これを繰り返す
このルールだけ見ると、ああそうか、という感想だが、例えば、次のような代替案と比べて見るとその特徴が分かりやすい。
・各球団は他球団の対象選手リストから獲得希望選手を議長に通知
・獲得希望の総数順に暫定指名順位を決定。獲得希望同数ならウェーバー順(今年のドラフト会議2巡目の指名順)
・まず、暫定指名順位1位の球団が通知通りに指名。次に、暫定指名順位2位の球団が通知通りに指名するが、通知した選手が既に指名されている場合は残っている選手の中から新たな候補を指名する。3位以降、12位までこれを繰り返す
比べて見ると、現在のルールよりも、後者の代替案の方がシンプルである事は確かだと思う。
NPBもこの代替案は検討しているはずであり、何らかの理由があって採用しなかったはずだ。
この「何らかの理由」として考えられることは以下の二つ。
(理由その1)
2つの球団間での選手の交換ということであれば、通常のトレードで事足りるため、現役ドラフト独自のメリットを明確にしたい。
(理由その2)
そもそも現役ドラフトでは暫定指名順位2位のチームが最も得をする可能性があるが、代替案の場合にはウェーバー順でこれが決まってしまう可能性があり、良い選手(市場価値の高い選手)をリストに含めることのモチベーションが生じない。
第一の理由に関しては、実際、二つの球団で余剰(失礼!)の選手と不足している選手がピッタリはまっている場合にはトレードで良いわけであり、複数球団で選手交換の連鎖を作ることで初めて各球団の需要と供給をマッチさせる場合に12球団参加の現役ドラフトの効力が大きくなる。
このためには、現行制度のように3球団以上の指名の連鎖を促進するルールが有効だ。
第二の理由に関しては、例えば、ある球団Aが飛び抜けて魅力的な選手を現役ドラフトのリストに載せ、他の11球団の候補選手はどんぐりの背比べ、という状況を考えてみよう。
この場合、球団Aが暫定指名順位1位となることはほぼ明らかだが、彼らが獲得できるのは11人の「どんぐり」の中の1人であり、大きなマイナスになってしまう。
そして、この状況を懸念して各球団が良い選手をリストアップしなくなることは現役ドラフトの制度自体の衰退につながる(つまり、11人のどんぐりが並ばないようにしなくてはならない)。
代替案の場合、いずれも獲得希望ゼロである11球団(球団A以外)の序列はそれぞれの候補者の良し悪しではなくウェーバーで決まってしまうため、敢えて良い選手をリストに含まる必要は無くなってしまう。
これに対して、現行制度の場合、上の例だと球団Aから見て魅力的な選手をリストアップしている球団が選ばれることとなるため、対象選手のレベルアップが期待できる。
この例は極端ではあるが、獲得希望数で並ぶ球団が多くなる状況でウェーバー順によって決定される状況が増えてしまうと多かれ少なかれ同じ現象が起きるはずだ。
こうした制度の設計は、オークション理論などミクロ経済の分野で活発に研究されているので、NPBもこうした分野の専門家の意見も聞いているのかも知れない。
【今年の現役ドラフトにおける大きな指名連鎖はなぜできたのか?】
関係者(?)の談話を総合すると、今回の現役ドラフトの指名は読売から始まり5球団の指名が連鎖して読売に還るという大きなループができたらしい。
詳しく言うと、読売が阪神の馬場投手を指名、阪神がオリックスの漆原投手、オリックスが中日の鈴木博志投手、中日がヤクルトの梅野投手、そしてヤクルトが読売の北村選手を指名してループ完成。
まず注目すべき点は、読売が獲得希望数でトップになったこと。
今回動きのあった12選手の中で北村選手が唯一の内野手であったために人気があった、と言う識者のコメントもあるが、私はどうも違うように思う。
もし北村選手が引く手あまたであれば、その後3球団からスルーされるのも妙なものだ。
最も考えやすいのは、読売が年俸5000万円以上1億円以下の選手も含め、3人をリストアップしていたと言う状況だと思う。
この仮定は3人をリストアップした球団が複数あったと言う「関係者」のコメントとも符合する。
北村選手を含め3選手全体としての獲得希望数が最も多かったが、それでも5、6球団が集中すると言うことではなく、各選手の獲得希望は1球団ずつと言う状況だったのではないか?
阪神は勿論、これに続くオリックスと中日もそれぞれそもそも狙っていたパワー系の中継ぎ投手を指名した。
そして、4球団目で初めてヤクルトが読売の三選手(おそらくは全員が野手)の1人を希望していたと言うことかと思う。
読売の残り2選手を希望していた他の球団はこの最初の指名ループには含まれておらず、それ以降の順番で他の球団の選手を指名したはずだ。
二つ目の指名ループも西武からスタートして、まず、広島の中村投手を指名し、そこから、広島が楽天の内間投手、楽天がベイスターズの櫻井投手、ベイスターズが千葉ロッテの佐々木投手、そして千葉ロッテが西武の愛斗選手を指名した。
最も指名順位の高い西武が野手の愛斗選手であったこともそれ以外の指名が全て投手であったことも最初のループと同じ。
既に書いたように、通常のトレードでは成立しない選手の移籍が複数球団の連鎖で初めて成り立つという意味で、このように二つの大きな指名のループができたことは現役ドラフトの意義を実証したものということができる。
また、ドラフト1位の選手が3人指名されたことからもわかるように、良い選手を出すことのモチベーションはある程度確保されていたように思う。
そして、この現役ドラフトでの選手の移動が「燻っていた選手の覚醒」につながるかどうかは、今後の本人たちと各球団の努力にかかっている。
と言うことで、
佐々木千隼投手
ようこそベイスターズへ。
貴方が本来の力を発揮して横浜で大活躍することを心からお祈りしています。
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