mizuyashikiのブログ

横浜ベイスターズを中心にその時に考えていることを書きます。

ベイスターズの主力打者が速球に強いと言うアドバンテージをさらに活かすには



今日のオンラインの記事に「直球に強かったor弱かった球団は?」と言うものがあった。

https://news.yahoo.co.jp/articles/d97475f636d981b320def3c18c58ed300c65424a


この記事で使っているセイバーメトリクスの指標はwFAと言うもので、打者がストレートに対してどの程度得点につながるような結果(本塁打、安打、四球等)をあげているかを数値化したものである。


記事にも書かれている通り、12球団のトップはヤクルトでwFA =53.0、2位もセリーグの我がベイスターズで26.5という結果になっている。


投球の軸はやはりストレートなので、wFAの高いこの2球団は、チーム打率もヤクルトが .254(セリーグ3位)、ベイスターズが .258(同2位)となっている。


数年前だと広島の各打者はストレートに強いという印象があったが、今年はwFA = -5.6と悪化している。ただし、チーム打率は .264でトップ。ストレートに強くないが打率は良いということに理由についてはいつか改めて考えてみる必要がありそうだ。


それでは、他の球種についても同様の指標(打者がそれぞれの球種に対してどの程度得点につながるような結果(本塁打、安打、四球等)をあげているかを数値化したもの)を比較してみるとどうなるだろうか?


DELTAの公表しているデータに基づき整理した結果が下の表である。



ストレートに強いと言われるヤクルトとDeNAの他の球種に対する成績はかなり異なっている。簡単に言うと次のような傾向が明らかだ。


ヤクルトの各打者はストレートに加えて、カーブ、チェンジアップ、フォークに対して非常に良い成績をあげている。


投手から見ると、ストレートを軸にチェンジアップやカーブで緩急を使っても、あるいは、ストレートを見せておいてフォークを落としてもなかなか打ち取れないと言うことになる。


その一方で、ツーシーム、シュートやスライダーに対する成績はセリーグで最も悪いレベルであり、左右の揺さぶりには弱いと言う傾向が見られる。スライダーとツーシームの良いフェルナンド・ロメロ投手がヤクルトの対戦成績が比較的良い(防御率2.89)のはこの辺りに原因があるのかも知れない。


ベイスターズはどうだろうか?


ストレートには強く、左右の揺さぶりについてもヤクルトに比べてかなり良いが、はっきりと苦手としている球種が3つある。カットボールとチェンジアップそしてフォークボールで、対応する指標のwCT、wCH、wSF はどれもセリーグ最下位のレベルだ。


カットボールはストレートと球速や投球フォーム、リリースポイントがほぼ同じで、小さく横に滑りながら少し沈むと言う変化をする。いわゆる「動くボール」の一種と言って良いだろう。


右投手がカットボールを投げる場合は、左バッターの内角に投げこんで詰まらせる、右バッターの外角で変化させて打ち損じやゲッツーを狙うというのが最も効果的と言われている。


チェンジアップもストレートに近いフォームから投じられる遅い球で、打者のタイミングを外すのに有効とされる。

特定の握り方はなく、通常は指を縫い目にかけずに、ボールに力を伝わりにくくして球速差を出すことが多い。また、投手によってはシンカーに近かったり、あまり落ちなかったりなど変化に差があるのも特徴である。


フォークボールは人差し指と中指を大きく開いてボールを挟み込んで握る。

一般的には、ピッチャーがリリースしてからストレートと同じ軌道でキャッチャーをめがけて飛んでいき、ホームベース手前から沈む。


チェンジアップと比較すると、次のような違いがある。


球速:フォークボール > チェンジアップ

変化し始める早さ:フォークボール < チェンジアップ

チェンジアップの方が速く変化し始める


つまり、チェンジアップは球速を遅くし落差をつけることで、フォークボールは球速をあまり変えずに落差をつけて打者を打ち取るが、いずれも、ストレートと思ってスイングを始めた打者から空振りをとることのできる球種である。


ベイスターズの打者のチーム全体としての特徴は、ストレートに強く、左右の揺さぶりにも対応できるが、ストレートに似たフォームで投げられた手元で動くボール(カットボール)、緩いボール(チェンジアップ)、そして鋭く落ちるボール(フォーク)はかなり苦手としている、と言うことになる。


正直に言って、こんなに穴があって良くチーム打率リーグ2位になったものだと思う。

しかし、もう少し詳しく調べてみるとその理由がわかる。簡単に言うと、主力打者全員がこの三つを苦手としているわけではなく、相手投手の得意な球種に合わせて誰かがしっかり打ち返すことができているのだ。


下の表はベイスターズの主力打者それぞれの球種別の打撃成績をまとめたものである。



チーム全体の傾向と同じく、各選手ともストレート(フォーシーム)には強い。


カットボールについては、佐野選手を除いて各選手ともやや苦手としているようで、特に、牧選手はかなりはっきりした弱点となっている。


カットボールはストレートに近い球速なので、ストレートと同じように打ちに行ってしまいがちだが、そうすると小さく動いている分だけ打ち損じて凡打になってしまう。


そこで、カットボール打ちのコツは、スイングをワンテンポ遅らせて逆方向を狙うことだと言われている。そのためには、通常とは逆の位置(右バッターの場合は左斜め前)からトスをあげてもらい、速く外に逃げていくボールを打つ練習が有効だ。


学習能力の高い牧選手のことなので、鈴木尚典コーチや田代コーチの指導のもと、きっとカットボール打ちに開眼してくれるはずだ。


チェンジアップについてはどうだろうか?表を見ると、佐野選手がやや苦手、ソト選手がかなり苦手としているようだ。


5年ほど前になるが、チェンジアップを打てるバッターと打てないバッターの差を脳科学の観点からNTTが研究したと言うニュースがあり、日経新聞でその成果が説明されていた。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO13753430X00C17A3000000/


結果から言うと、チェンジアップを打てるバッターは投手がボールをリリースした0.25秒後には身体にタメを作って遅いボールが来るのを待つことができるが、打てないバッターは最後までストレートの場合と同じスイングをして空振りや凡打となってしまっている。


脳が判断した結果が身体に伝えられるのに0.2秒ほどかかるそうなので、チェンジアップを打てるバッターはリリース後0.05秒後までの間に投球フォームや手首の位置などからチェンジアップだと言う判断をしていることになる。


NTTではアイトラッカーで得られた眼球運動から打者の「注意範囲(特定位置に集中しているか、広い範囲をぼんやり捉えているか)」を推定して、注意範囲とパフォーマンスの関係性を検証する実験を併せて行なっている。

その結果、「注意範囲が広い選手は、判断の正確性(球種判定の成績)が高い」ことなどが分かっているという。この結果は、さまざまなスポーツや武道などの達人がボーッと見ることの重要性を指摘しているのと関係しているそうだ。

剣術では、相手の剣をじっと見ていたら隙ができるため、遠くの山を見るような「遠山の目付け」が"良し"とされ、打者も遠山の目付けがプラスに作用するのではないかとしている。


佐野選手とソト選手には、是非、遠山の目付けを会得してほしい。



フォークボールについては、オースティン選手が苦手としているようだ。実際、彼が真ん中低めのストレートをすくい上げてホームランにしたシーンも、そこからボールゾーンに落ちていくフォークボールを空振りするシーンも同じくらい見てきた気がする。


フォークボールへの対策としてよく言われていることは、まず、高めに目付をして低めは見極めると言うことだ。


フォークボールの得意なピッチャーはストライクからボールになる球を投げて来るので、しっかりと見極めてボールカウントを稼げば、どんどんバッターに有利になる。


低めの見極め方としては、重心を少し低くし、インパクトポイントもいつもより後ろにして、逆方向に打ち返すタイミングとイメージで待つことが重要となる。そうすれば、十分に手元まで引きつけ、ストライクかボールかを見極めることができる。


お化けフォークの千賀投手の低めに落ちるボールを宮﨑選手がしっかり見送って四球を選んだシーンが有名だが、フォークボールを苦手としていない宮﨑選手と牧選手はこれができる。


MLBのメガプロスペクトだったオースティン選手が宮﨑選手に師事してフォークの見極め方を会得しNPB仕様のスキルを身につければ、その時こそ、歴代最強打者として君臨することになるだろう。


こうしてみると、研究熱心でデータの分析に長けたDeNAのアナリスト達と優れたコーチ陣そして素質と熱意に溢れる我がベイスターズの強打者等が手をあわせてそれぞれの弱点を克服し、本来の強みであるストレートへの強さを最大限にはっきしてさらに怖い打線になることは確実なように思える。


もう何も恐れることはないのだ。