三浦監督の「あわよくば」と「やり返せ」に歯止めをかける人材が必要だ
三浦監督は選手時代、並外れた努力と工夫そしてやられたらやり返すという負けん気の強さで長年にわたってエースとして活躍した。
それはもちろん、プレイヤーとして素晴らしいことだ。
しかし、時としてプレイヤーとして目指すべきこととマネージメントとして配慮すべきことは対立する。
例えば、ある投手が苦手としているバッターに打たれた時、次の対戦までにストレートの球質を高めるなり、制球を改善するなり、緩急で惑わせるなりしてやり返そうと努力することはプレイヤーとしてあるべき姿だと思う。
しかし、監督の立場としては、自軍の投手がそれを成し遂げることを前提として采配をふるってしまってはリスクが大き過ぎる。
監督というものは、むしろ、その投手が今までも普通にできていることはできるが、それ以外はできない可能性が高い、つまり苦手なバッターには次回も打たれる可能性が高い、と仮定して戦術を組み上げる必要があると思う。
いや、それは少し言い過ぎかも知れない。これだと選手の成長が止まってしまい、長期的には別種のリスクが生じてしまう。
もう少し丁寧に言うと、キャンプやその後の練習、オープン戦、そしてシーズンの序盤戦では、各選手が出来ることと出来ないことの境界を見極めるために、無理筋と思えるような対戦に敢えて挑ませることは有意義だ。
そして、壁にぶつかってから、出来ることの範囲を広げるために、やられたらやり返せ、そのために努力しよう、という姿勢を持つことは重要だろう。
しかし、これはシーズン最終盤になりCS進出の可否がかかるこの時期にやるべきことではない。
今は、今シーズン中の選手達の伸び代はもはや無いとシビアに割り切って、各選手が普通に出来ることだけを組み合わせて勝つにはどうしたら良いかと言う短期的視点で戦術を考えるべき時期だ。
このブログでも何度か書いているが、三浦監督はプレイヤー脳で采配をふるうことがしばしばあるように見受けられる。
そして、今日の試合は久しぶりにそれが色濃くでた試合だった。
まず、今日の試合前の時点で4勝8敗、5月以降だと2勝7敗と負けがこんでおり、特にスワローズには防御率6.75と打ち込まれている石田健大を先発に起用したこと自体が、「やり返せ」というメッセージを含んでいるように感じる。
このことを三浦さんに聞くと、恐らく、そう言うデータがあることは勿論知っていますが、これからずっとヤクルト戦に投げないという訳には行かないですから、という答えが返って来るのだろう。
しかし、これは論点のすり替えと言うもので、これからずっと起用しないと言うような長期的な話をしている訳ではなく、シーズン最終盤のCSがかかった試合に使わないと言う選択肢はあるでしょう、と言う質問に答えてもらう必要がある。
その答えは無いはずだと思う。
使わない訳には行かないから石田を使ったのではなく、三浦さんは石田健大にやり返して欲しかったのだ。現役時代の自分自身のように。
そして、再三スワローズにリードされるも打線が奮起して2度追いつき、3-3の同点で迎えた5回裏。
そもそも調子の悪い長岡選手を一死からフォアボールで歩かせた時点で相当問題なのだが、送りバントで二死二塁となって打席には石田キラーの塩見選手。
この試合までの対戦成績は5打数4安打の打率.800、今日も初回に先制点を許すきっかけとなる先頭打者安打を許している相手だ。
ブルペンでは上茶谷大河と山﨑康晃が準備していた。
各選手は普通に出来ることしかできないと考えるのであれば、石田は塩見を抑えることはできず、痛い失点を喫してしまうだろうと予想する。
こう考えた指揮官は恐らく上茶谷をマウンドに送るだろう。
しかし、私が内心懸念していた通り、プレイヤー脳だった三浦監督の選んだ策は石田続投。
メッセージは勿論、「やり返そう」ということだ。
そして、この采配のはらんでいるリスクは現実のものとなり、塩見のツーベースヒットで1点を追加され、3-4と再びリードを許した。
ここで石田は降板し、上茶谷をマウンドに送ると、彼は一球で濱田選手をショートゴロに打ちとりスリーアウトチェンジ。
これまでの三浦さんの語録を見ていると、恐らく、塩見のところで上茶谷を出しておけば、と言うのは結果論ですね、というコメントが出てくるのだと思う。
しかし、それは少し違うのではないか。
この場面での石田続投は、今日の試合に勝つことよりも、「やり返そう」と言って石田の限界を越える成長を優先した采配なのだ。
もう一つには、「あわよくば」石田に5回を投げ切って貰って、6回から山崎、エスコバー、ウェンデルケン、森原という継投に入れないか、というちょっとした欲もあったのだろう。
この場合には上茶谷は使わないで済む。
6回表二死走者なしで1球しか投げていない上茶谷に代打戸柱を送ったのも、6回は頭から山﨑康晃と決めていたから、ということなのだろう。
何故かと言うと、これまでヤクルトに防御率5点台と打ち込まれている山﨑に「やり返せ」と言いたいから。
山﨑はヤクルトとカープに極端に打ち込まれているが、阪神、巨人、中日は良く抑えている。
上述したように、この期におよんでは普通に抑えられるこの3チームに特化して山﨑を使うということで良いではないか、と思う。
そして、秋季キャンプ以降にじっくりとヤクルトとカープ打線への対策を磨けば良い。
案の定、山﨑は山田哲人とオスナにホームランを打たれて2点を失い、3-6と試合は決した。
もう一つ言うと、8回二死一塁の場面で知野直人に代わって27打席ヒットなしという楠本泰史を起用したのも「やり返そう」と言うメッセージに他ならない。
このように、三浦さんの負けん気の強さは、結果的に成功確率の低い選択肢を敢えて選ぶと言う指揮官としては有害な側面を持っていると思う。
実際、今日の敗戦、そして、「勝ちにつなげられなかったのは私の責任です」という三浦監督のコメントを受けて、彼に辞任して欲しいと言う趣旨のことを書いている方も多いようだ。
しかし、三浦さんの人柄とそれに基づく求心力と言うのはチームを率いる上で非常に重要な要素であり、私は来季も彼の続投を支持したい。
ただ一つ、お願いしたいことは、三浦さんの「あわよくば」と「やり返せ」をここぞと言う時に抑えて、確率の高い選択肢を提言する参謀を擁立して欲しい。
この役割は、今季からチーフ作戦コーチを兼任している相川さんが負っているのかも知れないが、年下の彼が三浦さんの負けん気を抑えるのは難しいように思う。
こうして見ると、昨年までヘッドコーチを務めていた三浦さんよりも14歳年上の青山道雄さん(現在は一二軍巡回コーチ)の果たしてきた役目が朧げながら見えてくる。
球界屈指の野球通である青山さんは三浦さんの「あわよくば」と「やり返せ」が有用な時には後押しし、今日のようにここぞと言う時にはそれを抑える調節弁のような機能を果たしていたのでは無いだろうか?
来季の体制を考える上で、これはかなり重要なポイントになるような気がする。
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