mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

フレ!フレ!今永





1人のプロ野球選手の競技人生はひとつのドラマだ、と思う。


これまで数十年にわたってプロ野球を見続け、実に多くのドラマを目にしてきた。


王貞治、長嶋茂雄、江夏豊、落合博満、清原和博、野茂秀雄、佐々木主浩、イチロー、松坂大輔などなど。


各選手のドラマは甲子園や神宮での活躍から始まったり、社会人野球からドラフト下位で入団した後にドラフトキングに登り詰めたり、様々なバリエーションがある。


引退の際も号泣しながらグラウンドを一周して鳴り止まないファンの声援や繰り返される自身の応援歌に手を振り続けたり、美学を貫いて笑顔で粛々と去って行ったり。


そして、我々野球ファンが自分自身の人生を振り返ってみると、プロ野球のスター選手たちのドラマで起きたことがらが年表の基準点のように並んでいることに気がつく。


ああ、イチローがWBCで決勝打を放ったあの時、自分は大事な会議にもかかわらず携帯電話で文字放送をずっと見ていた、などということを思い出すのだ。


ベイスターズの選手たちの入団から引退までのドラマは私にとって一層切実だ。


そう、他人事では無いのだ。


海外で暮らしていた1998年に著作権の都合上音声だけだったNHKの海外放送に耳を澄ませて聴いた優勝のニュース


ホセ・ロペスの肉離れを心配しすぎて自分が想像肉離れのような症状になったこと


須田幸太がマウンドに上がる時にお腹から搾り出すような声で「すうだあああーー」と叫んでいた男性ファンの祈るような顔


さまざまなドラマの断片がモザイクで作った壁のように延々とつながっているのが見える。



【これまでの今永昇太】


今永昇太のドラマはまだ進行中だが、私にとって特別な意味を持っている。


私が彼に注目するようになったのは東都大学リーグの入れ替え戦で彼の所属していた駒澤大学と原樹理投手を擁する東洋大学がぶつかった頃だった。


その頃の今永投手はスピードガン表示以上の球威で空振りを奪うことのできるフォーシームで高い奪三振率を誇る一方、ふとした拍子に連打を浴びるという二面性のあるピッチャーのように見えた。


大学4年時に左肩を故障して春季リーグでは登板できず、秋季リーグで復帰したが本調子ではなかった。そして、上記の東洋大との入れ替え戦で母校は2部に降格する憂き目をみた。


この4年時の印象が悪かったせいか、大学左腕ナンバーワンと言われた評判にもかかわらず一位指名はDeNAのみだった。


今永投手のこれまでの研鑽は、奪三振の鬼となる好調時となぜかホームランを打たれる飛翔癖との二面性との戦いだったように思う。



彼が新人だった2016年にベイスターズは初のクライマックスシリーズ進出を果たしたが、ファイナルステージ第四戦に先発した彼は初回に打者11人、6安打、6失点で降板した。


その試合後のロッカーで号泣していた若き今永昇太の顔が同年の球団公式DVD FOR REALに収録されている。


そして私はこのDVDを見るまでもなく、あの時の彼の顔を鮮明に思い出すことができる。


翌2017年には日本シリーズでも好投を見せ、第二戦と第六戦いずれも二桁奪三振というダルビッシュ有以来二人目の記録を達成した。


しかし、2018年は一転して連打を浴びまくり、4勝11敗(リーグ最多)、防御率6.80(前年は2.98、翌年は2.91)という同一人物とは思えないような結果を残している。


この年の今永は春先の日本代表戦以降、左肩に違和感があり、出遅れたことも原因だろう。


しかし、球速が戻った夏場以降も今永は驚くほど打たれた。


球場で見ていても何故これほど打たれるのかわからない、本人も不思議そうな表情をしていた。



私は思わず神社に駆け込み、彼の完全復活を願う絵馬を奉納したものだ。


どうすれば好調時の投球を安定して続けることができるのか?


この問いに満足のいく答えを得ることが彼の投手人生での最大の課題なのだろう。


必然的に彼の思考は自分自身の内面へと深く潜航していく。


なぜ同じフォームで投げていてもボールの質や力が異なるのか、なぜ同じボールでも痛打されることがあるのか、そもそも自分は何のために投げているのか?


こうしたことについて自分の力で考え、道を切り開いていく姿や発言から、彼は「投げる哲学者」と呼ばれるようになった。


しかし、彼は自分の考えだけに凝り固まった偏屈な人間ではない。


イチローさんやダルビッシュ投手などの超一流プレイヤー達がそうだったように、彼は「半眼」を身につけているのだ。


眼を完全に閉じてしまうと独りよがりになってしまうが、大きく見開いていると周囲の動きや意見に流されてしまう。


その中間でバランスをとった状態が仏像のような「半眼」の状態だ。


今永投手は周囲をしっかり見ながらそれに流されることなく、自分の考えを深めて決断することができる。


そのバランスが彼の最大の特長だと思う。


一昨年に札幌ドームでノーヒットノーランを達成した際にはビジターであることをわきまえてはしゃぐことはせず、しかしロッカールームに帰ってサイレントトリートメントの洗礼を受けるとノリツッコミのような役回りを自然に演じる、そういったことのできる選手だ。


その彼がMLB挑戦を名言した時のコメント


”このままの生き方では、自分にウソをついた生き方なような気がして。


僕の挑戦を見て、同じような境遇の人やふさぎこんでる人がいたら、彼が頑張ってるなら、私もちょっと頑張ってみようと思われるような選手になりたいです”


これが今永昇太だと思う。



【今永昇太のこれから】


昨日、ポスティングでMLB挑戦を名言していた今永選手がシカゴ・カブスとの契約に合意したことが一斉に報道された。



契約内容はかなり複雑だが、種々の報道内容からポイントをまとめると次の通り。


・4年間約77億円については保証されている


・3年目以降は球団にオプトアウトの権利がある


・双方が3年目以降も在籍を希望した場合には最大8000万ドル(116億円)程度の総額となる


その他にも、契約後半には年俸が上昇するエスカレータ式であること、サイ・ヤング賞を獲得した場合のインセンティブが定められていること、トレード拒否権は設定されていないこと、などを記載しているスポーツ紙もあった。


この内容が正しいとすると、確定分の4年間約77億円に基づき、DeNAはひとまず移籍金として約14億円を受け取ることになる。


ひとまずと書いたのは、3年目以降に球団がオプトアウトせず契約が継続された場合にはその後の報酬についても一定の比率で移籍金が追加されるとのことなので、DeNAは上記の14億円を含めて最大20億円ほどを手にする可能性がある。


バウアーの残留をはじめ残されたベイスターズのチーム力強化のための資金として喉から手が出るほど欲しい金額だが、ここは選手ファースト。


まずは今永選手自身が納得できる契約であることが最優先だ。


別の報道では、カブスの倍の金額を提示したチーム(エンゼルスかジャイアンツ?)もあったそうなので、今永選手の判断基準は単純に金額ということでもなさそうだ。


鈴木誠也選手という同僚がいること、先発ローテーションの中での立ち位置を初めとする起用方法などを総合的に判断しての決定なのだろう。


”アメリカでMLBを目指す子供たちが、球場に僕のユニフォームを着て、足を運んでくれる、それが一番”


というのがMLB挑戦にあたっての彼の価値観だ。


彼のピッチングはMLBで通用するのだろうか?


我々日本のファンは老婆心のせいか少し心配にもなる。


この点については、この人の評価を聞くのが一番良いだろう。


そう、ベイスターズで一年ともにプレイし互いにリスペクトし合う友人であるトレバー・バウアーだ。



”チームメートになり、間近でピッチングを見てから、彼はメジャーでも通用すると確信した。


まず、真っすぐの回転数はメジャーでもトップクラスだ。回転効率が高いから、無駄がない。


リリースポイントが低いから、VAA(バーティカル・アプローチ・アングル)も低い(ホームベースを通過する際の投球の軌道と水平線の角度。小さい方が打者から見てホップしている感覚になる)。


よって、高めの球は打者が浮いているように見えるだろう。また、彼には狙ったところに投げられるだけの制球力もある。


その真っすぐを、他の球種を生かすためにも使えるクレバーさを兼ね備えている。真っすぐの質が高いからこそ、相手は真っすぐを意識する。そのタイミングでスライダーやチェンジアップがくれば、相手はなかなか捉えられない。


彼は実に好奇心旺盛で、いろいろなことを知りたがっていた。常に新しいことを模索し、自分に磨きをかけようとしていた。


そんな姿を見てきたから、彼はおそらくメジャーへの適応でも問題ない。


むしろ、より高いレベルを目指し変化を遂げていくのではないか。誰よりも彼自身が、成長を楽しみにしているかもしれない。”


有難うトレバー、本当にその通りだ。


さあ、皆で今永昇太のシカゴでの大活躍を祈ろうではないですか。


彼ならきっとやってくれる。


頑張れ今永!


負けんなよ。